国内外の最新ガイドラインから考える心不全リスクを考慮した2型糖尿病治療

サイトへ公開: 2023年12月20日 (水)

日本糖尿病学会のコンセンサスステートメントでは、糖尿病は「前心不全状態」と考えられるとされています。国内外の最新ガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の位置付けとともに、心不全への影響を考慮した2型糖尿病治療の選択肢の一つ、ジャディアンスのエビデンスをご紹介します。

糖尿病における心不全発現リスクについての疫学

インスリン抵抗性を基盤とした糖尿病やメタボリックシンドロームは、心血管疾患の主要なリスク因子とされています1)。     
図は、2型糖尿病のある方を5つのリスク因子(HbA1c値高値、高血圧、LDLコレステロール値高値、アルブミン尿、喫煙)と年齢で群別し、それぞれの群での超過死亡率*1と心不全による入院の超過リスク*2のデータです。対照を2型糖尿病のある方と年齢、性別、居住地域をマッチさせた糖尿病のない方として、糖尿病および年齢層、リスク因子に起因するリスクを検討したところ、2型糖尿病のある方では、リスク因子がなくても全ての年齢層で心不全による入院の調整ハザード比が1を超えたと報告されました。

*1 リスクのない状態で予測される死亡率を上回る死亡率であり、想定したリスクに起因する死亡率を示す2)。ここでは、2型糖尿病のない群を対照(リスクのない状態)として、糖尿病、年齢層および5つのリスク因子に起因する死亡率について検討した。          
*2 想定したリスクのない状態で予測されるイベント発現率を上回るイベント発現率であり、ここでは、糖尿病、年齢層および5つのリスクに起因するイベント発現リスクを示す。

  1. 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版), p32, 2022年4月1日更新    
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(2023年10月13日閲覧)
  2. Checchi, F. & Roberts, L. Interpreting and Using Mortality Data in Humanitarian Emergencies (2005)    
    https://odihpn.org/wp-content/uploads/2005/09/networkpaper052.pdf (2005). (2023年11月9日閲覧)

実際に、糖尿病のある方の群を年齢・性別を一致させた糖尿病のない方の群と比較した調査では、心不全の有病率は、全ての年齢層で、糖尿病のある方の群が高かったと報告されました。          
両群でベースライン時に心不全の診断を受けていなかった方を対象とした30ヵ月での心不全の発症率についても、全ての年齢層で糖尿病のある方の群が高いという結果が得られ、糖尿病のある方では、心不全のリスクが高いことが示唆されました。          
また本調査では、45歳未満の群から85~94歳の群までは、年齢が上がるほど心不全の有病率・発症率とも高くなっていました。

国内外のガイドラインで示される心不全のリスクと心不全を考慮した糖尿病治療

日本糖尿病学会のコンセンサスステートメントにおいて、糖尿病のある方は「症状がなくても将来の心不全リスクが高い『前心不全状態』と考えられる」とされており、糖尿病治療では、心不全の評価と適切な治療が重要であることが示されました。

心不全を考慮した糖尿病治療について、『2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』では、心不全を合併した糖尿病に対するSGLT2阻害薬の投与が推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAとされました。

また、海外のガイドラインでは、2023年8月に公開された『2023年欧州心臓病学会(ESC)急性・慢性心不全診療ガイドライン フォーカスアップデート版』で2型糖尿病に対する心不全を考慮した推奨治療について言及されており、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンが推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAであるとされました。          
ESCのガイドラインの今回の改訂では、症候性HFmrEF患者(LVEF:41~49%)と症候性HFpEF患者(LVEF≧50%)に対する推奨が追加され、その両方に対して、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンが推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAであるとされました。          
なお、ジャディアンスの本邦における承認された効能又は効果(一部抜粋)は「2型糖尿病」(10mg・25mg)と「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。」(10mgのみ)であり、諸外国での承認状況とは異なります。

ジャディアンスのエビデンス① 2型糖尿病に対する血糖改善効果

ジャディアンスは、早期から心腎代謝連関を見据えた糖尿病治療における有用な選択肢の一つとしてのエビデンスが複数報告されています。          
ジャディアンスの血糖管理に関するエビデンスとして、今回は、日本で行われたEMPA-ELDERLY試験をご紹介します。EMPA-ELDERLY試験は、厚生労働省の患者調査で糖尿病のある方の77.2%を占めると報告された65歳以上の患者さん3)を対象に、糖尿病基礎治療に加えてジャディアンス10mgまたはプラセボを52週間投与し、HbA1cのベースラインからの変化量について検討しました。          
プラセボ群と比較したジャディアンス10mg群の52週時のHbA1cのベースラインからの調整平均変化量は-0.57%であり、ジャディアンス10mg群で有意なHbA1c低下作用を示し(p<0.0001、MMRM)、日本人高齢者2型糖尿病においてジャディアンス10mg 1日1回経口投与による血糖改善効果が確認されました。 

【参考情報】    
また、52週時のベースラインからの変化量の、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差は、体重が-2.37kg(p<0.0001)、筋肉量が-0.61kg(p=0.2310)、除脂肪体重が-0.53kg(p=0.1632)、体脂肪量が-1.84kg(p<0.0001)、体水分量が-0.63kg(p=0.0384)、骨格筋量指数が-0.08kg/m2(p=0.3725)、骨塩量が-0.03kg(p=0.1975)、握力が-0.3kg(p=0.4208)、5回椅子立ち上がりテストが0.0秒(p=0.9276、いずれもANCOVA)でした。          
本試験における有害事象の発現率は、ジャディアンス10mg群で73.8%(48/65例)、プラセボ群で71.9%(46/64例)でした。          
投与中止に至った有害事象は、それぞれ4.6%(3/65例)、4.7%(3/64例)、重篤な有害事象はそれぞれ12.3%(8/65例)、12.5%(8/64例)、死亡に至った有害事象はプラセボ群1.6%(1/64例)で、ジャディアンス10mg群では報告されませんでした。          
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で便秘10.8%(7/65例)、発熱6.2%(4/65例)等、プラセボ群で鼻咽頭炎、下痢が各6.3%(4/64例)等でした。

  [3] 厚生労働省 令和2年患者調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html(2023年10月18日閲覧)

ジャディアンスのエビデンス② 2型糖尿病における心血管イベントへの影響

EMPA-REG OUTCOME®心不全アウトカムでは、リスク因子(高血圧、脂質異常症等)に対してガイドライン等で推奨される標準治療(スタチン、ACE阻害薬、ARB、アスピリン、β遮断薬、カルシウム拮抗薬の投与等)を受けている2型糖尿病を対象に、ジャディアンスを標準治療に上乗せした場合の心不全に対する影響を検討しました。

【参考情報】          
ジャディアンス群ではプラセボ群と比較して、心不全による入院および心血管死の発現リスクが低下しました(HR=0.66、95%CI:0.55~0.79、p<0.001、Cox比例ハザードモデル)。さらに、心不全の有無別のサブグループ解析の結果において、ベースライン時に心不全がある場合、心不全がない場合ともハザード比の点推定値は1未満であることが示されました。

本試験での有害事象の発現率は、全体集団のジャディアンス10mg群で90.1%(2,112/2,345例)、25mg群で90.4%(2,118/2,342例)、プラセボ群で91.7%(2,139/2,333例)でした。主な有害事象、全体集団の重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。          
また、サブグループ解析での有害事象発現率はベースライン時に心不全がある場合でプラセボ群94.3%(230/244例)、ジャディアンス群89.4%(413/462例)、ベースライン時に心不全がない場合でプラセボ群91.4%(1,909/2,089例)、ジャディアンス群90.3%(3,817/4,225例)でした。          
主な有害事象は低血糖で、心不全がある場合でプラセボ群27.9%(68/244例)、ジャディアンス群24.9%(115/462例)、心不全がない場合でプラセボ群27.9%(582/2,089例)、ジャディアンス群28.1%(1,188/4,225例)でした。

ジャディアンスのエビデンス③ 左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(EMPEROR-Preserved試験)

LVEF 40%超の心不全患者を対象としたEMPEROR-Preserved試験は、前述のESCのガイドラインでもエンパグリフロジンに対する記述のエビデンスとして引用されました。          
本試験では、ジャディアンス10mgをACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRA等に追加することで、心血管死または心不全による入院の初回発現のリスクが有意に低下しました[HR=0.79、p<0.001(対プラセボ群)、Cox比例ハザード回帰モデル](検証的結果)。          
本試験での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で85.9%、プラセボ群で86.5%でした。          
ジャディアンス10mg群における主な有害事象は、心不全、尿路感染、低血圧、高血圧、転倒などでした。          
重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

2型糖尿病の薬物治療未治療の患者さんに対する糖尿病治療について

ここまで、2型糖尿病の治療選択にお役立ていただきたいデータを複数ご紹介いたしました。          
先生は、こちらのような2型糖尿病の薬物治療未治療の患者さんに対して、どのようなことを重視して、糖尿病治療を行っていらっしゃいますか。

心不全を考慮した糖尿病治療の選択肢として

糖尿病のある方は、心不全のリスクの高い状態と考えられることから、心不全への影響を考慮した治療選択が望まれます。          
SGLT2阻害薬であるジャディアンスに関して、近年、2型糖尿病の血糖改善効果と心不全に対する影響を示す複数のエビデンスが報告されました。          
心不全への影響を見据えた糖尿病治療の一つとして、ジャディアンスの処方をご検討ください。

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