心腎代謝連関のメカニズムを考慮した2型糖尿病治療戦略

サイトへ公開: 2023年02月28日 (火)
心腎代謝連関のメカニズムを考慮した2型糖尿病治療戦略

日常診療において、糖尿病治療では、どのようなことを重視されますか

図1

日常診療において、糖尿病治療では、どのようなことを重視されますか

HbA1c 7.6%、収縮期血圧129mmHg、LDL-C 127mg/dL。このような高血圧や脂質異常症等の合併症・併存症がなく、薬物療法を行っていない患者さんに対して、先生方はどのような点を重視して、糖尿病治療を行っていらっしゃいますか。

糖尿病の場合、高血圧、LDLコレステロール値高値等のリスクがない方でも
HHFのリスクは糖尿病のない方よりも高い

図2

糖尿病の場合、高血圧、LDLコレステロール値高値等のリスクがない方でも HHFのリスクは糖尿病のない方よりも高い

5つのリスク因子(HbA1c値高値、高血圧、LDLコレステロール値高値、アルブミン尿、喫煙)と心不全による入院(HHF)のリスクの相関を検討した報告では、2型糖尿病のない方を対照とした、2型糖尿病のある方におけるHHFの調整ハザード比が、年齢、リスク因子の数に関わらず1を超えたと報告されました。
すなわち、糖尿病の場合、高血圧、LDLコレステロール値高値等のリスクがない方でもHHFのリスクは糖尿病のない方よりも高いことが示唆されました。

図3

糖尿病の場合、高血圧、LDLコレステロール値高値等のリスクがない方でも HHFのリスクは糖尿病のない方よりも高い

糖尿病では、前糖尿病(Pre-diabetes)の段階から血管内皮機能障害が出現し、血管の硬化が生じ、特に収縮期血圧が上昇します。心血管イベントは前糖尿病段階から生じ、糖尿病の期間が長くなるとアテロームが形成され、心血管イベントリスクがさらに上昇します。

糖尿病と心血管疾患・CKDは相互に連関する

図4

糖尿病と心血管疾患・CKDは相互に連関する

心腎代謝系は相互に悪影響を及ぼすことが知られています。
糖尿病の合併症の発症、進展を阻止して、糖尿病のない方と変わらない寿命とQOLの実現を目指すことが、糖尿病治療の目標の一つです1

ADAコンセンサスレポート2022の推奨による心不全リスク分類と糖尿病に対する治療戦略

図5

ADAコンセンサスレポート2022の推奨による心不全リスク分類と糖尿病に対する治療戦略

近年の糖尿病に対する治療戦略では、包括的なアプローチが推奨されています。
ADAコンセンサスレポート2022では、心不全ステージ分類において、糖尿病を心不全高リスクであるステージAに位置付け、心不全に関連するバイオマーカーであるNT-proBNPやBNP、hs-cTNを1年に1回以上検査することを推奨しています。また、糖尿病の心不全に対する集学的治療として、ステージAの段階で、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、メトホルミンによる血糖マネジメントが望ましいとしています。
SGLT2阻害薬のジャディアンスは、2型糖尿病や慢性心不全に対する数々のエビデンスが報告されています。今回は、糖尿病と心不全に関連する3つの臨床成績をご紹介します。

※ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

ジャディアンスのエビデンス
①2型糖尿病における血糖値への影響

図6

①2型糖尿病における血糖値への影響

ジャディアンスの、早期からの心腎代謝連関を見据えた糖尿病治療につながりうるエビデンスが複数報告されています。
まずは、ジャディアンスの長期にわたる血糖マネジメントに関するエビデンスです。
食事・運動療法で血糖マネジメントが不十分(HbA1cが7.0%以上かつ10.0%以下)で薬物療法を行っていない2型糖尿病899例を対象としたEMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONO試験では、投与76週後においてジャディアンス群およびシタグリプチン群でHbA1cがベースラインよりも低下し、その調整平均変化量は、ジャディアンス10mg群で-0.65%、25mg群で-0.76%、シタグリプチン100mg群で-0.53%であったと報告されました。
なお、本試験で報告された有害事象は、ジャディアンス10mg群76.8%(172/224例)、25mg群78.0%(174/223例)、シタグリプチン100mg群72.2%(161/223例)、プラセボ群76.4%(175/229例)に認められました。
投与中止に至った有害事象はそれぞれ4.9%(11/224例)、4.0%(9/223例)、4.9%(11/223例)、6.6%(15/229例)、重篤な有害事象はそれぞれ11.2%(25/224例)、7.2%(16/223例)、8.1%(18/223例)、10.0%(23/229例)に認められ、死亡に至った有害事象はシタグリプチン100mg群0.4%(1/223例)、プラセボ群0.4%(1/229例)に認められました。投与中止に至った有害事象、および重篤な有害事象の内訳については、論文に記載がありませんでした。
いずれかの群で5%以上となった主な有害事象はのとおりでした。

ジャディアンスのエビデンス
②2型糖尿病における心不全への影響

図7

②2型糖尿病における心不全への影響

EMPA-REG OUTCOME®試験は、リスク因子(高血圧、脂質異常症等)に対してガイドライン等で推奨される標準治療(スタチン、ACE阻害薬、ARB、アスピリン、β遮断薬、カルシウム拮抗薬の投与等)を受けている2型糖尿病を対象に実施しました。主要評価項目は図の通りで、事前に規定されたその他の評価項目は心不全による入院および心血管死の複合エンドポイント、心不全による入院、全死亡でした。また、事前に規定されたベースライン特性(心不全あり/なし)別のサブグループ解析を行いました。

図8

②2型糖尿病における心不全への影響 02

安全性

  ベースライン時に心不全あり ベースライン時に心不全なし
プラセボ群(n=244) ジャディアンス群(n=462) プラセボ群(n=2,089) ジャディアンス群(n=4,225)
有害事象を
発現した患者数
230(94.3%) 413(89.4%)  1,909(91.4%)   3,817(90.3%)
高度な有害事象を
発現した患者数
78(32.0%) 135(29.2%) 514(24.6%) 965(22.8%)
重篤な有害事象を
発現した患者数
126(51.6%) 202(43.7%) 862(41.3%) 1,587(37.6%)
死亡した患者数 25(10.2%) 35(7.6%) 94(4.5%) 141(3.3%)
治験中止に至った有害事象を発現した患者数 62(25.4%) 99(21.4%) 391(18.7%) 714(16.9%)
主な有害事象
 低血糖 68(27.9%) 115(24.9%) 582(27.9%) 1,188(28.1%)
 うち介助を必要とするもの 1(0.4%) 5(1.1%) 35(1.7%) 58(1.4%)

治験薬中、または最終の治験薬投与後7日以内に起こった有害事象

※表は論文の記載の通りとした。

※投与中止に至った有害事象、重篤な有害事象、死亡および低血糖以外の主な有害事象の内訳について論文に記載がなかった。

効能又は効果、用法及び用量、禁忌を含む注意事項等情報等については電子添文をご確認ください。
Fitchett D, et al.: Eur Heart J. 2016; 37(19): 1526-34. (Suppl.)より改変 本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により行われました。

【参考情報】
心不全による入院(HHF)について、ジャディアンス群のプラセボ群に対するハザード比は0.65でした(95%信頼区間:0.50~0.85、Coxの回帰分析)。さらに、心不全の有無別のサブグループ解析の結果において、ベースライン時に心不全がない場合および心不全がある場合、ジャディアンス群のプラセボ群に対するハザード比はそれぞれ0.59、0.75でした(95%信頼区間:0.43~0.82、0.48~1.19、Coxの回帰分析)。
本試験での有害事象の発現率は、ベースライン時の心不全がある場合でプラセボ群94.3%(230/244例)、ジャディアンス群89.4%(413/462例)、ベースライン時の心不全がない場合でプラセボ群91.4%(1,909/2,089例)、ジャディアンス群90.3%(3,817/4,225例)でした。投与中止に至った有害事象、重篤な有害事象および死亡の発現率は、こちらの表のとおりで、それぞれの内訳について論文に記載がありませんでした。
主な有害事象は低血糖で、心不全がある場合でプラセボ群27.9%(68/244例)、ジャディアンス群24.9%(115/462例)、心不全がない場合でプラセボ群27.9%(582/2,089例)、ジャディアンス群28.1%(1,188/4,225例)に認められました。

ジャディアンスのエビデンス
③左室駆出率が保たれた(>40%)慢性心不全に対する効果(日本人集団)

※ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

図9

③左室駆出率が保たれた(>40%)慢性心不全※に対する効果(日本人集団)

EMPEROR-Preserved試験の事前規定されたサブグループ解析として、日本人集団におけるジャディアンスの有効性と安全性の評価も行いました。

図10

③左室駆出率が保たれた(>40%)慢性心不全※に対する効果(日本人集団)02

日本人集団において、ジャディアンス10mgを標準治療 (ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRA等)に追加した結果、心血管死またはHHFの初回発現のリスクが低下しました。

図11

③左室駆出率が保たれた(>40%)慢性心不全※に対する効果(日本人集団)03

日本人集団における安全性

治験薬投与期間中央値2.15年での有害事象発現率は、ジャディアンス群で92.5%(196/212例)、プラセボ群で94.1%(193/205例)でした。

有害事象の概要

n(%) プラセボ
(n=205)
ジャディアンス10mg
(n=212)
有害事象 193(94.1) 196(92.5)
重篤な有害事象 110(53.7) 104(49.1)
投与中止に至った有害事象 22(10.7) 32(15.1)
死亡に至った有害事象 14(6.8) 10(4.7)

同一患者が複数の重篤カテゴリーでカウントされている場合がある。

n(%) プラセボ
(n=205)
ジャディアンス10mg
(n=212)
有害事象 193(94.1) 196(92.5)
(いずれかの群の発現割合が10%以上)
上咽頭炎 52(25.4) 60(28.3)
心不全 31(15.1) 24(11.3)
転倒 18(8.8) 31(14.6)
便秘 21(10.2) 28(13.2)
背部痛 26(12.7) 18(8.5)
挫傷 14(6.8) 22(10.4)
重篤な有害事象 110(53.7) 104(49.1)
(いずれかの群の発現割合が2%以上)
心不全 31(15.1) 24(11.3)
慢性心不全 15(7.3) 18(8.5)
白内障 5(2.4) 7(3.3)
心房細動 6(2.9) 6(2.8)
譫妄 6(2.9) 2(0.9)
肺炎 6(2.9) 2(0.9)
脳梗塞 3(1.5) 6(2.8)
認知症 2(1.0) 6(2.8)
冠動脈狭窄 5(2.4) 2(0.9)
投与中止に至った有害事象 22(10.7) 32(15.1)
(いずれかの群の発現割合が1%以上)
心不全 2(1.0) 2(0.9)
急性心不全 2(1.0) 0
死亡に至った有害事象 14(6.8) 10(4.7)
(いずれかの群の発現割合が0.5%以上)
急性心不全 2(1.0) 0
心停止 1(0.5) 0
心不全 1(0.5) 1(0.5)
慢性心不全 1(0.5) 0
心筋梗塞 1(0.5) 0
急性心筋梗塞 0 1(0.5)
心肺停止 0 1(0.5)
死亡* 1(0.5) 0
溺死 1(0.5) 0
脳出血 0 2(0.9)
意識変容状態 1(0.5) 0
視床出血 1(0.5) 0
間質性肺疾患 0 2(0.9)
窒息 1(0.5) 0
敗血症 1(0.5) 0
肺炎 0 1(0.5)
硬膜下出血  1(0.5) 0
肺扁平上皮癌 1(0.5) 0
肺の悪性新生物 0 1(0.5)
虚血性大腸炎 0 1(0.5)

(MedDRA v23.1 基本語に基づく。 *治験担当医師が他のPTに起因しないと判断した死亡例。
効能又は効果、用法及び用量、禁忌を含む注意事項等情報等については電子添文をご確認ください。

(社内資料:左室駆出率が保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(電子添文改訂時の評価資料)

日本人集団において、心血管死またはHHFの初回発現は、ジャディアンス10mg群で10.4%(22/212例)、プラセボ群で16.1%(33/205例)に認められ、ジャディアンス10mg群ではプラセボ群に対して、心血管死またはHHFの初回発現のリスクが低下しました(HR=0.58、95%信頼区間:0.34~1.00、Cox比例ハザード回帰モデル)。
さらに、ベースライン時の糖尿病合併の有無別サブグループ解析において、心血管死またはHHFの初回発現のリスクのハザード比は、ジャディアンス10mg群で0.56(95%信頼区間:0.24~1.34)、プラセボ群で0.59(95%信頼区間:0.29~1.19)でした。
なお、日本人集団において報告された有害事象は、ジャディアンス10mg群で92.5%、プラセボ群で94.1%、重篤な有害事象は、それぞれ49.1%、53.7%、投与中止に至った有害事象は、それぞれ15.1%、10.7%、死亡に至った副作用は、それぞれ4.7%、6.8%でした。
いずれかの群で10%以上となった主な有害事象、2%以上となった重篤な有害事象、1%以上となった投与中止に至った有害事象、0.5%以上となった死亡に至った有害事象の内訳は、のとおりでした。

図12

日本人集団における安全性

SGLT2阻害薬であるジャディアンスは、2型糖尿病治療薬として、初期投与量の10mg錠から25mg錠への増量が可能です。
また、DPP-4阻害薬であるトラゼンタとの配合錠、トラディアンスを選択していただくことで、剤型や錠数を変えずに糖尿病の治療強化を行うことができます。

2型糖尿病がある方に対する合併症リスク低減を考慮した糖尿病治療の選択肢として、ジャディアンスをご検討ください。

【引用】

  1. 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2022-2023, p31-33, 文光堂, 2022..
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