心血管腎臓病の病態連関 を考慮した2型糖尿病治療の重要性

サイトへ公開: 2022年11月28日 (月)
  • 心血管腎臓病の病態連関を考慮した2型糖尿病治療を実践するためには、医療連携の体制を充実させ、診療科横断的に心血管腎臓病 病態連関のマネジメントに注力することが重要です。
  • 糖尿病合併症の予防にあたって、eGFRが60mL/分/1.73㎡未満・以上のいずれであっても、アルブミン尿を呈する場合は適切な治療介入が必要です。
  • ジャディアンスの有効性・安全性について検討した国際共同試験EMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONOにおいて、ジャディアンス群ではプラセボ群に比べてHbA1cの有意な低下が認められています。
  • EMPA-REG OUTCOME®試験の尿中アルブミン/クレアチニン比に関するサブグループ解析において、ジャディアンス群ではプラセボ群に比べてeGFRのベースラインからの低下が遅かったという結果が得られています。

2型糖尿病の治療の目標

糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することであり、そのためには、血糖や血圧、脂質といった多くの因子を包括的に管理し、合併症の発症・進展を阻止していくことが重要です。
糖尿病のある人における初発イベントは脳心血管病・腎臓病が多く、高血糖に加えて、脂質異常症、高血圧、喫煙、肥満などがこれらのイベントを増加させるリスク因子であることが示唆されています。

心血管腎臓病の病態連関を考慮した2型糖尿病治療の重要性

脳心血管病・腎臓病・高血圧ならびに代謝性疾患は異なるものですが互いに密接に関連しており、糖尿病治療の目標を達成するためには、将来の心腎のイベントを早期から意識して、複数のリスク因子を包括的に治療することが重要です。また糖尿病の初期に、患者さん本人に、症状はなくとも血糖マネジメントなどについて認識していただき、治療への理解・協力を得る、ひいては服薬実施率を上げることが治療の下地をつくるうえで理想的といえます。そのためには、患者さんと接する機会の多いメディカルスタッフを通して、患者さんへ疾患や治療について説明することが重要であり、医療連携の体制を充実させることが大切です。加えて、医療現場の実情に合わせた明確な紹介基準を設けることで、他施設との紹介・逆紹介を円滑に行えるようにすることも、医療連携の体制を支えるためには重要です。

心血管腎臓病の病態連関を考慮した2型糖尿病治療の重要性

それぞれの診療科で注目する臨床的な指標は、循環器内科では心不全(心血管イベント)に関連するBNPまたはNT-proBNP、腎臓内科では尿アルブミン、内分泌・糖尿病内科では血糖値とそれぞれ異なるものですが、最終的な目標は患者さんの健康寿命の延伸という同一のものであるという認識のもとに、密接に連携して情報共有を行い、脳心血管病、腎臓病、高血圧ならびに代謝性疾患の病態連関に関する、診療科横断的なマネジメントに注力することが重要です(図1)。
腎機能に着目すると、eGFR<60mL/分/1.73㎡のステージG3aから治療介入するべきか、eGFR<45mL/分/1.73㎡のステージG3bから治療介入するべきかの議論はありますが、将来的な合併症の予防を考慮した場合、eGFRの値によらずアルブミン尿を呈する場合は治療介入が必要であり、早期に介入することが、将来的なイベントを抑制するうえでは大切です。;

心血管腎臓病の病態連関を考慮した2型糖尿病治療の重要性02

図1

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONO)

SGLT2阻害薬ジャディアンスの有効性・安全性について検討した国際共同試験であるEMPA-REG EXTENDᵀᴹ MONOから、ジャディアンスの血糖降下作用のデータをお示しします。
試験概要はこちらに示す通りで、2型糖尿病のある人に対してジャディアンス10mgまたは25mgを1日1回投与し、その有効性や安全性をプラセボあるいはシタグリプチン100㎎と比較検討を行いました(図2)。
ジャディアンス群およびシタグリプチン群では、投与76週後におけるベースラインからのHbA1cの調整平均変化量は、ジャディアンス10mg群で-0.65%、25mg群で-0.76%、シタグリプチン100mg群で-0.53%と、いずれもプラセボ群と比べて有意に低下しました(図3)。
本試験における有害事象は、ジャディアンス10mg群76.8%(172/224例)、ジャディアンス25mg群78.0%(174/223例)、シタグリプチン群72.2%(161/223例)、プラセボ群76.4%(175/229例)に認められました。
投与中止に至った有害事象はジャディアンス10mg群4.9%(11/224例)、ジャディアンス25mg群4.0%(9/223例)、シタグリプチン群4.9%(11/223例)、プラセボ群6.6%(15/229例)に認められました。
重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群11.2%(25/224例)、ジャディアンス25mg群7.2%(16/223例)、シタグリプチン群8.1%(18/223例)、プラセボ群10.0%(23/229例)に認められました。
主な有害事象は、高血糖がそれぞれ8.9%(20/224例)、4.9%(11/223例)、12.6%(28/223例)、27.5%(63/229例)、鼻咽頭炎がそれぞれ 14.3%(32/224例)、11.2%(25/223例)、12.1%(27/223例)、11.8%(27/229例)に認められました(図4)。

※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について、論文に記載はありませんでした。

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTEND MONOTM)

図2

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTEND MONOTM)02

図3

2型糖尿病に対するジャディアンスのエビデンス:血糖降下作用(EMPA-REG EXTEND MONOTM)03

図4

また、心血管イベントのリスクを有し、2型糖尿病のある人7,020例を対象として、標準治療に上乗せした場合のジャディアンス群とプラセボ群の心血管イベントへの影響を調べる目的で、EMPA-REG OUTCOME®試験が実施されました。主要評価項目は3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発現率、副次評価項目は4P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院)の発現率です。
【参考情報】
本試験において、心血管イベントへの影響が検証されています。腎複合イベントの1つである顕性アルブミン尿への進展について、標準治療にジャディアンスを上乗せすることで、プラセボ群16.2%(330/2,033例)に対してジャディアンス群11.2%(459/4,091例)と有意に低いリスクが観察されたというデータが示されています1)2)

本試験における有害事象は、ベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群95.1%(577/607例)、ジャディアンス群91.3%(1,107/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群90.5%(1,562/1,726例)、ジャディアンス群89.9%(3,121/3,473例)に認められました。
投与中止に至った有害事象は、ベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群27.5%(167/607例)、ジャディアンス群22.9%(278/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群16.6%(286/1,726例)、ジャディアンス群15.4%(535/3,473例)に認められました。
重篤な有害事象は、ベースライン時のeGFR<60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群52.9%(321/607例)、ジャディアンス群45.5%(552/1,212例)、ベースライン時のeGFR≧60mL/min/1.73㎡の患者において、プラセボ群38.6%(667/1,726例)、ジャディアンス群35.6%(1,237/3,473例)に認められました。死亡はそれぞれ6.6%(40/607例)、5.6%(68/1,212例)、4.6%(79/1,726例)、3.1%(108/3,473例)でした。
主な有害事象は、低血糖がそれぞれ38.4%(233/607例)、32.3%(391/1,212例)、24.2%(417/1,726例)、26.3%(912/3,473例)、尿路感染がそれぞれ21.7%(132/607例)、22.9%(278/1,212例)、16.9%(291/1,726例)、16.2%(564/3,473例)でした1)

※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について論文に記載はありませんでした。

ジャディアンスのアルブミン尿に対する影響(EMPA-REG OUTCOME®試験腎アウトカム:尿中アルブミン/クレアチニン比に関するサブグループ解析)

EMPA-REG OUTCOME®試験において、ジャディアンスのアルブミン尿に対する短期および長期的な影響を検討する目的で、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)に関するサブグループ解析が行われました。18歳以上で心血管イベントのリスクを有し2型糖尿病のある人を対象に、プラセボ群、ジャディアンス10mg群、ジャディアンス25mg群に1:1:1で割り付けし、それぞれ1日1回投与しました(図5)。
【参考情報】
解析対象集団のベースライン時の腎機能に関して、eGFR低下例で顕性アルブミン尿を呈さないDKD患者1,290例(eGFR<60mL/分/1.73㎡かつUACR≦300mg/g)、eGFRにかかわらず顕性アルブミン尿を呈するDKD患者769例(UACR>300mg/g)を組み入れています(図6)。

ジャディアンスのアルブミン尿に対する影響

図5

ジャディアンスのアルブミン尿に対する影響02

図6

【参考情報】eGFRへの影響
ジャディアンス群およびプラセボ群の投与192週における調整平均eGFRは、図に示す通りです(図7)。

【参考情報】eGFRへの影響

図7

有害事象

本試験における有害事象は、ベースライン時に正常アルブミン尿の患者において、プラセボ群90.8%(1,255/1,382例)、ジャディアンス10mg群88.6%(1,245/1,405例)、ジャディアンス25mg群89.4%(1,237/1,384例)、ベースライン時に微量アルブミン尿の患者において、プラセボ群92.9%(627/675例)、ジャディアンス10mg群91.6%(591/645例)、ジャディアンス25mg群91.1%(631/693例)、ベースライン時に顕性アルブミン尿の患者において、プラセボ群94.2%(245/260例)、ジャディアンス10mg群92.7%(242/261例)、ジャディアンス25mg群94.0%(233/248例)に認められました。
投与中止に至った有害事象はそれぞれ17.1%(236/1,382例)、15.7%(221/1,405例)、15.1%(209/1,384例)、21.2%(143/675例)、18.0%(116/645例)、17.6%(122/693例)、27.7%(72/260例)、28.0%(73/261例)、25.4%(63/248例)に認められました。
重篤な有害事象はそれぞれ39.2%(542/1,382例)、33.9%(476/1,405例)、35.5%(492/1,384例)、44.3%(299/675例)、40.3%(260/645例)、41.1%(285/693例)、55.4%(144/260例)、47.5%(124/261例)、51.6%(128/248例)に認められました。死亡はそれぞれ3.8%(52/1,382例)、3.7%(52/1,405例)、2.8%(39/1,384例)、7.0%(47/675例)、3.7%(24/645例)、3.5%(24/693例)、7.7%(20/260例)、7.7%(20/261例)、6.5%(16/248例)でした。
主な有害事象は、低血糖がそれぞれ25.6%(354/1,382例)、26.8%(376/1,405例)、26.1%(361/1,384例)、28.7%(194/675例)、28.8%(186/645例)、28.4%(197/693例)、37.3%(97/260例)、31.0%(81/261例)、33.5%(83/248例)であり、尿路感染症がそれぞれ16.8%(232/1,382例)、17.4%(244/1,405例)、15.6%(216/1,384例)、20.1%(136/675例)、18.1%(117/645例)、21.5%(149/693例)、20.8%(54/260例)、21.8%(57/261例)、20.2%(50/248例)でした(図8)。

※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について論文に記載はありませんでした。

有害事象

図8

心血管腎臓病の病態連関を考慮した2型糖尿病治療においては、アルブミン尿が認められるとeGFR低下が早いため早期のアルブミン尿測定は重要です。それぞれの診療科で注目する臨床的な指標は異なりますが、各指標の測定結果を受けて循環器内科、腎臓内科、内分泌・糖尿病内科で密接に連携して情報共有を行い、診療科横断的な心血管腎臓病 病態連関のコントロールに注力することが、理想的な2型糖尿病治療の実現の第一歩となるでしょう。

References:

  1. Wanner C, et al. N Engl J Med. 2016; 375: 323-34.
    本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により実施されました。
  2. Stamatouli AM, et al. Curr Diab Rep. 2016; 16: 131.
    本試験はベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社の支援により実施されました。
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