今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性
![今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_1.png)
近年、糖尿病をはじめとして、生活習慣病に対する薬剤は選択の幅が大きく広がっており、治療の選択肢が増えている。本日は、その様な中で何を重視して2型糖尿病の治療を行うべきかについて、糖尿病専門医の立場から、国際医療福祉大学医学部 教授 国際医療福祉大学三田病院 糖尿病・内分泌内科 部長 坂本昌也 先生に、「2型糖尿病の治療方針と薬剤選択の考え方」についてお伺いします。
坂本先生は500例の2型糖尿病患者さんを診ておられます。罹病期間の長い患者さんが多く、2型糖尿病以外にも高血圧や脂質異常症を合併しているケースがほとんどです。約7割の患者さんは、糖尿病性合併症を発症しています。
Q.先生の2型糖尿病の治療方針について教えてください。
細小血管障害や大血管障害(脳梗塞・心筋梗塞)は勿論の事、予備軍を含んだ心不全や腎不全、認知症、フレイル・サルコペニア等、2型糖尿病患者さんを取り巻く多くの合併症を考慮しながら治療しています。
心血管合併症の抑制という観点では、ABCSをしっかりコントロールする事を重視しています。AはHbA1c、BはBlood pressure、CはLDL-Cholesterol、SはSmoking(禁煙)です。この4つが心血管イベントにおけるリスク因子であり1)、2型糖尿病患者さんにおける総死亡や心血管イベントのリスクは、これら4つの危険因子を複数合併すると著しく上昇します。2)
また、心不全予防という観点では、まずは2型糖尿病の初期段階から心不全、なかでも拡張能障害を意識した治療を実施しています。これまでの研究から、65歳以上の2型糖尿病患者さんでは、3割程度が拡張能障害を有している事が明らかになっています。3)また、一度心不全を発症してしまうと、身体機能の低下速度は著しく速くなるので、心不全をいかに予防していくかが大事であると考えます。例え血糖値が良くても、血糖変動が大きかったり、血圧変動が大きい、あるいは喫煙している2型糖尿病患者さんでは、心不全ステージBの可能性もあると考えています。特に、心腎連関と言われている様に、心機能の低下は腎機能への低下にも影響を及ぼしているので、心不全予防には早期から介入する様に心掛けています。
図1
![今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性3](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_3.png)
Q.2型糖尿病治療の薬剤選択において、どのようなことを重視されていますか?
血糖降下作用は勿論、合併症に対するエビデンスも重視しています。例えば、早期の2型糖尿病患者さんでも、血圧やBMI、空腹時血糖値、コレストロールの長期変動が心不全のリスクになるので4)、その様な患者さんには心不全に対してエビデンスがある薬剤を選択します。
また、患者さんのABCにおける変動においては、日内変動・季節変動等、多様な変動があり、それが何によってもたらされているのかを考えた上で、薬剤を選択する様にしています。例えば、日本人では冬場に血糖があがりますが、それ以外にも今年はコロナ太りも考慮して、体重への影響を考慮した薬剤を選択する事も考えます。治療継続という点では、患者さん個人で頑張れる事と頑張れない事があるという認識を持ち、インスリン分泌が悪い人には分泌を支える薬剤を選択したり、残薬が多い患者さんにはなるべく配合剤を選択するという事も大切です。
Q.SGLT2阻害薬ジャディアンスの有用性についてどのようにお考えでしょうか?
ジャディアンスは作用機序の観点から、空腹時血糖ならびに食後血糖にいずれにおいても改善効果があります。2型糖尿病患者さんの将来的な心不全を含めた心血管疾患や腎イベントを見据えるという点では、ジャディアンスは心血管・腎イベントに関する大規模臨床試験およびアジア人における実臨床試験のエビデンスがあります。また、さらなる血糖降下が必要な場合は、同じく1日1回1錠のトラディアンス配合錠へ切り替える事で治療強化できる事も、有用であると考えています。
図2
![934【JAD】今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_6.png)
ジャディアンスデータ
ジャディアンス国際共同試験・検証試験
本試験では、対象をジャディアンス10mg、25mg、プラセボ、またはシタグリプチン100mg に無作為割り付けし、1日1回24週間経口投与し、さらに52週間延長投与しました。また、EMPA-REG MONOTM試験に参加して24週間の投与期間を完了した患者のうち、除外基準に抵触しない患者についてさらに52週間延長投与し、プラセボおよびシタグリプチン100mg群と探索的な比較を行いました。
図3
![今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性7](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_10_0.png)
HbA1c低下作用
投与76週後におけるHbA1cのベースラインからの調整平均変化量は、プラセボ群の+0.13%と比較して、ジャディアンス10mg群では-0.65%、ジャディアンス25mg群では-0.76%と有意な低下が認められました。
図4
![今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性10](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_13_0.png)
安全性
本試験における有害事象は、ジャディアンス10mg群76.8%(172/224例)、ジャディアンス25mg群78.0%(174/223例)、シタグリプチン群72.2%(161/223例)、プラセボ群76.4%(175/229例)に認められました。
主な有害事象は、高血糖がそれぞれ8.9%(20/224例)、4.9%(11/223例)、12.6%(28/223例)、27.5%(63/229例)、鼻咽頭炎がそれぞれ14.3%(32/224例)、11.2%(25/223例)、12.1%(27/223例)11.8%(27/229例)などでした。
図5
![今、改めて考えるSGLT2阻害薬の必要性 13](/jp/sites/default/files/inline-images/M_MET_092_16_0.png)
まとめ
2型糖尿病患者さんの治療においては、合併症の発症を抑制する事が大切です。その為には、将来的にイベントを起こす可能性があるという認識を持ち、ABCSという4つの因子およびその変動に対して早期から集学的にアプローチしていく事が重要です。
【引用】
- Gabriela B et al., Diabetes Care 2015 Mar; dc141877.
- Framingham study, Hypertension 2011
- Masayo Kawano et al, J. Japan Diab. Soc. 53(7): 476-482, 2010
- Kwon S et al. Int J Cardiol. 2019 Jun 20.