心腎連関を考慮した2型糖尿病の新たな治療戦略

サイトへ公開: 2022年04月27日 (水)
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糖尿病の治療では、健康な人と変わらない寿命を確保するとともに、健康な人と変わらない人生を目指し、合併症の発症、進展を阻止することが重要です1
糖尿病合併症の発症および進展に関して、その病態基盤として注目されている心腎連関について、血行力学的な視点から東條克能先生にご解説いただきました。

【Q】心不全の病態は、心腎連関を介してどのような影響を受けるのか?

【【A】腎髄質血流の低下をきたすことで尿細管におけるナトリウム再吸収を促進し、体液貯留に至る心不全悪化の悪循環が形成されると考えられます2

心不全の進行に伴い、低潅流、交感神経活動の上昇などによって表在糸球体の糸球体濾過量(GFR)が低下すると考えられます。
その一方で、傍髄質糸球体のGFRが増加するため、ヘンレ係蹄上行脚髄質部(mTAL)に到達するナトリウム量が増大し、それによりmTALにおける活性酸素種の産生が増加することで、隣接する血管が収縮して、腎の髄質血流が減少すると考えられます。その結果、心不全では体液量が過剰であるにもかかわらず、腎臓には「体液量が少ない」というシグナルが送られる状態となり、尿細管におけるナトリウムの再吸収が促進されて、体液量が増加し、心不全が悪化するという悪循環が形成されると考えられます2

図1

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【Q】心血管疾患における体液量の増加が、心腎連関に及ぼす影響は?

【A】中心静脈圧(CVP)上昇をきたし、腎機能低下と関連すると考えられます3

心血管疾患では、血行動態、神経体液性因子、腎実質の病理的変化によって腎臓内の血流が複雑な影響を受けます4
心拍出量低下は、腎血流量の減少により腎機能を低下させると考えられ4)、その一方で、心血管疾患における体液量の増加は、CVPの上昇によりGFRの減少といった腎機能低下をきたすことが報告されています3

図2

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【Q】CVPを評価する臨床的意義とは?

【A】CVPの上昇は、血圧や心機能と比べて腎機能低下により大きく関与し5、また、CVPが高いほど生存率が低下することが報告されました3

非代償性心不全で入院した患者を対象に、腎機能低下に関連する因子を探索した研究において、CVPの上昇は血圧や心機能などと比べてより大きく関与することが示されました5

図3

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また、右心カテーテル検査を受けた患者を対象に、CVP別に死亡リスクを検討した研究では、中央値10.7年の追跡期間において、CVPが高いほど生存率が低下することが報告されました3

図4

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糖尿病における心血管死の発現リスクは、糖尿病のない⼈に⽐べて8 倍増加すると推定されていますが6、心機能の低下と腎機能の低下は相互に連関し、悪影響を及ぼし合います。
このような悪循環を起こさないためにも、糖尿病では早期から合併症予防を見据えた治療を行うことが重要です。

【引用】

  1. 日本糖尿病学会編・著: 糖尿病治療ガイド2020-2021, 文光堂, 2020. P31.
  2. 伊藤貞嘉: 心臓. 2009; 41(7): 733-8.
  3. Damman K, et al.: J Am Coll Cardiol. 2009; 53(7): 582-8.
  4. Gnanaraj JF, et al.: Kidney Int. 2013; 83(3): 384-91.
  5. Mullens W, et al. J Am Coll Cardiol. 2009; 53(7) 589-96
  6. Bergenstal RM et al.: Am J Med. 2010; 123(4): e9-18
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