内視鏡検査における嚥下障害の特徴:多系統萎縮症とパーキンソン病の比較

サイトへ公開: 2022年04月27日 (水)

Endoscopic Characteristics of Dysphagia in Multiple System Atrophy Compared to Parkinson's Disease

ご監修:武田 篤 先生(独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 院長)
Vogel A, et al. Mov Disord 2021 Nov 13. doi: 10.1002/mds.28854. Online ahead of print.
Pubmedアブストラクト

背景

多系統萎縮症(MSA)は,運動機能障害や自律神経障害を臨床的な特徴とする進行性の神経変性疾患である。MSAには診察時にパーキンソニズムが主体であるもの(MSA-P)と診察時に小脳性運動失調が主体であるもの(MSA-C)の2つの表現型があるが,初期の段階でMSA-Pとパーキンソン病(PD)を鑑別することは容易ではない。

嚥下障害はMSA患者の生命予後を左右し,MSAにおける嚥下障害はPDと比べて発現時期が早く,早期に発見し,適切なタイミングで治療することが求められる。近年,嚥下障害を客観的に評価する標準的な検査として嚥下内視鏡検査(FEES)が使用し始められたが,MSAに合併する嚥下障害の内視鏡検査の特徴を客観的に評価した研究は不足しており,系統的な検討はなされてこなかった。一方,嚥下障害質問票(SDQ)は患者の自己申告に基づく嚥下障害の主観的な評価ツールであり,嚥下障害を早期に発見するためのスクリーニング法として注目されている。しかしながら,FEESにより客観的に評価した嚥下障害とSDQにより主観的に評価した嚥下障害との関係についての研究はこれまでにない。

本研究では,PD患者を対照としてMSA患者における嚥下障害の内視鏡検査による特徴と嚥下障害の重症度について検討を行った。さらに,SDQがMSA患者の嚥下障害の検出に適しているかも検討した。

方法

MSA患者57例及びPD患者57例を対象とし,参加者全例にFEESを施行した。FEESを施行する際は,半固形,液体,固形及び錠剤を用いた課題で構成されるMSA-FEESタスクプロトコールが使用された。本プロトコールは著者らがMSA患者の喉頭運動の異常及び嚥下障害の症状を体系的に評価するために開発したものであり,下記の5つの評価項目で構成されている。
① 早期咽頭流入
② 咽頭残留
③ 喉頭流入及び誤嚥
④ 分割嚥下
⑤ 口腔保持テスト中の早期咽頭流入
評価項目①~③については5段階(0~4)で評価し,①及び②のスコアがそれぞれ2点以上かつ③のスコアが1点以上の場合,「異常あり」と定義した。④と⑤については「認められる場合」を1点,「認められない場合」を0点として評価した。FEESで評価した嚥下障害は「嚥下障害なし」,「軽症」,「中等症」及び「重症」の4つのスケールに分類した。

また,FEESにより客観的に評価した嚥下障害とSDQにより主観的に評価した嚥下障害の関係について検討するため,サブグループとして無作為に選ばれたMSA患者29例にSDQを実施し,検討を行った。

結果

MSA患者とPD患者の患者背景を比較すると,MSA患者ではPD患者と比べて有意に罹病期間が短く,重症度及び身体的障害度が高かった(それぞれ,p<0.0001,p<0.0001,p<0.01,対応のないt検定)。

FEESの結果,MSA患者では口腔期の嚥下障害を示唆する症状が,PD患者では咽頭期の嚥下障害を示唆する症状が高頻度に認められることがわかった。すなわち,PD患者と比べてMSA患者では早期咽頭流入及び分割嚥下の評価項目で嚥下障害を示唆する症状が有意に認められた(それぞれp<0.001,p<0.01)。一方,PD患者で高頻度に発現した咽頭期の嚥下障害を示唆する症状のうち,咽頭残留はMSA患者とPD患者のいずれにおいてもほぼ半数の割合で発現を認め,有意差は確認されなかった(p=0.16)。喉頭流入及び誤嚥の頻度は,MSA患者及びPD患者のいずれにおいても低かったものの,PD患者と比べてMSA患者において有意に高い頻度で認められた(p<0.01)(いずれも,対応のないt検定)。

口腔期の嚥下障害を示唆する症状がMSA患者でより高頻度に発現する傾向は,半固形,液体,固形,錠剤で一貫しており,MSAの表現型別に検討したところ,MSA-PとMSA-Cの間で差はなかった。さらにMSA患者では重症度が高くなるほど口腔期の嚥下障害を示唆する症状が多く認められた。

FEESで評価した嚥下障害では,MSA患者の57例中48例で嚥下障害(軽症,中等症,重症)が観察され,PD患者よりも有意に高頻度であった(p<0.05)。嚥下障害の重症度を分類別にみると,中等症はPD患者よりもMSA患者で有意に高頻度であった(図1,p<0.01)(いずれも,対応のないt検定)。なお,MSA及びPDの罹病期間ならびに疾患の重症度は嚥下障害の重症度と関連はなかった。

PDではSDQスコアが11点以上の場合,「嚥下障害あり」として定義されているが,SDQスコア11点をカットオフ値として使用し,SDQスコアによる主観的な嚥下障害とFEESで検出された嚥下障害の相関について検討した結果,嚥下障害のあるMSA患者を特定する感度は54%と低かった。そこで,MSAに特化したSDQとしてMSA-SDQサブスコアを新たに作成し検討を行った。その結果,MSA-SDQサブスコア4点をカットオフ値に設定すると感度85%,特異度100%でMSA患者の嚥下障害を特定できることが明らかになった(図2,χ2検定)。

結論

本研究によって,MSAとPDではFEESによって評価される嚥下障害のパターンは大きく異なることが示された。MSAの嚥下障害パターンは口腔期の障害を示唆するものであったが,PDの嚥下障害パターンは咽頭期の障害を示唆するものであった。また,新しく開発されたMSA-SDQサブスコアは,MSAにおいて早期の嚥下障害を検出する有用なスクリーニングツールとなりうる可能性が示された。

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