パーキンソン病の臨床診断の精度:今の我々の立ち位置は?

サイトへ公開: 2023年06月20日 (火)

Virameteekul S, et al. Mov Disord 2023; 38: 558-566
Pubmedアブストラクト

背景

パーキンソン病(PD)の研究は長年にわたり続けられているものの,診断にあたって信頼性の高いバイオマーカーや診断テストは存在せず,臨床症状に基づく診断と剖検による確認が行われてきた。このため,PDの診断精度は臨床症状や罹病期間,臨床医の専門知識などによって左右され,依然として最適とは言い難い状況が続いていた。

このような状況を受けて,International Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)は再現性及び診断精度の向上を目指し,2015年にMDS診断基準を提案した。この基準は,診断の特異度が90%以上となることを目標とする「臨床的に確実なPD」と、感度及び特異度がいずれも80%以上となることを目標とする「臨床的にほぼ確実なPD」の2つの診断カテゴリで構成される。さらに近年,MDSは未治療又は早期のPD患者を対象とする臨床試験での使用に向けて,「臨床的に確実な早期PD」という診断カテゴリを提案した。MDS基準による診断はいずれも専門医による臨床診断との比較において検証され,高い診断精度を示している。

直近の10年間においてPDに対する疾患理解が進歩し,疾患概念が変化したこと,MDS診断基準が提案されたことにより,実臨床におけるPDの診断精度は向上したと考えられる。しかし,現在のMDS診断基準は神経病理学的診断に対する検証は行われていない。そこで,本研究ではPDの臨床診断及びMDS基準による診断を神経病理学的に検証し,その診断精度について近年の大規模コホートを用いてレトロスペクティブに評価した。

方法

2009~2019年の間に,Queen Square Brain Bankに登録されていたパーキンソニズムを呈する参加者の医療記録をレトロスペクティブに検討した。医療記録から入手可能であった臨床情報を用い,PDの初期段階(運動症状の発現から5年以内)及び最終段階(死亡時)において,下記に示す診断カテゴリを使用した。

臨床診断(治療を行っていた病院の医師によるもの)
専門医による臨床診断(運動障害の専門医によるもの)
MDS診断基準の「臨床的に確実なPD」及び「臨床的にほぼ確実なPD」
MDS診断基準の「臨床的に確実な早期PD」※※
:臨床診断のサブカテゴリとして設定し,運動障害の専門医による診断を受けている参加者を対象とした
※※:初期段階でのみ適用した
Queen Square Brain Bankのプロトコールに基づき神経病理学的評価を行い,PDの初期段階及び最終段階における各診断カテゴリの診断精度パラメータ(感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,精度)について,神経病理学的診断と比較し算出した。さらに,各診断カテゴリの偽陽性率に対する真陽性率を用いてROC(Receiver Operating Characteristic)曲線をプロットし,曲線下面積(AUC)スコアに基づいて各診断カテゴリをperfect,excellent,good,fair,poor又はfailへと分類した。

結果

神経病理学的評価によって診断が確定したPD患者141例,PDではないがパーキンソニズムを呈する(non-PD)患者126例の計267例が本研究の対象となった。
初期段階における各診断カテゴリ別のPDの診断能(表1,2)
臨床診断ではPD患者141例のうち116例がPDと診断され,non-PD患者126例のうち109例がPDではないと診断された(感度82.3%,特異度86.5%,精度84.2%)。一方,専門医による臨床診断ではPD患者91例のうち85例がPDと正確に診断され,non-PD患者51例のうち45例がPDではないと正確に診断され(感度93.4%,特異度88.2%,精度91.5%),臨床診断に比べて診断精度パラメータは向上した。
MDS診断基準の診断能についてはそれぞれ,「臨床的に確実なPD」診断カテゴリで感度58.2%,特異度99.2%,「臨床的にほぼ確実なPD」診断カテゴリでは,感度87.9%,特異度91.3%,精度89.5%,「臨床的に確実な早期PD」診断カテゴリでは,感度68.8%,特異度98.4%であった。なお,「臨床的に確実なPD」及び「臨床的に確実な早期PD」の診断カテゴリについては特異度を最大化するように設計されており,精度の測定には適さなかったため精度は算出していない。
AUCスコアは臨床診断で0.844,専門医による臨床診断で0.908,MDS診断基準の「臨床的にほぼ確実なPD」は0.896であり,それぞれgood,excellent,goodに該当した。

最終段階における各診断カテゴリ別のPDの診断能(表1,2)
臨床診断では感度83.0%,特異度98.4%,精度90.3%となり,専門医による臨床診断では感度94.6%,特異度98.9%,精度96.7%となり,どちらも初期段階と比べて最終段階で診断精度パラメータの向上を認めた。
MDS診断基準の「臨床的にほぼ確実なPD」診断カテゴリでも同様に,感度87.9%,特異度97.6%,精度は92.5%となり,初期段階と比べて最終段階で診断精度の向上を認めた。
AUCスコアは臨床診断で0.907,専門医による臨床診断で0.967,MDS診断基準の「臨床的にほぼ確実なPD」で0.928であり,いずれもexcellentに該当した。

結論

本研究の結果,直近の10年間で,特にPDの初期段階における診断精度が向上していることが示唆された。これはPDに対する疾患理解の進歩が臨床での診断プロセスに寄与したことで説明されうる。
現行のMDS診断基準のうち,特に「臨床的にほぼ確実なPD」の診断カテゴリは感度と特異度のバランスが優れており,運動障害の専門医による臨床診断とほぼ同等の診断精度を示した。

結論01結論02
ページトップ