パーキンソン病の臨床的重症度は皮質における代償能の低下によって決定される

サイトへ公開: 2024年02月28日 (水)

ご監修:渡辺 宏久 先生(藤田医科大学医学部 脳神経内科学 教授)

パーキンソン病の臨床的重症度は皮質における代償能の低下によって決定される

Clinical severity in Parkinson's disease is determined by decline in cortical compensation
Johansson ME, et al. Brain 2023 Sep 27:awad325. doi: 10.1093/brain/awad325.
ご監修:渡辺 宏久 先生(藤田医科大学医学部 脳神経内科学 教授)

背景

運動緩慢はパーキンソン病(PD)の主要な運動症状の1つであり、ドパミンの枯渇と大脳基底核の機能障害によるものと考えられている。しかし、運動症状の表現型や悪化速度には個人差があり、線条体のドパミン喪失だけではこれらのheterogeneity(不均一性)を説明できない。大脳皮質における代償機構が寄与している可能性があるが、どの程度まで寄与しているかについては明らかにされていない。
そこで本研究では、PDにおける運動症状の臨床的重症度の不均一性は、大脳皮質における代償機構によって決定されるという仮説を立てて検証した。

方法

罹病期間5年以下のPD患者353例と対照健常者60例を対象とした。対象者は行動選択課題(action selection task)を遂行し、運動に関連する脳活動及び行動選択に関連する脳活動の変動を機能的MRI検査で測定した。行動選択課題では、対象者に強調して表示されたキューについてボタンを押して選択させた。強調表示されるキューの数は1~3個の間で変動するが、対象者は1つのキューにのみ反応することを求められ、表示されるキューの数によって課題の難易度は上昇した。なお、本課題は大脳皮質における代償機構を活性化するようにデザインされたものである。
PDの臨床的な不均一性を解析するため、臨床サブタイプとしてびまん性進行型(DM型)、中間型(IM型)、軽度運動障害型(MMP型)の3つに分類した。さらに、運動症状と認知パフォーマンスの臨床スコアを使用し、行動選択課題遂行中の行動成果、運動に関連する脳活動及び行動選択に関連する脳活動について、下記の項目が及ぼす影響を検討した。

① PDの状態の影響(PDと健常者の比較)
② 臨床サブタイプの影響
③ 運動緩慢の臨床的重症度の影響

運動緩慢の重症度については投薬を中止した状態でMovement Disorder Society(MDS)-UPDRSのパートⅢにおいて運動緩慢に関する11項目のスコアの合計として定義した。

結果

本研究で得られた主な結果は下記の通りであった。

① PDの状態の影響(PDと健常者の比較)
PD患者では対照群と比較して行動反応までの時間が長く、反応の遅れは行動選択の難易度に応じて延長した(それぞれp<0.001、線形混合効果モデル)。運動に関する脳活動についてPD患者では対照群と比較して左被殻、左中心前回、右小脳において有意な低下を認めた(それぞれp<0.001、ANCOVA)。行動選択に関連する脳活動については、PD患者では対照群と比較して行動選択に対する難易度が中等度の場合に右被殻で有意差を認め、行動選択に対する難易度が高度な場合には右中側頭回で有意な亢進を認めた(それぞれ、p=0.017、p=0.032、ANCOVA)。

② 臨床サブタイプの影響
行動選択に対する難易度が高度又は軽度の行動反応までの時間の差は、軽度運動障害型と比較して中間型で延長したが、びまん性進行型では延長しなかった(それぞれ、p=0.032、p=0.96、線形混合効果モデル)。運動に関する脳活動について、軽度運動障害型ではびまん性進行型と比較して右中心後回で亢進が認められたが(p=0.010、ANCOVA)、大脳基底核の活動において臨床サブタイプ間に差はみられなかった。行動選択に関連する脳活動については、軽度運動障害型はびまん性進行型と比較して右中前頭回、右中側頭回などにおいて亢進が強く認められた(それぞれp<0.010、ANCOVA)。

③ 運動緩慢の臨床的重症度の影響
図1Aに示すように反応時間は運動緩慢の重症度と比例して延長する正の相関を示したが、認知パフォーマンスとは負の相関を示した(それぞれp<0.001、voxel-wise one-way ANCOVA)。
運動に関連する脳活動については、運動緩慢の臨床的重症度との関連性はみられなかった。一方で、行動選択に関連する脳活動については、行動選択に対する難易度が中等度の場合、運動緩慢の重症度が低いほど左上頭頂小葉及び左上前頭回(6am)における活動が亢進し(図1B)、認知パフォーマンスが高いほど右中前頭回(i6-8)における活動が亢進していた(図1C)。行動選択に対する難易度が高い場合、運動緩慢の重症度が低いほど左上頭頂小葉(7am)の活動が亢進し、認知パフォーマンスが高いほど右中前頭回(i6-8とp9-46v)と右下前頭回(6r)の活動が亢進し、左楔状回(V2)の活動が低下していた(図1C)。

上記の結果から、脳活動の変化と運動症状の進行との関係から大脳皮質における代償機構のモデルについて検討を行った。運動症状の悪化は、主に頭頂部-運動前野における代償能が低下することで惹起されると考えられた(図2A)。行動選択時の頭頂部-運動前野の活動はびまん性進行型において代償機構の障害がみられたが、軽度運動障害型では障害されていなかった。びまん性進行型における代償能の脆弱さは、代償能の低下(図2B左)、代償のために利用できる大脳皮質のリソースの程度(図2B右)、またはその両方に起因する可能性があり、これらの指標を組み合わせることでPDの臨床サブタイプを区別できる可能性も示唆された(図2B)。

結論

本研究の結果、PDにおける臨床サブタイプや運動緩慢及び認知機能障害の重症度でみられる不均一性は、進行する大脳基底核機能障害を頭頂部-運動前野である大脳皮質がどの程度代償できるかによって部分的に決定されることが示唆された。大脳基底核の機能障害の正常化を図るだけではなく、大脳皮質の代償能の維持と強化に焦点を当てることも有用と考えられるため、今後の研究に期待が持たれる。

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