パーキンソン病関連疾患における神経炎症性の急性期反応

サイトへ公開: 2022年06月28日 (火)

The Neuroinflammatory Acute Phase Response in Parkinsonian-Related Disorders

ご監修:渡辺 宏久 先生(藤田医科大学医学部 脳神経内科学 教授)
Scott A, et al. Mov Disord 2022 Feb 8. doi: 10.1002/mds.28958. Online ahead of print.
Pubmedアブストラクト

背景

神経炎症はパーキンソン病(PD)及び多系統萎縮症(MSA),進行性核上性麻痺(PSP),Lewy小体型認知症(DLB)及び認知症を伴うパーキンソン病(PDD)などのPD関連疾患の病態生理に深く関わっている。これらの疾患における炎症性サイトカインをバイオマーカーとして検討した研究はあるが,その結果は一致しておらず一定の見解は得られていない。
急性期反応(APR)タンパク質は炎症の急性期に血中に増加するが,PD及びPD関連疾患患者の脳脊髄液(CSF)におけるAPRタンパク質に関する研究については一定の見解が得られておらず,PD及びPD関連疾患患者のCSFにおけるAPRタンパク質を系統的に調査した研究はまだ実施されていない。
そこで,PD及びPD関連疾患患者のCSFにおけるAPRタンパク質の評価を目的として本研究を実施した。

方法

スウェーデンにおける前向き縦断研究であるSwedish BioFINDERコホートの参加者867例を対象とした。対象にはPD患者155例,MSA患者26例,PSP患者22例,DLB患者23例,PDD患者29例及び対照として健常対照(HC)612例が含まれていた。全例において運動機能検査及び認知機能評価を実施した。

対象から採取したCSF中のα1-アンチキモトリプシン,α1-アンチトリプシン,セルロプラスミン,補体成分C3,フェリチン,α-フィブリノーゲン,β-フィブリノーゲン,γ-フィブリノーゲン,ヘモペキシン,ハプトグロビン,トランスサイレチンの11のAPRタンパク質をトリプル四重極質量分析計で測定し,対数変換した。

各群におけるAPRタンパク質の発現プロファイルを一覧で確認するためにヒートマップを作成した。さらに,疾患を鑑別しうるバイオマーカー候補となるAPRタンパク質についても検討した。

結果

対象者の背景では,HC群と比べてPD群及びPD関連疾患群の対象者は若年であり,男性の割合が高かったため,APRタンパク質の評価については年齢及び性別で調整し解析を行った。なお,PDD群とDLB群におけるAPRタンパク質の発現プロファイルは類似していたため,PDD群及びDLB群を統合した解析も行った。

CSF中の総APRタンパク質及び各APRタンパク質の発現プロファイルを可視化したヒートマップを図1Aに示す。表1は各疾患群におけるAPRタンパク質の発現プロファイルを示すものであるが,HC群と比べてPD群ではα1-アンチトリプシン及びハプトグロビンが有意に上昇していた[p=0.001(重回帰分析),p=0.008(ボンフェローニ補正前の重回帰分析)]。α1-アンチトリプシンはPD群及びPD関連疾患群でも有意な上昇を認めた(すべてp<0.05,ボンフェローニ補正後又は補正前の重回帰分析)。一方,α1-アンチキモトリプシンはPD関連疾患群で有意な上昇を認めたが(すべてp<0.05,ボンフェローニ補正後又は補正前の重回帰分析),PD群では有意差は認めなかった[p=0.093(ボンフェローニ補正前の重回帰分析)]。

フェリチン及びトランスサイレチンはPD群及びMSA群以外の他のPD関連疾患群と比べてMSA群で特異的な上昇を認めた(表1)。そこで,フェリチン及びトランスサイレチンがMSA群を識別しうるバイオマーカーになるかを検討するためROC(Receiver Operating Characteristic)解析を行った。その結果,ROCの曲線下面積(AUC)はフェリチンで0.81(感度0.54,特異度0.73,図1B),トランスサイレチンで0.76(感度0.56,特異度0.74,図1C)を示した。フェリチン及びトランスサイレチンを組み合わせた場合でも,AUCは0.81(感度0.64,特異度0.69,図1D)と維持され,フェリチン及びトランスサイレチンをバイオマーカーとしてMSA群とMSA群以外のすべての疾患群との識別が可能であることが示された。

ハプトグロビンはPD群及びPSP群以外の他のPD関連疾患群と比べてPSP群で特異的な上昇を認めた(表1)。一方,フェリチン及びトランスサイレチンの発現プロファイルにはPD群及びPSP群以外の他のPD関連疾患群と比べてPSP群で変化は認められなかった。MSAとPSPは臨床的に鑑別することが容易でないため,フェリチン,トランスサイレチン及びハプトグロビンがMSA群とPSP群を識別しうるバイオマーカーになるかフェリチン,ハプトグロビン及びトランスサイレチンを組み合わせてROC解析を行った。その結果,AUCは0.91(感度0.73,特異度1.00,図1E)と高く,MSA群とPSP群の識別が可能であることが示された。

APRタンパク質の発現プロファイルがPD及びPD関連疾患において疾患の重症度及び罹病期間,認知機能の重症度と関連するかを検討した結果,一部の疾患群で関連性についての有意差が確認されたものの,関連性は低かった。ただし,PDD群及びDLB群においてフェリチンはMMSEで評価した認知機能と負の相関を示す一方,セルロプラスミンをはじめとする他のAPRタンパク質は認知機能と正の相関を示した。

結論

PD及びPD関連疾患におけるCSF中のAPRタンパク質の発現プロファイルを比較,検討した結果,PD及びPD関連疾患を鑑別しうるAPRタンパク質の可能性が示された。本研究の対象は単一のコホートから得られたものであり,本研究で検討した11のAPRタンパク質には反映されない重要な炎症シグナルが存在する可能性もあることに留意する必要がある。

本研究で得られた知見はPD及びPD関連疾患における神経炎症に対する新たな考察をもたらすものであり,臨床診断において有用と思われるバイオマーカーの候補を提示するものである。

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