パーキンソン病における血清及び脳脊髄液のタンパク質凝集体の特性

サイトへ公開: 2021年12月16日 (木)

ご監修:武田 篤 先生(独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 院長)
Imaging protein aggregates in the serum and cerebrospinal fluid in Parkinson’s disease

Lobanova E, et al. Brain 2021 Aug 19. doi: 10.1093/brain/awab306. Online ahead of print.
Pubmedアブストラクト

背景

パーキンソン病(PD)の発症には,α-シヌクレイン(α-syn)やアミロイドβ(Aβ)などのβシート構造を有するタンパク質の凝集体が重要な役割を果たしている。通常,これらの凝集体は,脳脊髄液(CSF)などを介する体内のクリアランスシステムによって除去されるが,時間の経過に伴って体内のクリアランスシステムは凝集体の神経毒性の負荷に対応できなくなり,細胞内に凝集体が徐々に蓄積され,神経細胞死を引き起こす。

凝集体の特性については,神経毒性の高い可溶性オリゴマーを含めて十分に明らかにされておらず,その理由として,凝集体であるオリゴマーのサイズ及び構造が不均一であることなどから,定量化のための有効な方法がこれまで存在しなかったことが挙げられる。

従来,CSFや血清中の凝集体の測定に用いられてきたELISA法では,可溶性オリゴマーの総質量の情報は得られるが,凝集体の数やサイズに関する情報は得られなかった。また,これまで実施されてきた多くの研究では凝集体のうちα-syn又はAβのどちらか一方しか測定されていなかった。そのため,我々は超解像技術及び原子間力顕微鏡(AFM)を組み合わせて,α-syn及びAβの数とサイズを測定する新しい測定法を開発した。

今回,この新しい測定法を用いてPD患者のCSF及び血清中の凝集体についてその特性を明らかにするための検討を行った。

方法

診断から2年以内の初期のPD患者15例及び対照として年齢と性別をマッチさせた健常対照(HC)10例を対象に,下記の手順で検討を行った。

【ステップ1】
共焦点法にてPD群とHC群のCSF及び血清における五量体ホルミルチオフェン酢酸(PFTAA)活性を有する凝集体の検討を行った。

【ステップ2】
α-syn及びAβの線維性の凝集体に結合するアプタマーDNA(AD)-PAINTを用いてCSF及び血清中の凝集体を画像化し,凝集体のサイズを20 nmの空間分解能で測定した(図1)。

【ステップ3】
凝集体の3D形態を確認するためAFMイメージングを行い,ステップ2で得られたCSF及び血清中のサンプルのAD-PAINTによる分析結果から凝集体のサイズについて検討した。

【ステップ4】
PD患者の凝集体の特性をより明らかにするため,初期のPD患者11例(第1コホート:5例,第2コホート:6例)と年齢をマッチさせたHC10例(第1コホート:5例,第2コホート:5例)の血清サンプルにおいて,α-syn及びAβをimmunodepletionするために免疫沈降(IP)を施行した後,AD-PAINTを用いて凝集体を検出した(図1)。

結果

【ステップ1】
HCのサンプル中に存在するPFTAA活性を有する凝集体はCSFに比べて血清中で約20倍多く検出された。CSF及び血清ともに,PD群とHC群でPFTAA活性を有する凝集体の数に有意差はなかった(それぞれp=0.07,p=0.58,正確な並べ替え検定)。

【ステップ2】
CSF及び血清中で検出された凝集体の数には,PD群とHC群で有意差はなかった(それぞれp=0.84,p=0.18,正確な並べ替え検定)。HC群では血清中で検出された凝集体の数とCSF中で検出された凝集体の数に強い負の相関が有意に認められた(R=-0.88,p=0.049,Pearsonの相関分析)。一方,PD群では血清中で検出された凝集体の数とCSF中で検出された凝集体の数は正の相関を示す傾向にあったが,有意ではなかった(R=0.45,p=0.45,Pearsonの相関分析)。PD群及びHC群における凝集体のサイズ分布に関して,CSFと血清のいずれにおいても20~200 nmと不均一であったが,血清中の凝集体のサイズ分布については,PD群ではHC群と比べて150 nmよりサイズの大きい凝集体の割合が有意に高かった(p=0.03,Wilcoxon順位和検定)。

【ステップ3】
凝集体の1分子統計解析では,PD群では血清とCSFのいずれにおいてもHC群に比べてサイズの大きい凝集体が観察され,ステップ2のAD-PAINTを用いて得られた結果と合致していた。

【ステップ4】
PD群では血清中の凝集体を構成するα-synとAβの比がHC群と比較して有意に大きかった(図2A,p=4.3×10-5,正確な並べ替え検定)。このことから,PD群とHC群では凝集体を構成するα-synとAβの割合が違うことが示唆され,PD群では血清中の凝集体はα-syn及びAβが約50%の割合で含まれていたのに対し,HC群ではα-synが約30%,Aβが約70%の割合で構成されていることが明らかになった。このPD群とHC群で認められた凝集体を構成するα-syn及びAβの割合の差は統計学的に有意であった(それぞれp=1.7×10-5,正確な並べ替え検定)。


血清中のα-syn及びAβの絶対量はPD群とHC群で同等であったが,α-synとAβの比はPD群とHC群で異なっていたため,ROC(Receiver Operating Characteristic)解析を行った。血清中のα-synとAβの比(閾値=0.7)及びα-synの相対含有量(閾値=0.41)により,PD群とHC群を98.2%の精度で識別可能であった(それぞれAUC=98.2%,感度=100%,特異度=90%)(図2B)。図2CにAD-PAINTで検出されたPD群とHC群における血清中のα-syn及びAβの超解像画像の例を示す。

結論

初期のPD患者における血清中の凝集体のサイズは20~200 nmであり,健常人に比べて150 nm超のサイズの大きい凝集体の数と割合が高かった。これは,PD患者では脳由来の凝集体や末梢血で生成された凝集体が時間経過とともに血中へと蓄積される可能性を示唆している。また,血清中の凝集体を構成するα-synとAβの割合については,PD患者では健常人と比べてα-synの割合が高いことが明らかになった。さらに,我々が新たに開発した測定法は血清中の凝集体を構成するα-synとAβの比によって,PD患者と健常人を98.2%という高い精度で識別することが示された。サンプルサイズが小さいという限界はあるが,本研究で得られた結果は,PDを診断する新しいバイオマーカーの特定につながる可能性がある。

結論01

 

結論02
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