単一遺伝子異常を伴うパーキンソン病における生存率の違い

サイトへ公開: 2023年09月28日 (木)

ご監修:武田 篤 先生(独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 院長)
Lanore A, et al. Ann Neurol. 2023; 94: 123-132
Pubmedアブストラクト

背景

パーキンソン病(PD)は多因子が関与する神経変性疾患であり,患者の多くが非遺伝性の孤発型PDであるが,約5~10%は単一遺伝子異常を伴う遺伝性PDである。遺伝性PDに関与する遺伝子のうちSNCALRRK2VPS35の変異は優性遺伝性であり,一方で,PRKNPINK1PARK7の変異は劣性遺伝性で,GBA変異はPDの強力なリスク因子と報告されている。
単一遺伝子異常を伴うPDは臨床症状や神経病理学的病変において孤発型PDよりも均質な集団であるものの,比較的まれであるため研究は容易ではない。単一遺伝子異常を伴うPD患者の生存期間はPDに関連する原因遺伝子に依存する可能性があるが,変異がある遺伝子別に死亡率を検討した研究は十分ではない。
そこで,本研究ではフランスの死亡登録データとPD遺伝ネットワークのデータを掛け合わせ,単一遺伝子異常の中でも頻度の高いSNCAPRKNLRRK2GBA変異のあるPD患者の生存率について,PDに関与する遺伝子変異のないPD患者及び一般集団と比較し,検討を行った。

方法

PD遺伝ネットワークに1990年〜2021年に登録された孤発型PD患者及び遺伝性PD患者を対象に遺伝子スクリーニングを実施し,SNCAPRKNLRRK2GBAの4つの遺伝子変異の有無について特定した。
生存状態はフランス人患者のみが利用可能であったため,解析はフランスで出生した参加者に対象を限定して実施した。下記に該当する者は解析対象から除外した。
①    PDに関連する2つ以上の遺伝子に変異がある者
②    指定の4つ以外の遺伝子に変異がある者
③    指定の4つの遺伝子のいずれか,又は全ての変異について検査を受けていない者
④    ベースラインの受診日が欠落している者
⑤    85歳以降に初めて受診した者(生存分析は85歳の時点で打ち切るため)
SNCAPRKNLRRK2GBA変異のあるPD患者の生存期間,及び生存率についてSNCAPRKNLRRK2GBA変異のないPD患者と比較し検討した。また,SNCAPRKNLRRK2GBA変異のあるPD患者間において変異がある遺伝子が生存期間,及び生存率に及ぼす影響についても検討した。さらに,標準化死亡比(SMR)についても検討を行った。

結果

PD患者2,037例を解析対象とした。遺伝子スクリーニングの結果,20例でSNCA変異,100例でPRKN変異,173例でGBA変異,51例でLRRK2変異のあるPD患者が特定された。
平均11.8年の追跡調査の結果,889例が死亡した(死亡率 37.1/1,000人・年,95%CI 34.7-39.6)。死亡率は女性よりも男性で高く,年齢とともに上昇した(図1)。
図2に示すようにSNCAPRKNLRRK2GBA変異のないPD患者に比べて,PRKN変異,LRRK2変異のあるPD患者は生存期間が長かった(PRKN変異;HR 0.41,p=0.001,LRRK2変異;HR 0.49,p=0.023,いずれも多変量Cox比例ハザード回帰モデル)。一方,SNCA変異,GBA変異のある患者はSNCAPRKNLRRK2GBA変異のないPD患者に比べて生存期間が短かった(SNCA変異;HR 9.9,p<0.001,GBA変異;HR 1.3,p=0.048,いずれも多変量Cox比例ハザード回帰モデル)。
PRKN変異とLRRK2変異のあるPD患者の生存率は同等であった(HR 1.18,p=0.6891)。一方,SNCA変異のある患者はGBA変異,LRRK2変異,PRKN変異のある患者と比べて最も生存率が低かった(それぞれ,HR=7.43,p=1.7×10-7,HR 20.36,p=2.8×10-10,HR 23.92,p=4.8×10-13)。GBA変異のある患者は,LRRK2変異,PRKN変異のある患者と比べて生存率が低かった(それぞれ,HR 2.74,p=0.0027,HR 3.22,p=4.1×10-5,いずれも多変量Cox比例ハザード回帰モデル)。
PDではないフランス人と比較して、PD患者全体のSMRは2.6であり,SNCAPRKNLRRK2GBA変異を持たないPD患者では2.4であった。SMRは1以上で研究対象となる集団の超過死亡と解釈される指標である。変異がある遺伝子別にSMRをみると,SMRが最も高かったのはSNCA変異の16.5であり,次いでGBA変異が3.4であった。PRKN変異では1.6,LRRK2変異では1.3であった。

結論

本研究の結果,遺伝性PD患者の生存率は変異がある遺伝子によって異なることが示唆された。SNCA変異,GBA変異のあるPD患者では死亡率が高い一方,PRKN変異,LRRK2変異のあるPD患者では死亡率が低いことが示された。SMRの値もこれらの結果を反映していた。これらの知見は,遺伝性PD患者における死亡率は発症年齢よりも変異がある遺伝子による疾患の重症度や進行に関連することを示しており,遺伝カウンセリングや単一遺伝子異常を伴うPDの治療法の開発に向けて,臨床試験のエンドポイントを選択する際にも重要なものである。

本研究の結果,遺伝性PD患者の生存率は変異がある遺伝子によって異なることが示唆された。本研究の結果,遺伝性PD患者の生存率は変異がある遺伝子によって異なることが示唆された。
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