パーキンソン病患者における早期の体重の変化と認知機能の低下との関連性

サイトへ公開: 2023年02月28日 (火)

Association of Early Weight Change With Cognitive Decline in Patients With Parkinson Disease
ご監修:渡辺 宏久 先生(藤田医科大学医学部 脳神経内科学 教授)
Kim R, et al. Neurology 2023; 100: e232-e241

Pubmedアブストラクト

背景

体重減少はパーキンソン病(PD)患者において認められる最も一般的な非運動症状の1つと考えられており,運動症状に先行することが多い。体重減少がもたらされる要因としては,食事摂取量の減少及び消費エネルギー量の増加などが関与しているとされる。その一方,早期PD患者では体重増加も認められることが報告されているが,十分には認識されていない。
多くの疫学研究により,高齢者では体重減少及び体重増加は認知症リスクと関連することが報告されているが,早期PD患者における体重減少及び体重増加と認知機能低下との関連性についてのエビデンスは十分ではない。
本研究では早期PD患者を対象とした最長8年間の追跡調査を実施し,体重の変化(体重減少及び体重増加)と認知機能の低下との関連性を検討した。さらに,体重の変化が認知機能に特異的に関連するか,早期PD患者における体重の変化と他の非運動症状との関連性も検討した。

方法

本研究では国際多施設共同コホート研究であるParkinson's Progression Markers Initiative(PPMI)コホートの参加者のデータを使用し,未治療の早期PD患者358例及び対照として年齢と性別でマッチさせた健常者174例を対象とした。ベースライン及び1年後の体重のデータを用いて,早期PD患者を下記の定義による体重の変化の程度に応じて各群に分類した。

体重減少群:ベースラインから1年後までに体重が3%を超えて減少した場合
体重維持群:ベースラインから1年後までに体重の減少又は増加が3%未満であった場合
体重増加群:ベースラインから1年後までに体重が3%を超えて増加した場合

全般的な認知機能についてはモントリオール認知評価(MoCA)を用いて評価した。その他の認知機能についてはホプキンス言語学習テスト(HVLT),Benton Judgment of Line Orientation(BJLO),意味流暢性検査(SFT),MoCA phonemic fluency subtest,符号-数字モダリティー検査(SDMT),Letter-Number Sequencing(LNS)検査で評価した。
体重の変化による影響は認知機能に特異的であるかについて検討するため,認知機能以外の非運動症状について,老年期うつ病評価尺度(GDS),状態-特性不安検査(STAI),レム期睡眠行動障害スクリーニング質問票(RBDSQ),エプワース眠気尺度(ESS),scale for outcomes in Parkinson’s disease-Autonomic(SCOPA-AUT)を用いて評価した。
主要評価項目はMoCAスコアの経時的変化,副次評価項目はHVLT,BJLO,SFT,MoCA音素流動性検査,SDMT,LNS検査における各スコアの経時的変化として,体重の変化との関連性についてはベースライン時の年齢,性別,ベースライン時のPD罹病期間,教育レベル,ベースライン時BMI及び従属変数の値を共変量とする線形混合効果モデルを使用して解析した。

結果

ベースライン時の早期PD患者の平均年齢は61.5歳,PD発症年齢は59.6歳,237例(66%)が男性であり,体重減少群98例,体重維持群201例,体重増加群59例に分類された。各群における1年間の体重の平均変化量は体重減少群で−7.1%,体重維持群で−0.1%,体重増加群で6.1%であった。
主要評価項目であるMoCAスコアの経時的変化については,体重減少群では体重維持群と比較してMoCAスコアの低下速度が有意に速かった(図1,表1,p=0.001)。一方,体重増加群では体重維持群と比較してMoCAスコアの低下速度に有意差は認められなかった(図1,表1,p=0.850)。ベースライン時の年齢,ベースライン時の教育レベル及びベースライン時のMoCAスコアとMoCAスコアの低下速度において有意な相互作用がみられた(表1,それぞれ,p<0.001,p=0.031,p=0.036)。ベースライン時の認知機能が正常であったサブグループにおいても,体重減少群では体重維持群と比較してMoCAスコアの低下速度が有意に早かった(p=0.003,いずれも線形混合効果モデル)。
その他の認知機能に関して体重の変化と各スコアの経時的変化について検討した結果,体重減少群では体重維持群と比較してSFT,MoCA音素流暢性検査のスコアの低下速度が有意に速かった(p=0.012,p=0.005)。なお,体重減少群では体重維持群と比較してLNSスコアの低下が速い傾向が認められたが,その差は有意ではなかった(p=0.073)。一方,体重増加群では体重維持群と比較して,SDMTスコアの低下速度が有意に緩やかであった(p=0.021,いずれも線形混合効果モデル)。認知機能以外の非運動症状については,GDS,STAI,RBDSQ,ESS及びSCOPA-AUTの各スコアの経時的変化と体重の変化との間の関連性について有意差を認めなかった(p=0.060~0.996,線形混合効果モデル)。

結論

本研究の結果,早期PDにおける体重減少はMoCA及びSFTとMoCA phonemic fluency subtestのスコアがそれぞれ反映する全般的な認知機能及び実行機能の低下速度の上昇と関連することが示された。体重増加はSDMTのスコアが反映する処理速度及び注意低下の進行速度の遅延と関連することが示された。また,体重の変化が非運動症状に及ぼす影響は,認知機能に特異的なものと考えられた。PDにおいて早期に認められる体重減少と体重増加は認知機能低下に対してそれぞれ異なる影響を与える可能性が示された。
これらの知見は,早期PDにおける体重の管理の重要性を示唆するものであるとともに,早期に認められる「体重減少」は認知機能低下リスクがある患者を予測する指標となりうる可能性が示された。今後は,体重減少に介入する食事療法の実践がPD患者の認知機能の低下速度を遅延させるかを検討するための,さらなる研究が求められる。

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