ご監修:大石 景士 先生(山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座 診療助教)
![ご監修:大石 景士 先生(山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座 診療助教)](/jp/sites/default/files/inline-images/nbi_thumbnail_dr.oishi_html.jpg)
進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)は、不可逆的な組織傷害を生じることから、疾患の進行抑制が治療目標となります。PF-ILDの予後は、診断・治療介入の時期により異なる可能性があります。そのため、PF-ILDは早期に診断・適切な治療介入をすることが重要です(図1:進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の臨床経過)。
![6分間歩行テストの代替検査法としての1分間椅子立ち上がりテスト01](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_01.jpg)
図1
その実現にあたっては、個々のILD患者さんの疾患進行を、臨床所見や検査結果を踏まえて評価した後、治療中、経過観察中いずれの場合も疾患進行を継続的にモニタリングすることが重要と考えられています(図2:進行性のフェノタイプを示す可能性がある線維化を伴う間質性肺疾患の診断)。
![6分間歩行テストの代替検査法としての1分間椅子立ち上がりテスト02](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_02.jpg)
図2
疾患進行の評価基準
線維化を伴う間質性肺疾患(F-ILD)の疾患進行の評価では、肺機能、運動耐容能、症状及び患者報告アウトカム、急性増悪の発生などが使用できる可能性のある臨床的基準として挙げられており、運動耐容能としては6分間歩行テスト(6MWT)が示されています(図3:線維化を伴う間質性肺疾患において疾患進行を評価する上で臨床で使用できる可能性がある基準案)。 6分間歩行テストは特別な機器は不要ですが、一方で30mの直線廊下を必要とすることから、実施が難しいご施設もあるのではないでしょうか。その場合、1分間椅子立ち上がりテスト(1-minute sit-to-stand test:1STST)が有用である可能性があります。
本コンテンツでは
■1STSTの概要と実施方法
■1STSTと6分間歩行テストにおける最低SpO²の相関関係
■PF-ILDにおけるオフェブの有効性・安全性
についてご紹介します。
![疾患進行の評価基準01](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_03.jpg)
図3
1STSTの実施方法
1STSTは、1分間に椅子からの立ち上がり動作を何回できるか測定する試験です。
準備
・肘掛けのない高さ46cmの椅子
・パルスオキシメーター
・ストップウォッチ
・記録用紙
![1STSTの実施方法01](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_01.png)
テストを受ける患者さんの服装と靴が、動きやすいものであるかどうかもご確認ください。スリッパは滑る可能性があるため、使用しないでください。
![1STSTの実施方法02](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_02.png)
試験開始前
患者さんの人差し指にパルスオキシメーターのプローブを装着し、SpO²と脈拍数の測定を始めます。
![1STSTの実施方法03](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_03.png)
試験開始前(ベースライン時)のSpO²を記録し、呼吸困難と疲労を修正Borgスケールで評価します。
![1STSTの実施方法04](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_04.png)
動作確認
試験開始前評価を終えたら、患者さんと動作確認を行います。
・椅子を壁の前に置く
・椅子の中央部より少し前に背筋を伸ばして座る
・手は胸の前でクロスさせる
・膝を90度に曲げ、腰幅の広さで両足を床に置く
・パルスオキシメーターの本体部は、医師が持つ、又は机に置く
![1STSTの実施方法05](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_05.png)
1STSTは、座った姿勢から開始し、患者さんの膝が完全に伸びるまで立ち上がったら1回とカウントします。立ち上がる際や座る際に腕で体を支えないよう患者さんに指示します。座って再び立ち上がったら2回とカウントします。この動作を5回~10回練習し、姿勢を確認します。
![1STSTの実施方法06](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_07.png)
実施 患者さんは椅子に座り、「始め」の合図で立ち上がり、そして座位姿勢に戻ります。この動作を患者さんが安全に行えるペースで1分間繰り返します。テスト中も患者さんのSpO²と脈拍数を継続して測定します。
![1STSTの実施方法07](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_08_0.png)
テスト終了前15秒には「終了15秒前」と声を掛けます。
![1STSTの実施方法08](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_09.png)
1分経過後、立ち上がり動作の反復回数を記録し、修正Borgスケールで評価します。試験終了後も患者さんは座った状態のままで、SpO²及び脈拍数を連続的にモニタリングし、最低SpO²、最大脈拍数を記録します。
最後に、患者さんに異常がないことを確認してテストを終了します。
![1STSTの実施方法09](/jp/sites/default/files/inline-images/illust_10.png)
1STSTと6分間歩行テストの関係
1STSTは診察室などの限られたスペースでも簡便に実施できます。では、運動時低酸素血症の評価において、1STSTは6分間歩行テストの代替試験となるのでしょうか?こちらは6分間歩行テストと1STSTにおける最低SpO²を検討した結果です。このように両者の最低SpO²の間に相関関係が示されたことから、1STSTは6分間歩行テストの代替試験として有用である可能性があります。
![1STSTと6分間歩行テストの関係](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_04.jpg)
重症度や疾患進行に基づくPF-ILDの治療管理
このような運動耐容能の評価を含めたモニタリングの結果、線維化の進行が認められた場合に治療を行います。こちらは、重症度やHRCTにおける画像パターンに基づくPF-ILDの管理アルゴリズム案です。中等症及び重症では、抗線維化療法の検討が提案されています。
![重症度や疾患進行に基づくPF-ILDの治療管理](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_05.jpg)
INBUILD試験
試験概要
抗線維化剤であるオフェブは、PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制に対する有効性と安全性が検討されています。
本試験では、組み入れ基準を満たすPF-ILD患者さん663例をオフェブ群とプラセボ群に1:1で無作為に割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。
![INBUILD試験01](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_06.jpg)
解析計画はご覧のとおりです。
![INBUILD試験02](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_07.jpg)
なお、ILDの進行性の基準には、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化及び胸部画像上での線維化変化の増加が用いられました。
![INBUILD試験03](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_08.jpg)
有効性
オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率には有意な差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制が検証されました。また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、ご覧のように推移しました。
![INBUILD試験04](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_08_5.png)
ベースライン時の%FVC別の部分集団解析の結果、投与52週までのFVC年間減少率は、%FVC 70%以下、%FVC 70%超の両サブグループにおいて、オフェブは同様に呼吸機能の低下を抑制しました。
![INBUILD試験05](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_09.jpg)
ベースライン時の%FVC別の部分集団解析の結果、投与52週までのFVC年間減少率は、%FVC 70%以下、%FVC 70%超の両サブグループにおいて、オフェブは同様に呼吸機能の低下を抑制しました。
![INBUILD試験06](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_10.jpg)
本試験における、L-PF(Living with Pulmonary Fibrosis)スコアのベースラインからの変化量は、オフェブ群-0.2及びプラセボ群3.9であり、群間差は-4.1でした。ドメイン別では、symptoms呼吸困難ドメインスコア及びsymptoms咳嗽ドメインスコアにおいてプラセボ群との有意差が認められました。
![INBUILD試験07](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_11.jpg)
安全性
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした。
![INBUILD試験08](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_12_0.jpg)
オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は、下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。
![INBUILD試験09](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_13.jpg)
続いて、投与52週までの下痢、悪心、嘔吐、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、有害事象共通用語基準を用いた評価ではGrade1が66.5%、Grade2が23.1%、Grade3が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。
![INBUILD試験10](/jp/sites/default/files/inline-images/slide_14.jpg)
まとめ
PF-ILDの診療では、疾患進行をモニタリングし、早期に診断・適切に治療介入することが重要です。
運動耐容能を評価する1STSTは、6分間歩行テストの実施が困難な場合の代替試験として有用である可能性があります。
本日ご紹介した内容を、先生方の診療にお役立ていただければ幸いです。