全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の診療アルゴリズムと治療の重要性 (静止画)

サイトへ公開: 2021年07月30日 (金)

ご監修:桑名 正隆先生(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授)

ご監修:桑名 正隆先生(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授)

本コンテンツでは、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD) における予後、進展予測のポイントや治療の重要性について、日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授の桑名 正隆先生のご解説をご覧いただけます。

SSc-ILD治療の重要性

全身性強皮症(SSc)ではさまざまな臓器病変を生じますが、中でも間質性肺疾患(ILD)は、SSc患者の死亡の主たる要因です。EUSTARデータベースを用いた調査では、間質性肺疾患は、SSc関連の死亡原因の35.2%を占めていたことが報告されています。(図1)

SSc-ILD治療の重要性

図1

SSc-ILDは、高分解能CT(HRCT)における肺病変の広がりが大きくなると生存率が低下し、進行例は生命予後が不良です。そのため、特に進行が予想される症例には積極的な治療介入が望まれます。(図2)

SSc-ILD治療の重要性01

図2

SSc-ILDに対する治療介入を行う際、理想的な治療目標は、呼吸機能の回復です。しかし、線維化や血管障害は不可逆的な組織構造の破壊を伴うことから一度低下した機能の正常化は難しく、進行の抑制・阻止が現実的な目標となります。
SSc-ILDの診療では、予後不良な症例を見極めて、進行を防ぐために早期から治療を行うことが重要だと考えます。(図3)

SSc-ILD治療の重要性02

図3

治療介入すべき症例の特定

SSc-ILDの病型は、胸部HRCT所見と呼吸機能検査に基づき、Extensive diseaseとLimited diseaseに分類されます。

Extensive diseaseの場合、すでに高度呼吸機能低下があるケースを除き、原則治療を行います。一方、Limited diseaseの場合でも、進行リスクが高いケースは治療介入の対象となります。(図4)

治療介入すべき症例の特定01

図4

治療介入すべき症例の特定 - 進行予測 -

進行予測の手法には、SADLモデルやSPARモデルなどがあります。

SADLモデルは、喫煙歴(Smoking)・年齢(Age)・DLcoをスコア化し、合計の値からリスクを3段階で評価します。(図5)

治療介入すべき症例の特定 - 進行予測 -

図5

SPARモデルは、「6分間歩行試験直後のSpO2が94%以下」(SPO2)および「関節炎の存在又は既往」(ARthritis)の2点で1年後のILD進行を予測するモデルです。1つ以上該当する場合は感度84.0%、両方該当する場合は特異度98.6%で予測できることが報告されています。

SADLモデルでは、DLcoは60%未満に低下して初めてスコアとしてカウントされるため、ある程度進行した症例における進展予測に有用なモデルであるといえます。そのため、Limited diseaseにおける進展予測の評価には、SPARモデルが特に有用と考えられます。(図6)

治療介入すべき症例の特定 - 進行予測 -02

図6

また、診断時KL-6の値が高い症例では、将来的に呼吸不全に至る可能性が高いことが示されており、進行性のILDのリスクがあるSSc患者の特定に役立つ可能性があります。(図7)

治療介入すべき症例の特定 - 進行予測 -03

図7

Limited diseaseの進行リスクは、これらを用いて総合的に評価し、高リスクの症例には治療を行います。しかし、実際には低リスクでも進行が認められるケースや、判断が難しいケースがあります。その場合、6~12ヵ月ごとに胸部HRCT所見や呼吸機能検査の結果を評価して定期的なフォローを行い、進行を確認した場合には治療介入を検討することが重要です。(図8)

治療介入すべき症例の特定 - 進行予測 -04

図8

SENSCIS試験

概要
治療選択肢の1つである抗線維化薬オフェブは、進行例に限らず幅広いSSc-ILD患者に有用性が示されています。(図9)

概要

図9

SENSCIS試験ではSSc-ILD患者580例をオフェブ群あるいはプラセボ群にランダムに割り付け、52週以上薬剤を投与しました。選択基準における肺の線維化の程度はHRCTで10%以上とされ、Limited diseaseを含むSSc-ILD症例が幅広く組み入れられました。(図10)

概要02

図10

有効性

本試験の結果、主要評価項目である投与52週までのFVCの調整年間減少率について、オフェブ群はプラセボ群に対し、相対減少率として44%と有意な抑制効果が示されました(p=0.04,ランダム係数回帰モデル)。

ベースラインから投与52週時までのFVCの変化量はスライド右のグラフのとおり推移しました。(図11)

有効性01

図11

安全性

本試験の全期間における有害事象はオフェブ群98.3%、プラセボ群97.6%に認められました。オフェブ群では下痢76.4%、悪心33.3%、嘔吐27.1%など、プラセボ群では下痢32.6%、咳嗽21.9%、皮膚潰瘍、上咽頭炎それぞれ19.4%などが報告されました。(図12)

安全性01

図12

オフェブ群における重篤な有害事象は、間質性肺疾患、肺炎、呼吸困難、肺高血圧症などでした。また、投与中止に至った有害事象は50例、死亡に至った有害事象は6例報告されました。(図13)

安全性02

図13

まとめ

SSc-ILDは、予後不良な症例を見極めて早期介入により進行を防ぐことが重要です。
また、抗線維化薬オフェブは、進行例に限らず幅広いSSc-ILD患者への治療選択肢の1つとして検討されます。

今回ご紹介した内容を、先生の診療にお役立ていただけますと幸いです。

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