膠原病におけるILD診断とPF-ILD管理のポイント(静止画)

サイトへ公開: 2021年04月27日 (火)

ご監修:田中 良哉 先生(産業医科大学 医学部 第1内科学講座 教授)

田中先生

膠原病(CTD)は、皮膚、関節、内臓諸臓器などに障害を来す全身性疾患です。疾患を問わず呼吸器疾患の頻度が高く、中でも進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)は、呼吸機能の低下や呼吸器症状の悪化が認められる予後不良の疾患群です。患者さんの予後改善のためには、PF-ILDをできるだけ早期に見極め、進行性の線維化を早期に抑制することが重要です。
そこで本日は、CTDにおけるILD診断とPF-ILDの管理のポイントについてご紹介します。

CTDにおけるILDの合併と予後への影響

欧州及び米国における線維性ILDの有病率は図1の通りであり、CTDに伴うILD患者さんの13~40%に進行性線維化が伴っていると推定されています。CTDの診療では、こうした進行性線維化を早期に見極め、適切に管理していくことが重要です。(図1)

CTDにおけるILDの合併と予後への影響01

図1

図2はCTDの各疾患における死亡原因の内訳です。ご覧の通り、ILDはCTDの生命予後に影響を与える要因の1つであることが窺えます。

CTDにおけるILDの合併と予後への影響02

図2

PF-ILDの特徴と診断の流れ

ILDにおける進行性の線維化を見極めるためには、どのような評価を行えばよいのか、図3のPF-ILDの3つの特徴から考えてみましょう。
咳嗽や呼吸困難といった呼吸器症状の悪化は、問診によって確認していきます。呼吸機能の低下は、呼吸機能検査によって努⼒性肺活量 (FVC)などを測定し、評価します。そして、進⾏性の肺の線維化の評価については、⾼分解能 CT(HRCT)などによる画像検査が有⽤です。(図3)

PF-ILDの特徴と診断の流れ01

図3

図4は実際のILD診断の流れです。まず、問診による呼吸器症状の悪化や聴診所見などからILDの存在を疑います。こうした臨床的評価に加えて、呼吸機能検査、HRCTなどによる包括的な評価に基づき集学的診断を行い、治療、経過観察を判断します。また、その後も疾患の挙動を観察し疾患進行のモニタリングを継続します。

CTDにおけるILDの合併と予後への影響02

図4

ILD疑いにおける両背側捻髪音(fine crackles)聴取の有用性

日常診療でILDをスクリーニングする際、特に重要なポイントとなるのは聴診所見における両背側下肺野の捻髪音(fine crackles)の聴取です。

捻髪音とILDの関係を検討した研究では、両背側で捻髪音が聴取された患者さんは片背側のみで聴取された患者さんと比べて線維化ILD(FILD)のオッズ比が13.46と、捻髪音が線維化ILDの予測因子であることが示唆されました。また、捻髪音の聴取部位に対応するHRCT画像所見を解析すると、捻髪音の存在とHRCT上の対応部位における網状影などとの強い相関も認められました。(図5)

ILD疑いにおける両背側捻髪音(fine crackles)聴取の有用性01

図5

胸部聴診により捻髪音を確認する際には、次の2つがポイントとなります。まず、捻髪音は吸気終末時に聴取されますが、軽症例の場合は深吸気が必要です。また、肺底部背側は生理的無気肺を生じやすいため、深呼吸を繰り返して再現性を確認することが重要です。ILD早期診断の機会を逃さないためには、両背側で捻髪音を聴取された患者さんでILDを疑い、慎重に評価を行うことが大切です。

PF-ILDの管理アルゴリズム案

PF-ILDと診断した場合の管理について、図6のアルゴリズムでは、初期の包括的な評価によってPF-ILDを軽症、中等症、重症に分類し、重症度に応じたモニタリングや治療を選択することが示されています。
運動耐容能やHRCT検査によるモニタリングの頻度は、軽症の場合と中等症・重症の場合とで異なりますので、重症度に応じたモニタリングが必要です。また、中等症以上では抗線維化療法の開始が検討されます。(図6)

PF-ILDの管理アルゴリズム案01

図6

線維化のメカニズムとオフェブの作用機序

図7は、肺の線維化に関わるメカニズムと抗線維化薬オフェブの作用機序です。
肺の線維化の進行には、肺胞上皮細胞の障害、および組織修復の異常による細胞外基質の過剰な沈着が関与していると考えられています。こうした病態には、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)といった増殖因子を介するメカニズムが指摘されています。
オフェブは、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を標的とした低分子チロシンキナーゼ阻害剤であり、各受容体のATP結合ポケットを占拠して、PF-ILDの発症に寄与すると報告されている複数のシグナル伝達を抑制します。(図7)

線維化のメカニズムとオフェブの作用機序01

図7

INBUILD試験

試験概要:
オフェブは、PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制に対する有効性が検証されています。
本試験では、ご覧のILD患者さん663例をオフェブ群とプラセボ群に1:1で無作為に割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。主要評価項目について、ベースライン時の%FVC(70%以下、70%超)などの部分集団解析が事前に規定されていました。(図8)(図9)

INBUILD試験001

図8

INBUILD試験002

図9

有効性:
主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制が検証されました。また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、経過とともにグラフのように推移しました。(図10)

INBUILD試験003

図10

また、ベースライン時の%FVC別にみたFVCの年間減少率をみると、ベースライン時%FVC 70%以下の集団ではプラセボ群-207.1 mL/年、オフェブ群-115.4 mL/年でした。一方、ベースライン時%FVC 70%超の集団では、プラセボ群で-161.3 mL/年だったのに対して、オフェブ群では-31.3 mL/年でした。(図11)

INBUILD試験004

図11

安全性:
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした。(図12)

INBUILD試験005

図12

オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は、下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。

INBUIL6試験001

図13

続いて、投与52週までの下痢、悪心、嘔吐、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、CTCAE(有害事象共通用語基準)を用いた評価ではGrade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。適正使用ガイドの内容を確認し、適切に管理することが大事です。(図14)

INBUILD試験006

図14

まとめ

CTDの診療では、患者さんの予後に影響するILDの合併を見極め、ILDにおける線維化が進行してしまう前に、できるだけ早期から治療し、抑制することが重要です。
抗線維化剤オフェブは、PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験で呼吸機能低下の抑制が認められています。PF-ILDを伴うCTD患者さんの治療において、オフェブは肺の線維化を抑制するための新たな選択肢となることが期待されます。

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