特発性肺線維症の診断と治療(静止画)

サイトへ公開: 2023年04月28日 (金)

ご監修:早稲田 優子先生(福井大学医学系部門 内科学(3)分野 講師)

早稲田 優子先生

先生が次のような症例を診療される場合、どのような管理をお考えになるでしょうか。

特発性肺線維症(IPF)の予後特発性肺線維症(IPF)の予後 02

特発性肺線維症(IPF)の予後

IPFは予後不良の疾患です。IPFの5年生存率は20~40%と示されており、各種がんと比べても予後不良であることが示されています。

特発性肺線維症(IPF)の予後 03

抗線維化薬導入の目安となるIPFの予後予測因子

IPFの中心的な主要病態として、気道上皮細胞に対する慢性的な障害から慢性の線維化が生じてくる過程が考えられているため、治療には抗線維化薬が第一選択薬として用いられます1)※1
抗線維化薬の導入については、自覚症状のない軽症患者さんでも予後不良が予測される場合には、検討が必要とされています。

1 慢性安定期のIPF患者に投与することを提案する2)

こちらに、抗線維化薬導入の目安となる予後予測因子をお示しします。ベースライン因子としては、症状や労作時呼吸困難があることなどがあげられます。経時的因子としては、3~12ヵ月で%FVCが5~10%以上低下することや、%DLcoが15%以上低下することなどがあげられます。

抗線維化薬導入の目安となるIPFの予後予測因子

ベースライン時の6分間歩行試験時にSpO₂が4%以上低下することも、抗線維化薬導入の目安となる予後予測因子です。間質性肺炎患者さんを対象に、SpO₂の低下と死亡リスクの関係を検討した研究では、安静時のSpO₂と6分間歩行試験時の最低SpO₂の差が4%以上の場合、ハザード比が13.58だったことが報告されています。

抗線維化薬導入の目安となるIPFの予後予測因子02

早期に抗線維化薬導入を検討する理由

なぜ軽症患者さんであっても予後不良が予測される場合には、抗線維化薬の導入を検討する必要があるのでしょうか。

ご覧のように、IPFの臨床経過は個人差があるため予測ができず、安定している患者さんであっても急速に進行する可能性があります。Cのように、無治療で線維化が慢性的かつ徐々に進行する場合などは、早期に抗線維化薬を導入することで、生命予後を延長できると考えられます。

早期に抗線維化薬導入を検討する理由

IPFの診断と治療の進め方

ATS/ERS/JRS/ALAT※2が公表した『特発性肺線維症及び進行性肺線維症国際診療ガイドライン2022』に掲載されたIPFの診断アルゴリズムでは、IPFが疑われる患者さんに対し、まずは可能性のある原因や関連する状況について問診を行うことが示されています。問診の結果、特に原因がない場合、もしくは、原因があっても特定の診断の確認が取れない場合は、胸部HRCTの画像パターンを確認するとされています。HRCTの画像パターンを特定した後、多分野による集学的検討(MDD)を行い診断に至りますが、診断精度を高めるために、HRCTの画像パターンに応じて気管支肺胞洗浄や経気管支クライオ肺生検、外科的肺生検などを患者さんの状態に合わせて実施することも推奨されています。
IPFの治療については、同ガイドラインのIPFの臨床管理の流れが参考になります。
2 アメリカ胸部医学会(ATS)、ヨーロッパ呼吸器学会(ERS)、日本呼吸器学会(JRS)、およびラテンアメリカ胸部医学会(ALAT)

IPFの診断と治療の進め方

こちらの臨床管理の流れでは、治療に際しての考慮事項として、オフェブなどの抗線維化薬による薬物治療と、酸素療法や呼吸リハビリテーションといった非薬物治療の両方を検討するべきであることが示されています。加えて、肺高血圧や胃食道逆流症などの併存疾患や症状コントロールのための緩和ケア、死亡リスクの高い場合は、診断時に肺移植について評価することも示されています。 また、疾患進行のモニタリングについても具体的な期間が提案されています。肺機能検査及び6分間歩行試験は4~6ヵ月ごとあるいは臨床的に必要であればそれより早く実施を検討することが示されています。HRCTについては、臨床的に悪化が疑われる場合または肺癌のリスクがある場合は年1回検討するとされています。また、急性増悪が懸念される場合にも、HRCTの実施が検討されます。CT肺血管造影については、肺塞栓症の臨床的懸念がある場合に検討されます。

IPFの診断と治療の進め方02

まとめ

  • IPFは予後不良の疾患であり、早期に抗線維化薬の導入を検討することが重要です
  • 抗線維化薬導入の目安となる予後予測因子として、ベースライン時の6分間歩行試験時にSpO₂が4%以上低下することなどがあげられます。3~12ヵ月で%FVCが5~10%以上低下することや、%DLcoが15%以上低下することといった経時的な予後予測因子にも注意が必要です
  • IPFは、安定している患者さんであっても急速に進行する可能性があります。無治療で線維化が慢性的かつ徐々に進行する場合などは、早期に抗線維化薬を導入することで、生命予後を延長できる可能性があると考えられます
  • オフェブを含む抗線維化薬は、『特発性肺線維症及び進行性肺線維症国際診療ガイドライン2022』において、治療に際して検討すべき薬物治療として示されています

今回ご紹介した内容を、IPF患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

【引用】

  1. 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版. p.72. 2022
  2. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班、特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会. 編: 特発性肺線維症の治療ガイドライン 2017. 東京: 南江堂; 2017, p.14
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