進行性線維化を伴うRA-ILDの診断と治療(静止画)

サイトへ公開: 2023年03月30日 (木)

ご監修:金子 祐子先生(慶應義塾大学 医学部 リウマチ・膠原病内科 教授)

金子 祐子先生

先生が次のような経過の症例を診療される場合、どのような管理をお考えになるでしょうか。

進行性線維化を伴うRA-ILDの診断と治療(静止画)01

8年前

進行性線維化を伴うRA-ILDの診断と治療(静止画)02

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進行性線維化を伴うRA-ILDの診断と治療(静止画)03

RA-ILDの有病率・生存率・死因

関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)では、進行性線維化を伴う患者さんの割合は40%であり、特発性肺線維症(IPF)に次いで高いことが報告されています。

RA-ILDの有病率・生存率・死因

さらに、RA-ILDは予後不良の疾患です。RA-ILD患者さんの生存期間中央値は2.6年であり、関節リウマチ(RA)患者さん全体の生存期間中央値の9.9年に対し、有意に短いことが示されています。

RA-ILDの有病率・生存率・死因02

では、何がRA-ILD患者さんの死因となっているのでしょうか。
こちらに、IPF患者さん2集団とRA-ILD患者さん3集団について、それぞれの死因を検討した結果をお示しします。RA-ILDにおける主な死因は、IPFと同様に、急性増悪、慢性の疾患進行、肺炎及び肺癌でした。
したがって、これらの死因となる事象の発生を防ぐことが、RA-ILD患者さんの予後改善に重要であると考えられます。

RA-ILDの有病率・生存率・死因03

RA-ILDの病態

RA-ILDの病態についてみていきましょう。
ご覧のように、RA-ILDには遺伝的要因と環境要因があります。喫煙やPM2.5などの環境要因は、遺伝的感受性の高い個人にRA-ILDを誘発します。
肺が炎症を起こすと、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)、B細胞、濾胞樹状細胞の集合体で構成された三次リンパ組織が過剰に形成されます。濾胞樹状細胞はCXCL13※1などのケモカインを分泌し、T細胞やB細胞を動員して三次リンパ組織を形成します。Tfh細胞は、B細胞を抗CCP※2抗体やRF※3産生形質細胞に分化させます。これらの自己抗体は、好中球を刺激して好中球細胞外トラップの放出に関与します。好中球細胞外トラップは肺線維芽細胞を活性化し、肺筋線維芽細胞に分化させ肺の線維化に寄与します。
※1 CXCL13:C-X-C Motif Chemokine Ligand 13
※2 CCP:環状シトルリン化ペプチド
※3 RF:リウマトイド因子

RA-ILDの病態

RA-ILDに関連する因子

どのようなRA患者さんでRA-ILDの発現に注意する必要があるのでしょうか。
RA-ILDの発現に関連する因子を探索するため、私たちはRA患者さんを対象とした研究を行いました。多変量解析を行った結果、60歳以上、喫煙、リウマチ因子高値がRA-ILDに関連する独立した因子であることが明らかになりました。

RA-ILDに関連する因子

また、RAの臨床経過における関節炎の活動性とILDの発現にも関連があるのではないかと考えています。
こちらは、臨床経過中に新たにILDが発現したRA患者さんにおける胸部CTの時系列所見です。関節炎寛解期にはILDは認められませんが、関節炎が中等度疾患活動性のときはNSIPパターンの新たな発現がみられました。さらに、高度疾患活動性のときにNSIPパターンからUIP様パターンの混在がみられました。その後、関節炎がコントロールされ寛解すると、UIP様パターンの部分的な改善がみられました。
これらのRA-ILDの発現に関連する因子は、治療戦略を検討する際にも、考慮に入れると良いのではないかと考えています。

RA-ILDに関連する因子02

RA-ILDの治療戦略

最後に、RA-ILDにおける4つの主要な死因である急性増悪、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)を含む慢性の疾患進行、肺癌及び肺炎のそれぞれについて、治療戦略をお示しします。
RA-ILDの急性増悪に対しては、予防戦略として、関節炎の寛解又は低疾患活動性の達成を目指した治療を行います。また、グルココルチコイドや免疫抑制薬による寛解導入を行います。
PF-ILDに対しては、関節炎が活動性であれば関節炎の寛解又は低疾患活動性の達成を目指した治療を基本として行います。これに加えて、抗線維化薬を用いた治療も検討します。関節炎が非活動性の場合は、抗線維化薬を用いた治療を行います。PF-ILDに対する適応を有する抗線維化薬として、オフェブがあります。
肺癌に対しては、予防戦略として禁煙を行うとともに、胸部CTによる年1回のスクリーニングによって早期発見することも重要です。
感染性の肺炎に対しては、ワクチン接種などによる感染予防が戦略となります。

RA-ILDの治療戦略

まとめ

  • RA-ILDは予後不良の疾患であり、主な死因として、急性増悪、慢性の疾患進行、肺癌及び肺炎が挙げられます
  • RA-ILDの発現に関連する因子として、60歳以上、喫煙、リウマチ因子高値、関節炎の活動性が考えられます。治療戦略を検討する際は、これらの因子を考慮する必要があると考えます
  • PF-ILDの特徴を示す場合は、オフェブを用いた抗線維化療法も選択肢のひとつとなります

今回ご紹介した内容が、RA-ILD患者さんのご診療のお役に立ちましたら幸いです。

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