慢性過敏性肺炎の診断とオフェブの有用性(静止画)

サイトへ公開: 2021年06月22日 (火)
宮崎先生

ご監修: 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 統合呼吸器病学 教授 宮崎 泰成 先生

慢性過敏性肺炎(Chronic Hypersensitivity Pneumonitis:CHP)は、肺の線維化を伴う間質性肺疾患の1つです。CHPの中でも線維性CHPの場合、臨床経過や線維化メカニズムが特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)と類似しており、治療においては、抗原回避や抗炎症治療に加えて、線維化に対する治療を考慮することが重要です。ここでは、過敏性肺炎(HP)の疾患概念、CHPの分類と生命予後、治療戦略、及び抗線維化薬であるオフェブのCHPに対する有用性について解説します。

過敏性肺炎(HP)とは

過敏性肺炎は、免疫学的な機序で発症する原因の明らかな間質性肺疾患(ILD)です1)。鳥関連抗原や真菌・細菌、無機物(イソシアネート)などの特定の抗原を反復吸入して感作が成立した個体において、再び同一の抗原を吸入した際に肺局所で生じるⅢ型・Ⅳ型アレルギー反応が発症に関与します2)。海外における過敏性肺炎の年間発症率は表1に示すとおりであり、米国ではこの30年間で約3倍に増加しています3)

また、日本における罹患数は1~2万人と推定されています。 過敏性肺炎は、数週~数ヵ月で経過する急性過敏性肺炎(AHP)と数ヵ月から数年で経過する慢性過敏性肺炎(CHP)に分類されます。AHPは咳嗽や労作時呼吸困難、発熱、全身倦怠感などの症状を呈し、肉芽腫、細気管支炎及び胞隔炎などがみられます。一方、CHPでは咳嗽や労作時呼吸困難、全身倦怠感、食欲不振、体重減少などの症状を呈し、肺の線維化が病態の主体です4)。日本の疫学調査において、CHP患者の約6割は鳥関連過敏性肺炎であったと報告されています(表2)5)

表1 過敏性肺炎の年間発症率の推移

過敏性肺炎の年間発症率の推移

宮崎泰成.: アレルギー 2020; 69(5): 329-333.

表2 CHP患者における疾患サブタイプの割合(日本)

CHP患者における疾患サブタイプの割合(日本)

Okamoto T. et al.: Respir Investig 2013; 51(3): 191-199. より作表

CHPの分類と生命予後

CHPは病理診断や画像所見、気管支肺胞洗浄(BAL)の検査所見から、非線維性CHPと線維性CHPに分類されます(表3)6-8)。非線維性CHPの病理組織は器質化肺炎(OP)及び細胞浸潤性NSIPパターンを示し、画像所見では、すりガラス陰影やモザイクパターンなどが認められ、BALによるリンパ球の割合は35%(目安)を超えます6,7)。一方で、線維性CHPの病理組織は線維性NSIP及びUIPパターンを示し、画像所見で網状影や牽引性気管支拡張、蜂巣肺といった肺線維化に特徴的な所見がみられます。

また、BALによるリンパ球の割合は15~20%未満(目安)です。線維性CHPの病態は完全には解明されていませんが、臨床経過は特発性肺線維症(IPF)と類似しています8)。また、線維化のメカニズムもIPFと類似しており、組織修復の異常が誘因となり、線維芽細胞の活性化及び細胞外マトリクスの産生によって線維化が生じると考えられています9)。 CHP患者26例を対象とした生命予後に関する研究において、病理組織パターンは19例が線維性NSIPパターンあるいはUIPパターンであり、約7割の患者が線維性CHPでした。病理組織パターン別の生存率を比較すると、非線維性CHPであるBOOPパターンあるいは細胞浸潤性NSIPパターンの患者に比べて、線維性CHPである線維性NSIPパターンあるいはUIPパターンの患者は予後不良でした(線維性NSIPパターン:p=0.016、UIPパターン:p=0.015)(図1)10)。このように、CHPにおける肺の線維化は生命予後に影響することから、目の前の患者が非線維性CHPか線維性CHPかを考慮して治療方針を考えることが重要です。

表3 CHPにおける非線維性及び線維性の特徴

CHPにおける非線維性及び線維性の特徴

6)Salisbury ML. et al.: Am J Respir Crit Care Med 2017; 196(6): 690-699.

7)宮崎泰成.: Modern Physician 2019; 39(8): 758-761.

8)De Sadeleer LJ. et al.: Eur Respir J 2020; 55(4): 1901983. より作表

図1 CHPにおける病理組織パターン別の生命予後

CHPにおける病理組織パターン別の生命予後

Ohtani Y. et al.: Thorax 2005; 60(8): 665-671.

過敏性肺炎の治療戦略

過敏性肺炎の治療戦略の概念図を示します(図2)3)。過敏性肺炎の治療では、原因となる抗原を特定し、環境中から抗原を排除すること(抗原回避)が基本となります。AHPの呼吸不全例ではアレルギー性炎症をコントロールするためにステロイドを用います。CHPにおいては、抗原の回避が不十分であるとステロイドや免疫抑制薬を使用しても病態が進行する可能性があります。非線維性CHPに対しては、炎症のコントロールを目的にステロイドを用います。一方、線維性CHPに対しては、肺が一度線維化すると治療が困難になることから、抗線維化薬による治療を考慮します3,4)

図2 過敏性肺炎(HP)の治療戦略の概念図

過敏性肺炎(HP)の治療戦略の概念図

宮崎泰成.: アレルギー 2020; 69(5): 329-333.より作図

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)に対するオフェブの有用性を検討したINBUILD試験

試験概要:INBUILD試験[国際共同第Ⅲ相試験(検証試験)] 国際共同第Ⅲ相試験として実施されたINBUILD試験11,12)では、慢性的に線維化が進行するILDを「進行性線維化を伴う間質性肺疾患:progressive fibrosing interstitial lung disease(PF-ILD)」として捉え、抗線維化薬であるオフェブの有効性と安全性が検討されました(図3)。

本試験では、IPF以外のILDと診断され、胸部HRCTでの線維化の広がりが全肺野の10%超で確認され、かつ医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらずスクリーニング前の24ヵ月以内において ⅰ)~ ⅳ)のいずれかのILDの進行性の基準を満たす患者が対象とされました(表4)。 本試験におけるILD臨床診断グループ別の患者割合をみると、過敏性肺炎はオフェブ群及びプラセボ群とも約25%を占めており、本試験で最も多い疾患でした(図4)12)

図3 試験デザイン

試験デザイン

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727.

本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

承認時評価資料

試験デザイン:ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験

実施地域:日本を含む15ヵ国、153施設

目的:進行性線維化を伴う間質性肺疾患患者におけるオフェブ150mg 1日2回投与の有効性と安全性を検討する。

対象:特発性肺線維症を除く進行性線維化を伴う間質性肺疾患の患者663例(日本人108例含む)

方法:対象患者をオフェブ群あるいはプラセボ群に1:1の比率でランダムに割り付け、試験薬を52週間投与し、有効性と安全性を検討した。中央判定したHRCTパターンに基づき、UIP様線維化パターン、又は他の線維化パターンにより層別化してランダム化を行った。用法・用量として150mgを1日2回投与した。投与期間は52週以降、本試験終了(最後の患者の最終観察終了時と定義)、又は投与中止の理由に該当するまでとし、割り付けられた試験薬を盲検下で継続投与した。有害事象への対応として、中断又は100mg 1日2回への減量を可能とした。

主要評価項目:投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)

その他の評価項目:全期間※のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間 など

解析計画:

解析対象として、全患者(全体集団)及びHRCTでUIP様線維化パターンがみられる患者(HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団)の2つをco-primary評価集団と定義し、主要評価項目、副次評価項目及びその他の評価項目の解析はco-primary評価集団で実施した主要評価項目の解析にはランダム係数回帰モデル(ランダム切片・傾き)を用いた。全期間※のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間については、log-rank検定(全体集団の解析のみHRCTパターンで層別化)を用いて解析し、投与群の項を含め、同じ因子で層別したCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)及びその95%信頼区間(CI)を求めた。プラセボ投与に対するオフェブ150mg 1日2回投与の優越性の検証は、2つのco-primary評価集団で主要評価項目について検定を実施した。検定の多重性の調整にはHochberg法を用い、2つのco-primary評価集団でともに両側有意水準5%で有意であった場合、又はいずれかの集団において両側有意水準2.5%で有意であった場合に統計学的に有意とした。主要評価項目について、次の部分集団解析を行うことが事前に規定された。性別(男性、女性)、年齢(65歳未満、65歳以上)、人種(白人、アジア人、黒人又はアフリカ系アメリカ人)、ベースライン時の%FVC(70%以下、70%超)、ILD臨床診断グループ[過敏性肺炎(過敏性肺臓炎)、特発性非特異性間質性肺炎、分類不能型特発性間質性肺炎、自己免疫性間質性肺疾患、他の間質性肺疾患]。

全期間:最後の患者の最終観察終了時

表4 ILDの進行性の基準

ILDの進行性の基準

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

承認時評価資料

図4 ILD臨床診断グループ別の患者割合

ILD臨床診断グループ別の患者割合

承認時評価資料

■有効性:投与52週までのFVCの年間減少率

主要評価項目である投与52週までのFVCの年間減少率において、オフェブ群ではプラセボ群に比べてFVCの年間減少率の低下が有意に抑制されました(図5)。全体集団における投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-80.8mL/年、プラセボ群-187.8mL/年であり、相対減少率は57%でした(群間差:107.0mL/年、95%CI:65.4-148.5、p<0.0001)。HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団においては、それぞれ-82.9mL/年、-211.1mL/年であり、相対減少率は61%でした(群間差:128.2mL/年、95%CI:70.8-185.6、p<0.0001)。オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが示されました11,12)

ILD臨床診断グループ別にみた投与52週までのFVCの年間減少率(部分集団解析)は図6に示すとおりであり、オフェブの投与によるFVC低下の抑制効果以下の通りでした12)

図5 投与52週までのFVCの年間減少率:主要評価項目

図5 投与52週までのFVCの年間減少率:主要評価項目

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

承認時評価資料

図6 ILD臨床診断グループ別の投与52週までのFVCの年間減少率:部分集団解析

ILD臨床診断グループ別の投与52週までのFVCの年間減少率:部分集団解析 

Wells AU. et al.: Lancet Respir Med 2020; 8(5): 453-460. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。 承認時評価資

■有効性:ILDの急性増悪又は死亡までの期間

CHPの経過中に、急激な呼吸機能の悪化である急性増悪が発現する場合があります。特に、UIPパターンのCHP患者における急性増悪の2年間での発現率は11.5%とIPF急性増悪と同程度であり、急性増悪を発現した患者の死亡率は86%と予後不良であることが示されています13)

そのため、CHP患者の予後を改善するためには、急性増悪を抑制する必要があると考えられます。 本試験では、全期間※のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間の評価が行われ、オフェブ群におけるリスク減少率は、全体集団では33%(ハザード比0.67、層別Cox回帰モデル)、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団(co-primary評価集団・部分集団解析)では38%(ハザード比0.62、Cox回帰モデル)でした(図7)12)

※ 全期間:最後の患者の最終観察終了時

図7 全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間:その他の評価項目

全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間:その他の評価項目

承認時評価資料

■安全性

全体集団での全期間※1における有害事象は、オフェブ群では332例中326例(98.2%)、プラセボ群では331例中308例(93.1%)に認められました(表5)。オフェブ群における重篤な有害事象※2、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は表5のとおりでした。また、オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)、上咽頭炎及び食欲減退が各54例(16.3%)などでした(表6)12)。 本試験における投与52週までの肝酵素上昇、下痢、悪心、嘔吐の有害事象の重症度は表7に示すとおりでした。オフェブ群において、肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。下痢は、Grade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。12)

※1 全期間:最後の患者の最終観察終了時
※2 1名を複数の重篤度分類基準でカウントしている場合がある

表5 全期間における有害事象の概要

全期間における有害事象の概要

承認時評価資料

表6 全期間におけるいずれかの治療群で発現割合5%超の有害事象

全期間におけるいずれかの治療群で発現割合5%超の有害事象

承認時評価資料

表7 投与52週までの肝酵素上昇、下痢、悪心、嘔吐の有害事象の重症度

投与52週までの下痢・悪心・嘔吐の有害事象の重症度

承認時評価資料

今後のCHP治療の展望

過敏性肺炎の治療においては、臨床経過や治療反応性が異なることから、急性過敏性肺炎(AHP)と慢性過敏性肺炎(CHP)の診断に加え、CHPをさらに線維性CHPと非線維性CHPに分類して治療戦略を考えることが重要です。また、CHPの約7割は線維性CHPであり、肺の線維化は生命予後に影響することから、治療方針の決定には線維化を考慮する必要があります。

CHPを含むさまざまなILDの中で、PF-ILD患者を対象としたINBUILD試験では、抗線維化薬オフェブの投与により、呼吸機能の低下が抑制されることが示されました。これまで、線維性CHPに対してエビデンスを持つ有効な治療法はありませんでしたが、今後は、HRCTにより確認された進行性の肺の線維化、努力肺活量などの呼吸機能の低下、咳や呼吸困難などの呼吸器症状の悪化がみられるなど、線維化が進行しているCHP患者さんにとって、オフェブは新たな治療選択肢になると考えられます。

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