ご監修:坂東 政司先生(自治医科大学 内科学講座 呼吸器内科学部門 教授)
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先生が次のような症例を診療される場合、どのような管理をお考えになるでしょうか。
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抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に伴う間質性肺疾患(ILD)について
血管炎は、大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎の3つに分類され、ANCA関連血管炎は、免疫複合体全身性小型血管炎とともに小型血管炎に含まれます(図1)1)。
図1
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またANCA関連血管炎は、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に分類されます。ANCAの蛍光染色パターンには、細胞質型ANCA(c-ANCA)と核周囲型ANCA(p-ANCA)の2つがあります(図2)2)。ANCA関連血管炎においてANCAが認識する主要な標的抗原はPR3とMPOであり、PR3 ANCAは通常c-ANCAと関連し、MPO ANCAはp-ANCAと関連します3)。
PR3:プロテイナーゼ3、MPO:ミエロペルオキシダーゼ
図2
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日本においては、ANCA関連血管炎の中でもMPAの発生率が高いことが報告されています。
日本と英国の65歳以上の高齢者を対象とした研究では、ANCA関連血管炎全体の年間発生率は、日本で100万人あたり57.0人、英国で47.9人であったのに対し、MPAの年間発生率は日本で100万人あたり50.7人、英国で20.8人でした4)。
MPAを含め、ANCA関連血管炎では全身にさまざまな症状や病変が認められます5)。肺の線維化や間質の異常については、MPA患者さんの32~90%で発現するとされており6)、間質性肺疾患はANCA関連血管炎で認められる病変の中で主要な肺病変と考えられます(図3)。
図3
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ここで、MPAとILDの関係について整理してみましょう。
まず、MPAに伴って認められるILDがあります。一方、MPAの発症を伴わない特発性間質性肺炎(IIPs)の中に、ANCAが陽性を示す場合があります。この2つをまとめてANCA陽性ILDと呼びます。
なお、MPAの発症を伴わないANCA陽性を示すIIPsから、約20~40%でMPAが発症することが報告されています(図4)7)。
図4
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ILDがANCA関連血管炎患者さんの予後に与える影響
ILDはANCA関連血管炎患者さんの予後にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
日本人ANCA関連血管炎患者さん1,147例を対象とした研究で、肺病変の種類別に累積生存率が調べられています。緑色で示すILDを伴う患者さんの1年生存率は69.9%、5年生存率は50.2%であり、肺胞出血に次いで予後不良であることが報告されています(図5)8)。
このように、ILDがANCA関連血管炎患者さんの予後に及ぼす影響を考えると、積極的にILDのマネジメントを行うことが重要であるといえます。
図5
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ANCA関連血管炎診療におけるILDのスクリーニング及び診断
ここからは、ANCA関連血管炎診療におけるILDのスクリーニング及び診断についてみていきましょう(図6)9)。
①症状・徴候
進行したILDでは乾性咳嗽や労作時呼吸困難が認められます。一方で、病初期は無症状の場合も多いとされています。そのほかに、ばち指や胸部聴診でのfine cracklesが認められます。
②血液検査
CRPなどの炎症マーカーに加えて、KL-6やSP-D、SP-Aといった血清の間質性肺炎マーカーの測定を行います。
③画像所見
胸部X線において両側下肺野優位な網状陰影や輪状陰影を認めることが多く、また、胸部HRCTでは胸膜直下の網状病変やすりガラス病変、牽引性気管支拡張、蜂巣肺などが認められます。
④呼吸機能検査
呼吸機能検査で認められる特徴として、肺活量の低下と、病初期からの肺拡散能(DLco)低下があります。
⑤病理検査
可能であれば、経気管支クライオ肺生検や胸腔鏡下肺生検を実施し、病理組織学的検討を行うことが望ましい。病理組織学的所見ではUIP pattern主体の所見を多く認める一方で、NSIP patternの混在やリンパ濾胞の形成、細気管支炎の合併など多彩な所見を認めるとされています。
図6
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病態形成の観点からみたANCA関連血管炎に伴うILDの治療
続いて、ANCA関連血管炎に伴うILDの治療について、病態形成の観点からみていきましょう。
ANCAを介したILDの発症には、遺伝的素因に加え、喫煙や粉塵曝露などの環境要因が重要であると考えられています。これらの要因によって異常な免疫応答が生じた結果、ANCAが産生されます。また、ANCAはマクロファージから産生されたTNFなどのサイトカインとともに好中球を活性化します。好中球の活性化には補体第二経路(alternative pathway)を介した補体C5aも関与しています。そして、ANCAの好中球への結合は好中球細胞外トラップ(NETs)の形成及び放出とともに活性酸素種やタンパク質分解酵素の放出を誘導します。
NETsによって生じる肺毛細血管炎とそれに続く肺胞出血、好中球の活性化に続くIL-17の発現、そして活性酸素種などの放出によって、線維芽細胞の増殖や筋線維芽細胞への分化が誘導され、細胞外マトリクスが過剰に蓄積した状態、すなわち肺の線維化が起こります(図7)10)。
このような病態形成メカニズムが背景にあることから、治療選択肢のひとつとして抗線維化療法が考えられます。
図7
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抗線維化療法の対象となる患者さんについて、「ANCA関連ILDの治療アルゴリズム案」10)に沿ってみていきましょう。
まず、HRCTで原因不明の間質性病変が認められ、かつANCA関連血管炎の所見が認められた患者さんでは、放射線学的所見のパターンにかかわらずANCA関連血管炎のガイドラインに沿った治療が選択肢となります。
一方で、ANCA関連血管炎の所見が認められないANCA陽性ILD患者さんの治療選択肢は、リウマチ専門医、呼吸器専門医、放射線科医が参加した多分野による集学的検討(MDD)の結果で異なります。抗線維化療法は、UIPパターンで進行性線維化が認められた場合の治療選択肢となります。また、線維性NSIPパターンで進行性線維化を伴う場合や、NSIPもしくはOPパターンでグルココルチコイドなどの免疫修飾薬による治療を行ったものの進行性線維化が認められた場合は、抗線維化薬の併用が考慮されます(図8)。
図8
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まとめ
ILDはANCA関連血管炎で認められる主要な肺病変のひとつで、患者さんの予後にも影響を及ぼす疾患です。そのため、日頃のANCA関連血管炎診療においてはILDの病態や臨床経過に応じたマネジメントが重要となります。
ILDのスクリーニング方法としては、乾性咳嗽や労作時呼吸困難などの自覚症状の確認、血液検査におけるKL-6やSP-Dなどの測定、胸部X線や胸部HRCT所見の確認などがあります。
また、一部のANCA関連血管炎に伴うILD患者さんの治療選択肢として、抗線維化療法があります。抗線維化療法の必要性の判断は、MDDによる呼吸機能検査、自覚症状およびHRCTの経時的変化などの進行性線維化に関する総合的な評価に基づいて行います。
今回ご紹介した内容を、ANCA関連血管炎患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。
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