全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の診断と治療(静止画)

サイトへ公開: 2023年04月28日 (金)

ご監修:川口 鎮司先生(東京女子医科大学医学部 内科学講座膠原病リウマチ内科学分野 臨床教授)

川口 鎮司先生

先生が次のような経過の症例を診療される場合、どのような管理をお考えになるでしょうか。

全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の診断と治療(静止画)01

10年前

全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の診断と治療(静止画)02

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全身性強皮症における間質性肺疾患の有病率と死亡原因

全身性強皮症における間質性肺疾患の有病率と死亡原因

日本における全身性強皮症(SSc)患者さん及びSScに伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)患者さんを対象に、合併症の有病率が調査されています。その結果、間質性肺疾患(ILD)はSScの診断前12ヵ月のベースライン期間において、最も頻度の高い合併症であり、その頻度は、JMDC※1で29.3%、MDV※2で30.1%でした。

1 JMDC:健康保険レセプトデータベース
2 MDV:病院診療レセプトデータベース

全身性強皮症における間質性肺疾患の有病率と死亡原因02

ILDを発症する割合は、SScのサブタイプによって異なることが報告されています。SSc患者さん3,656例を対象としたレジストリー研究において、ILDを発症する割合は、限局皮膚硬化型SSc(lcSSc)において35%、びまん皮膚硬化型SSc (dcSSc)において53%でした。

全身性強皮症における間質性肺疾患の有病率と死亡原因03

ILDはSScにおいて発症頻度が高いだけでなく、主要な死亡原因にもなりうる合併症です。SScに関連して死亡した患者さん128例を対象としたレジストリー研究においては、SScの死亡原因のうちILDは35%と最も高い割合を占めていました。

これらの結果から、SScの合併症の中でもILDの管理は重要であると考えられます。

ILDの管理が必要なSSc患者さんの特徴

どのようなSSc患者さんでILDの管理に注意が必要なのでしょうか。
こちらは、SSc-ILDにおける進行の予測因子です。
患者さんの背景としては、高齢、男性、dcSScに注意が必要です。
また、呼吸機能検査において病初期の1~2年でFVC及びDLcoの低下が認められることや、HRCT検査においてILD領域の増加が認められることにも注意が必要です。
さらに、注意すべきバイオマーカーとしては、血清中CRP※3やKL -6※4、CCL18※5、抗Scl-70抗体※6の陽性が挙げられます。

3 CRP:C反応性たんぱく
4 KL-6:Krebs von den Lungen-6
5 CCL18:ケモカインリガンド18
6 抗Scl-70抗体:抗scleroderma-70(トポイソメラーゼⅠ)抗体

ILDの管理が必要なSSc患者さんの特徴

SSc-ILDの予後・進展予測:SPARモデル

SSc-ILDの管理においては、ILDの予後・進展を予測することも重要です。
SSc-ILDの予後・進展予測モデルのひとつに、SPARモデルがあります。SPARモデルでは、「6分間歩行試験後のSpO2」及び「関節炎のエピソード」を評価し、それぞれを0点もしくは1点で点数化し、その合計点を用いて1年後のILD進行を予測します。1点以上の場合は感度84.0%、2点の場合は特異度98.6%で疾患進行を予測できることが報告されています。

SSc-ILDの予後・進展予測:SPARモデル

SSc-ILDの管理

最後に、どのようにSSc-ILDの管理を行えば良いのか、『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』に掲載されているSSc-ILDの治療アルゴリズムに沿ってみていきましょう。
まず、SSc診断時には呼吸器症状の有無にかかわらず、全例で胸部HRCTを実施し、ILDの有無を確認することが推奨されています。
ILDが認められた場合は、胸部HRCT所見と呼吸機能検査によってLimited diseaseあるいはExtensive diseaseに病期分類を行います。HRCT所見において、病変の広がりが20%未満の場合はLimited disease、20%より広い場合はExtensive diseaseに分類します。HRCTでの病変の広がりの判断が困難な場合は、%FVCが70%以上であればLimited disease、70%未満であればExtensive diseaseに分類します。
Extensive diseaseの場合、すでに高度肺機能低下があるケースを除いて、薬剤による治療を開始し、その後6~12ヵ月ごとに胸部HRCTや呼吸機能検査によって、ILDの進行を評価します。Limited diseaseでILD進展が高リスクと判断される場合も、薬剤による治療を開始し、6~12ヵ月ごとにILDの進行を評価します。ILD進展が低リスクの場合は、6~12ヵ月ごとに評価し、ILDの進行が認められた場合には、薬剤による初期治療を検討します。
抗線維化剤オフェブは、本アルゴリズムにおいて、初期治療における選択肢のひとつとして記載されています。
SSc診断時の胸部HRCTでILDが認められなかった場合でも、その後にILDが出現、もしくは進行することがあるため、胸部HRCT及び呼吸機能検査によるスクリーニングを6~12ヵ月ごとに行うことが推奨されています。

SSc-ILDの管理

まとめ

  • ILDは、SScにおいて発症頻度が高いだけでなく、主要な死亡原因としても報告されている合併症です
  • SSc-ILDの管理は、高齢、男性、dcSScを背景にもつ患者さんで注意して行う必要があります。呼吸機能検査やHRCT検査、バイオマーカーも、SSc-ILDを管理する上で重要な所見になります
  • SSc-ILDの診療においては、呼吸機能検査やHRCT検査によるスクリーニングとともに、SPARモデルなどによるILDの予後・進展予測を行い、治療方針を検討します
  • ILDの予後・進展リスクが高い場合や、ILDの進行が認められる場合には、治療選択肢のひとつとしてオフェブを検討することができます

今回ご紹介した内容を、SSc-ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

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