PM/DM-ILDとオフェブのPF-ILDにおける有効性・安全性(静止画)

サイトへ公開: 2021年06月22日 (火)

更新日 2020年12月

PM/DMの疫学

ご監修: 日本医科大学 リウマチ膠原病内科 准教授 五野 貴久 先生
多発性筋炎(PM)/皮膚筋炎(DM)は間質性肺疾患(ILD)の合併率が比較的高く、ILDが急性・慢性に関わらず進行している場合は、進行・再燃の防止や急性増悪の予防が重要です。
本コンテンツでは、PM/DM-ILDと抗線維化薬オフェブの進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)における有効性・安全性について日本医科大学 リウマチ膠原病内科 准教授 五野 貴久 先生の解説をご覧いただけます。

PM/DMの疫学

PM/DMは骨格筋と皮膚を対象とする自己免疫疾患で、ILDを合併した場合の1年生存率は85.8%、5年生存率は60.4%と報告されています。
PM/DM患者さんのILD合併率は23.1~50.4%1-3)と高率であると報告されていますが、ILDの合併頻度や発症様式、および予後は、検出される自己抗体の種類によって大きく異なることが知られています。(図1)

図1

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PM/DM-ILDにおける筋炎特異自己抗体

こちらは、各抗体陽性患者さんにおけるILDの合併率です。特に、抗ARS 抗体、抗MDA5抗体陽性患者さんで高率にILDが併発していることが示されています。一般的に、抗MDA5抗体陽性患者さんは、極めて予後不良な急速進行型ILDの合併頻度が高いことが知られています。

一方、抗ARS 抗体陽性患者さんは、比較的、短期生存率の高い慢性進行型ILDの合併頻度が高いことが知られていますが、ILDの急性増悪により予後不良となる可能性があります。

抗ARS抗体陽性ILD患者さん36例を対象としたコホート研究では、観察期間中央値72ヵ月の間に7例が死亡し、死因は5例がILD急性増悪、2例が肺炎でした4)。(図2)

図2

図2

抗ARS抗体には、抗Jo-1抗体や抗EJ抗体などの8種類が存在 し、日本人患者さん165例を対象に行われた後ろ向き解析では、ご覧の6種類において陽性患者さんが報告されています。これら6種類の抗体すべてにおいて、ILDとの関連性が示されています。

抗ARS抗体陽性患者さんに共通してみられる頻度の高い臨床症状としては、ILDのほか、筋炎、関節炎、レイノー現象、発熱、機械工の手などがあり、これらをまとめて抗ARS抗体症候群と呼びます。(図3)

図3

図3

PM/DM-ILDの治療

PM/DM-ILDの治療は、どのように進めればよいのでしょうか。
PM/DM-ILDの発症様式には、急性型、亜急性型、慢性型があり、それぞれに対して適切な目標を定め、治療を行う必要があります。
『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020』では、PM/DM-ILDの治療目標において、急性の場合は「寛解(救 命)」、亜急性の場合は「改善、進行防止、再燃防止」、慢性の場合は「状態の維持、急性増悪の予防」とされています。(図4)

図4

図4

こちらは、同指針に記載されているPM/DM-ILDの治療アルゴリズムです。急性/亜急性の場合、抗MDA5抗体検査の結果が出るまで、高用量ステロイドとカルシニューリン阻害薬による治療を行い、抗MDA5抗体陽性が判明した場合は、高用量ステロイド、タクロリムス、またはシクロスポリン、シクロフォスファミド静注療法の三者併用療法を考慮します。ただし、身体所見、画像所見より、抗MDA5抗体陽性急速進行性ILDが疑われ予後不良と判断した場合には、抗体結果を待たずに三者併用療法を開始してもよいと注釈を付記しております。(図5)

図5

図5

慢性進行型の場合、抗MDA5抗体および抗ARS抗体のどちらかが陽性の場合は、プレドニゾロン(PSL)と免疫抑制薬による治療を行います。
PM/DM-ILDの治療効果などの評価や予後予測においては、KL-6、SP-Dなどの血清バイオマーカーの有用性が示されています。いずれも治療経過中の上昇による予後不良が報告されており、SP-Dは呼吸機能障害との関連性も報告されています。(図6)

図6

図6

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性 (INBUILD試験)

試験概要:
急性・亜急性/慢性進行型PM/DM-ILDの治療においては、各自己抗体に対応した治療も検討した上で、進行防止や状態維持を念頭においた薬剤選択が重要であると考えられます。
抗線維化薬であるオフェブは、「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)」患者さんを対象にしたINBUILD試験において、呼吸機能に対する有効性が検討されています。
本試験では、日本人108例を含む663例の患者さんをオフェブ群とプラセボ群に1:1で割り付けました。主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。(図7)(図8)

図7

図7

図8

図8

組み入れ基準のILDの進行性の基準には、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化および胸部画像上での線維化変化の増加が用いられました。(図9)

図9

図9

有効性:
主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群はプラセボ群に比べて57%の相対的減少を認めまし た。このことから、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが検証されました。
ベースラインから52週までのFVCの変化量は、経過とともにご覧のように推移しました。(図10)

図10

図10

また、全期間におけるILDの初回急性増悪または死亡までの期間について、オフェブ群のプラセボ群に対する相対リスクの減少は、全体集団で33%でした。(図11)

図11

図11

安全性:
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は、下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。また、オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは、肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。さらに、オフェブ群において投与中止に至った有害事象は、下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全5例、呼吸不全4例などでした。(図12)

図12

図12

続いて、有害事象として認められた肝酵素上昇、下痢、悪心、嘔吐の、重症度を示します。オフェブ群において、肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。下痢は、Grade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。(図13)

図13

図13

PM/DM患者さんは、ILD合併率が比較的高く、自己抗体によって治療方針は異なります。ILDが急性・慢性に関わらず進行している場合は、進行・再燃の防止や急性増悪の予防が重要です。
オフェブは、PF-ILD患者さんを対象にしたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制効果と初回急性増悪または死亡のリスクに関する減少効果が示されました。
今後、PM/DM-ILDの治療において、進行性線維化がみられるILDの進行を抑制するために、オフェブが治療選択肢の一つになる可能性があると考えます。
今回ご紹介した内容を、診療にお役立ていただけると幸いです。

文献:

1) Marie I. et al.: Arthritis Rheum 2002; 47(6): 614-622.
2) Kang EH. et al.: Rheumatol Oxf Engl 2005; 44(10): 1282–1286.
3) Tomimitsu H, et al.: Mod Rheumatol 2016; 66: 398-402.
4) K. Tanizawa et al.; Respir Med. 2017;127:57-64.

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