ILD患者さんを近隣施設へ逆紹介する際の工夫(静止画)

サイトへ公開: 2024年04月25日 (木)

ご監修:安部 光洋先生(日本赤十字社 成田赤十字病院 呼吸器内科 副部長)

近年、間質性肺疾患(ILD)疑い患者さんの早期発見と専門医への早期紹介が重要であるという認識が、かかりつけ医の先生方の間で広まってきています。一方で、ILD疑い患者さんの紹介先となる専門医の先生方の中には、紹介された患者さんの診療やフォローのすべてをご施設だけで担うことに、難しさを感じられている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。 
千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科では、1人でも多くのILD患者さんに適切な医療を提供できる体制を作るために、症状が安定しているILD患者さんをかかりつけ医の先生に逆紹介する取り組みをされています。 
本コンテンツでは、ILD患者さんを近隣施設へ逆紹介する際の工夫について、日本赤十字社 成田赤十字病院 呼吸器内科 副部長 安部 光洋先生にうかがいます。

インタビュー実施場所:オンライン インタビュー実施日:2023年11月22日(水) 提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社  
※インタビューを実施した2023年11月時点では千葉大学大学院ご所属であり、本コンテンツ内では当時の取り組みについてお話しいただいております。


Q.ご施設でILD患者さんの逆紹介を検討するようになったきっかけを教えてください

千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科(以下、当院)では1年あたり約600名のILD患者さんを診療しており、そのうち4割の約250名が新規で来院されるILD患者さんになります。新規で来院される患者さんの多くは、ILD疑いとして、精査もしくは加療のために他施設から紹介される患者さんです。以前は、咳や労作時の呼吸困難などの症状がはっきり見られるような重症度の高い患者さんを紹介されることが多かったのですが、最近は背側肺底部を聴診した時の捻髪音や胸部X線検査での異常陰影によって発見された無症状の患者さんや症状が軽度の患者さんなど、疾患進行の初期段階で見つかったILD疑い患者さんが紹介されることが増えてきています。 
無症状や軽症のILD疑い患者さんの紹介が増えているのは、かかりつけ医の先生方の間に、「ILD疑い患者さんは無症状であっても発見時に紹介することが望ましい」1という認識が広まったからだと思います。だからこそ、当院のような専門施設では、かかりつけ医の先生方からご紹介いただいたILD疑い患者さんをできるだけ受け入れたいと考えています。

しかしながら、新規で紹介された患者さん全員を当院だけで診療し、定期的にフォローしていくことには限界があることがわかってきました。たとえば、ILD専門施設に通院される患者さんが増えてくると、患者さん1人あたりにかけられる時間が限られてしまい、問診や検査、患者さんへの説明に十分な時間をかけられなくなるおそれがあります。そこで、病態の悪化がみられるなど、専門医の対応が必要なILD患者さんを当院で優先的に対応し、症状が安定している患者さんについては地域のかかりつけ医の先生に逆紹介して診ていただくという体制が必要ではないかと考えています。

Q.実際にILD患者さんを地域のかかりつけ医の先生に逆紹介することで、どのようなメリットがあると感じられていますか?

当院としては、一定数のILD患者さんを逆紹介し、疾患管理をかかりつけ医の先生に担っていただくことで、ILD疑いとして紹介されている患者さんが増えている状況の中でも、施設に過度な負担がかかることなく適切な医療を提供することに役立っていると感じています。 
さらに、逆紹介でまずかかりつけ医の先生に診てもらえることで、患者さんの通院や待ち時間の負担軽減につながっているように思います。当院ではILD患者さんの逆紹介の際、かかりつけ医の先生に必要な情報共有を行っておりますので、患者さんがちょっと具合が悪くなったときに、それがILDの悪化によるものかどうか、まずかかりつけ医の先生に判断していただけています。また、かぜなどの初期対応を行っていただいたり、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザではないかチェックしていただいたりするだけでも、スムーズな対応が難しい大学病院としてはかなりありがたいですね。 
そのほかにも、たとえば消化器内科が専門であるかかりつけ医の先生が、抗線維化薬の副作用のひとつである下痢に対し、ご自身の専門性を活かして対応されている場合などもあります。こうした点も、患者さんにとってのメリットになり得ると考えます。

Q.地域のかかりつけ医の先生にILD患者さんを診ていただくために、逆紹介時にどのような情報共有の工夫をされていますか? 
認知度は上がってきたものの、ILDはまだまだなじみがない疾患だと思っています。特に、ILDの中でも予後の悪いと言われる特発性肺線維症(IPF)についてはかかりつけ医の先生に知っていただくためのパンフレットを作成し、紹介状と一緒にお渡しするようにしています。

このパンフレットでは、病名や病状、日常生活における注意点や今後の治療方針、対症療法・副作用への対処をまとめています(図1)。IPFでみられる呼吸困難や咳嗽などの症状に対する対症療法や抗線維化薬による副作用への対処方法については、具体的な薬剤名も出しながらひとつずつ紹介しています(図2)。さらに、同じパンフレットに、血液検査による経過観察や、患者さんが睡眠薬の処方やワクチン接種を希望される場合の対応、状態悪化時の初期対応など、かかりつけ医の先生にお願いしたいことも具体的に示しています(図3)。中でも、かぜや胃腸炎などで状態が悪化したときの初期対応については、当院のような大学病院よりもかかりつけ医の先生のほうが速やかに対応いただけるのでありがたく思っています。

図1

図2

図3

パンフレットの最後には、当院に紹介・連絡いただく際の基準を3色に分けて示し、なるべく先生方が対応に困らないようにしています(図4)。赤色で示しているのは、すぐに当院に連絡してほしい、急性増悪を疑うような場合です。黄色で示しているのは、早めに受診するよう患者さんに伝えてほしい、酸素飽和度が低下するような肺炎や中等度以上の抗線維化薬の副作用がみられる場合です。青色で示しているのは、かかりつけ医の先生で引き続き様子をみていただく場合になります。

図4

このように、かかりつけ医の先生がILD患者さんに対応する際に必要な情報をまとめていますが、それでもわからない点が出てくる場合があると思います。そのため、「不明な点があればいつでも連絡してください」と伝えるようにしています。

Q.地域のかかりつけ医の先生への逆紹介に適するILD患者さんの特徴について、お考えを教えてください

当院の場合、ご紹介いただいたILD患者さんのうち1~2割を地域のかかりつけ医の先生などに逆紹介しています。地理的な特徴としては当院から遠方にお住まいの患者さんがその中心となっていますが、そのような患者さんの場合、ちょっと具合が悪いという理由で遠方である当院に通院するのは難しいことがあります。その場合、まずは先程ご紹介したような基準(図4)を用いてかかりつけ医の先生のところで診てもらい、当院に来たほうがよいのか判断してもらうようにしています。また、ILDが進行し、在宅酸素療法を導入した患者さんを地域の診療施設の先生に逆紹介することもあります。かかりつけ医の先生に毎月1回の在宅酸素療法の指導管理をしていただき、当院には3ヵ月に1回、ILDの検査や薬剤処方のために通院していただくという形にしています。

疾患としては、抗線維化薬を導入したIPF患者さんは、その管理をかかりつけ医の先生にお願いしやすいように思っています。その理由は、IPFの場合、抗線維化薬を継続できるかできないかが疾患管理のポイントになるからです。IPF以外のステロイドや免疫抑制剤も治療選択肢となる疾患については、使用する薬剤の検討や抗線維化薬を導入するタイミングなど、治療選択肢について検討する要素が多く、ILD専門医の対応が必要となる場合が多い印象を持っています。

患者さんに、地域のかかりつけ医の先生などに逆紹介することについてお伝えする際には、まず、ILDの診療に関しては当院で責任を持つということをお話ししています。そして、逆紹介のメリットとして、何かあったときにかかりつけ医の先生がいると対応してもらいやすいことや、通院や待ち時間の負担が軽減されることなどをお伝えしています。そのうえで、最終的に患者さんのご希望に沿って逆紹介するかどうかを決めています。

最後に、ILD専門医の先生にメッセージをお願いします

ILDの中には、IPFのように治癒が難しい進行性のILDもありますので、専門医が治療方針を決めて治療していかなければいけないという状況が、今後しばらく続くのではないかと思います。そのような中で、専門施設に紹介され、通院されるILD患者さんが増えてくると、すべての患者さんを専門施設の医師が診療することが難しくなってくると思います。 
ひとりでも多くのILD患者さんに適切な治療を提供するためには、専門医とかかりつけ医が一緒になって診療していく体制作りが必要となります。このような体制作りは、地域の紹介元の先生やかかりつけ医の先生に、逆紹介するILD患者さんの治療方針などの情報を、診療情報提供書や診療経過報告書などで共有することから始まります。このような情報共有をひとつずつ積み重ねることで施設間に関係が生まれ、かかりつけ医の先生のILDの理解も進むものと思います。専門医とかかりつけ医が一緒になってILDを診療する体制につなげていくためにも、ひとつひとつの情報共有の積み重ねを大切にしてほしいと思います。

【参考文献】

  1. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022, 改訂第4版, p.168, 2022, 南江堂
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