特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版(静止画)

サイトへ公開: 2023年01月30日 (月)
ご監修:本間 栄先生

間質性肺疾患(ILD)のうち、原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と呼びます。IIPsの中には特発性肺線維症(IPF)や特発性非特異性間質性肺炎(特発性NSIP)など、さまざまな疾患が含まれます。

IIPsにおける各疾患の相対的頻度について、日本ではUIP※1パターンを示すIPFが52.6%、NSIP※2パターンを示す特発性NSIPが17.2%と報告されています(図1)。

※1 UIP:通常型間質性肺炎。不均一な線維化病変をきたす1)
※2 NSIP:非特異性間質性肺炎。空間的、時相的に均一な病変分布を示す1)

UIP:通常型間質性肺炎

図1

今回は、『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版』から、IIPsの診断の進め方、IIPsに含まれる疾患ごとの治療、かかりつけ医から専門医への紹介のタイミングについて紹介します。

IIPsの診断

IIPsを含むILDの診断の第一歩は、胸部X線写真で間質性陰影を認めた場合が大部分で、次いで胸部聴診所見にて捻髪音が認められた場合が想定されます。捻髪音の聴取には、背側肺底部の深吸気時の聴診が重要です2)。ILDが疑われたら、次にILDの原因となりうる要因についての検討を行います(図2)。ILDの原因が特定できない場合は、高分解能CT(HRCT)の画像パターンによりさらに診断プロセスを進めます。
検査法の選択や診断に際しては、呼吸器科医、放射線科医を中心に病理医、可能であれば膠原病科医を含めた多分野による集学的検討(MDD)を行うことが診断精度を高めることに有用とされています。時間をかけたMDDを行っても最終診断が得られない場合は、分類不能型特発性間質性肺炎(分類不能型IIPs)と診断されます3)

IIPsの診断

図2

ILDの検査

ILDの早期発見や予後予測に有用な検査として、胸部X線やHRCT等の画像検査、呼吸機能検査、血液検査、動脈血ガス検査、6分間歩行テスト、肺高血圧症の評価があります。

胸部X線検査

X線写真は、間質陰影の検出に関してHRCTに劣りますが、重積像であるために、早期の微細な陰影に関しても鋭敏に検出することができます。早期の陰影の発見には、血管陰影の不鮮明化や横隔膜陰影の不鮮明化などの所見が有用です。図3のIPF患者さんの胸部X線写真では、両側下肺野、末梢優位に網状陰影が認められ、横隔膜の輪郭は不鮮明化しています。

胸部X線検査

図3

HRCT検査

HRCT検査は間質性肺炎の診断に必要です。HRCTによって、肺の既存構造と病変の関係の把握や、肺病変の性状の正確な評価をすることができます4)

呼吸機能検査

呼吸機能検査では、拘束性換気障害(FVCあるいはVCの減少、TLCの減少)、肺拡散能障害(DLcoの低下)が認められます。IPFでは、FVCやVCは最も信頼できる予後予測因子です。また、経時的な呼吸機能の変化は、IPF及びfibrotic NSIPにおいて鋭敏な予後予測因子と考えられています。
慢性期における呼吸機能モニターの間隔としては、3~6ヵ月ごとが望ましいと考えられています(図4)。

呼吸機能検査

図4

血液検査

IIPsにおいて、肺胞上皮由来のバイオマーカーであるKL-6※3、SP-D※4、SP-A※5は高い陽性率を示すため、IIPsを疑うきっかけや、病態のモニタリング、治療反応性の評価に有用です。ただし、いずれも疾患特異性がないため、IIPsの確定診断やパターン分類の診断には必ずしも有用ではありません5)

※3 KL-6:Krebs von den Lungen-6
※4 SP-D:サーファクタント蛋白-D
※5 SP-A:サーファクタント蛋白-A

動脈血ガス検査

労作時低酸素血症は早期から検出することができます。運動時のガス交換能の評価は、臨床経過をモニターするうえで鋭敏な指標となります(図5)。

6分間歩行テスト

6分間歩行テストは、IIPsにおける運動負荷時のガス交換能の変化を評価する検査です。拘束性換気障害を示すFVC低下とは異なる情報が得られるとともに、予後予測に有用です(図5)。

肺高血圧症の評価

肺高血圧症は右心カテーテル検査における安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が25mmHg以上と定義されています。肺高血圧症の評価はIIPsの予後予測に重要です6)(図5)。

肺高血圧症の評価

図5

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の診断・治療

ILDのうち、進行性線維化が認められるものをPF-ILDと呼称します。IIPsにおいてもPF-ILDを呈するものがあります。
PF-ILDの診断と管理の流れは図6に示すとおりです。
まず、先ほどお示ししたILDの診断の考え方に沿って検査やMDD診断などを行い、IPFもしくはIPF以外のILDの診断を行います。IPFの診断確診例や診断疑診例では、抗線維化薬の使用を考慮します。IPF以外のILDの診断確診例や診断疑診例、背景疾患の分類不能例では、ILDの標準的治療や管理を行います。呼吸器症状、FVC、DLcoなどの生理検査、胸部HRCT画像における線維性病変の拡がりの変化から進行性線維化性の判断を行い、進行性線維化が認められる場合はPF-ILDと判断し、抗線維化薬の使用を考慮します。

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の診断・治療

図6

抗線維化薬の使用について、IPFの場合は2015年ATS/ERS/JRS/ALAT公式国際診療ガイドラインにおいては条件付の推奨、2017年のJRS IPF治療ガイドラインでは使用提案とされています(図7)。IPF以外のPF-ILDの場合は、疾患の種類に応じて抗原や粉塵曝露の回避や禁煙、ガイドラインや指針に基づいたステロイドなどの薬物治療を行います。これらの標準的治療や管理を行ったにもかかわらず線維化が悪化する場合は、PF-ILDとして抗線維化薬の投与が考慮されます。
抗線維化薬オフェブは、本手引きに示されている抗線維化薬のひとつです。

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の診断・治療02

図7

IPFの診断と治療

進行性線維化を伴う代表的なIIPsであるIPFの診断と治療について詳しく見ていきましょう。
まず、IPFの診断は、図8の表に示すように、HRCT所見と外科的肺生検(SLB)所見を組み合わせて行います。なお、HRCT所見で典型的なUIPパターンの場合は、IPFの確定診断にSLBは必要ではありません。また、HRCTでProbable UIPパターンの場合でもSLBを実施せずに診断を確定することも許容されています。

IPFの診断と治療

図8

IPFのHRCTパターン及び病理診断パターンはそれぞれ、UIP、Probable UIP、Indeterminate for UIP、Alternative Diagnosisの4段階に分類されます。各HRCTパターンの特徴は図9、病理診断パターンの特徴は図10のとおりです。
IPFの正確な診断を導き出すためには、ILDの診断経験を積んだ呼吸器専門医、画像診断医ならびに病理診断医がMDDを行い、総合的に判断することが重要です7)

IPFの診断と治療02

図9

IPFの診断と治療03

図10

次にIPFの治療についてです。IPFの中心的な主要病態は、気道上皮細胞に対する慢性的な傷害から、慢性の線維化が生じるという過程が考えられています。このため、第一選択薬として抗線維化薬が用いられます(図11)。

IPFの診断と治療04

図11

また、IPFは基本的に進行性の予後不良の線維化性肺疾患であるため、進行を抑制し、悪化を長期間にわたり防ぐことが治療の目標となります。
IPFの治療効果判定としては、FVCもしくはVCが広く用いられています(図12)。IPFでは、平均約150~200mL/年のFVC、VC低下が認められますが、治療によりFVC、VCの低下を抑えられるようであれば有効性があると判断します。治療効果判定には、HRCT、DLco、動脈血酸素分圧(PaO2)、6分間歩行試験なども用いられます。これらの客観的指標以外にも、歩行時の呼吸困難感や咳嗽の軽減などが認められる場合は、治療継続を考慮します。

IPFの診断と治療05

図12

特発性NSIP及び分類不能型IIPsの治療

IPF以外のIIPsで抗線維化薬の使用を考慮する例として、特発性NSIPと分類不能型IIPsをお示しします。

図13に示すとおり、特発性NSIPの治療ではオフェブを用いた抗線維化療法が治療例のひとつとして示されています。なお、特発性NSIPの治療はcellular NSIPとfibrotic NSIPを区別して考えるべきとされ、抗線維化薬の適用はfibrotic NSIPで考慮します。

特発性NSIP及び分類不能型IIPsの治療

図13

分類不能型IIPsでは、進行例でステロイド薬や、ステロイド薬と免疫抑制薬の併用のほか、抗線維化薬による治療が検討されます(図14)。なお、分類不能型IIPsは不均一な疾患群であるため、その治療・管理も個々の症例における臨床所見、疾患挙動、鑑別すべき疾患の有無などに基づき治療を考慮します。

特発性NSIP及び分類不能型IIPsの治療02

図14

かかりつけ医から専門医への紹介

最後に、かかりつけ医から専門医にILD疑い患者さんを紹介する際のポイントをお示しします。

咳嗽、呼吸困難を主訴に来院した場合や、胸部X線検査、背側肺底部聴診などの結果、ILDが疑われた場合、症状の有無にかかわらず、一度は専門医に紹介することが重要です。そのほかに、自覚症状の悪化時や定期的な評価、かかりつけ医では手に負えなくなったときに専門医への紹介が必要となります(図15)。

かかりつけ医から専門医へ紹介するタイミングは、病勢を適切に把握し、緊急性の有無を考慮したうえで判断する必要があります。日単位で進行する場合には緊急での紹介受診が望まれる状況であり、月単位では数日以内に、年単位での進行をきたす病態ではそれほど急ぐ必要はなく通常どおりでの紹介受診でよいと考えられます。

かかりつけ医から専門医への紹介

図15

呼吸器専門医では、正確な診断、病態や重症度、治療適応の評価、予後予測を行います。状態が安定していれば、病診連携に基づき、かかりつけ医で経過観察をすることも十分可能です(図16)。

かかりつけ医から専門医への紹介02

図16

まとめ

今回は、『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版』から、IIPsの診断の進め方、IIPsに含まれる疾患ごとの治療、かかりつけ医から専門医への紹介のタイミングについて紹介しました。
今回紹介したポイントは次のとおりです。

  • IIPsを含むILDは胸部X線検査や背部聴診での捻髪音の聴取などで疑い、HRCT画像パターンの検討やMDDを経て診断されます。
  • IPFもしくはPF-ILDと診断された場合、オフェブが治療選択肢となります。線維化の進行を抑制し、悪化を長期間にわたり防ぐことが治療の目標となります。
  • ILDが疑われた場合は、症状の有無にかかわらず、一度はかかりつけ医から専門医へ紹介しておくことが重要です。紹介するタイミングについては、病勢を適切に把握し、緊急性の有無を考慮したうえで判断する必要があります。

今回ご紹介した内容を、ILD疑い患者さん及びILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

【引用】

  1. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.80, 2022, 南江堂
  2. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.167, 2022, 南江堂
  3. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.134, 2022, 南江堂
  4. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.12, 2022, 南江堂
  5. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.20, 2022, 南江堂
  6. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.22, 2022, 南江堂
  7. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.72, 2022, 南江堂
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