ご監修・ご出演:佐藤 慎二先生(東海大学医学部 内科学系 リウマチ内科学 教授)
![ご監修・ご出演:佐藤 慎二先生](/jp/sites/default/files/inline-images/20220323_uip_01_thumbnail.png)
先生が次のような症例を診療される場合、どのような管理をお考えになるでしょうか。
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![sato02_002](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_002.png)
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)では、約2割から5割1-3)に間質性肺疾患(ILD)を合併することが報告されています。ILDの合併頻度や発症様式、および予後は、検出される自己抗体の種類によって異なります。
抗MDA5※1抗体はDMのみで陽性となり、急速進行性のILDと関連があります。一方、抗ARS※2抗体はPM/DMで陽性となり、主に慢性に経過するILDとの関連が報告されています4)。
今回は、抗ARS抗体陽性例を中心とした、慢性に経過する多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患(PM/DM-ILD)患者さんの診断と治療について解説します。
※1 MDA5:melanoma differentiation-associated gene 5
※2 ARS:アミノアシルtRNA合成酵素
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多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患(PM/DM-ILD)患者さんの予後
PM/DM-ILD患者さんの予後について疾患の挙動別及び筋炎特異自己抗体(MSA)別にお示しします。
疾患の挙動別にみると、急性/亜急性のILD患者さんでは経過の初期に急激に生存率が低下する一方、慢性のILD患者さんでは経過に伴い、生存率が徐々に低下することが報告されています。
スライド右側のグラフは、我々のグループで検討したMSA別の累積生存率です。抗MDA5抗体陽性患者さんの生存率は初期に急激に低下し、それ以降はほとんど低下がみられませんでした。一方で、抗ARS抗体陽性患者さんについては初期の生存率は良好ですが、徐々に緩やかな生存率の低下が認められて、長期的には両抗体陰性例よりも生存率は低下していました。
このように、抗ARS抗体陽性PM/DM-ILD患者さんにおいては徐々に疾患が進行する場合があるため、その場合、予後改善につながる治療法の追究が必要と考えられます。
![多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患(PM/DM-ILD)患者さんの予後](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_004.png)
PM/DM-ILDの治療と治療効果の評価
膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020で提案されているPM/DM-ILDの治療アルゴリズムでは、PM/DM-ILD患者さんの治療について、肺病変の進行の速さおよび抗MDA5抗体や抗ARS抗体の有無別に示されています。
慢性進行型のILDの場合、抗MDA5抗体ないし抗ARS抗体陽性の場合、プレドニゾロン(PSL)と免疫抑制薬※1を併用した治療を行うことが推奨されています。
抗MDA5抗体陰性かつ抗ARS抗体陰性の場合、 PSL単剤又はPSLと免疫抑制薬の併用のどちらかが選択肢となります。
※1タクロリムス又はシクロスポリンが選択されることが多い。シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルも用いられる
![PM/DM-ILDの治療と治療効果の評価](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_005.png)
治療開始にもかかわらず効果が不十分な場合について、膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020では「投与薬剤の増量や追加治療を考慮するなど、速やかな治療強化を行うことがきわめて重要である」と記載されています4)。
こうした治療の効果は血清バイオマーカーを用いて評価することができます。PM/DM-ILDにおいてはKL-6が有用なバイオマーカーのひとつとなります。
![PM/DM-ILDの治療と治療効果の評価02](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_006.png)
抗線維化薬による治療
肺の線維化には、炎症性と線維化性の要因があり、これらが互いに影響しあい、ループを形成して進行します。
![抗線維化薬による治療](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_007.png)
PM/DM-ILDの治療において、明確なエビデンスは確立されていないものの5)、抗線維化薬が治療選択肢となる可能性が膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020に示されています6)。
ILDの治療では、炎症性の要因に対してはステロイドや免疫抑制薬などが、線維化性の要因に対しては抗線維化薬が推奨されています。
PM/DM-ILDの主病態は炎症と考えられており、現時点では、それに対する治療が中心ですが、線維化性の要素に対する治療は今後の課題です。
![抗線維化薬による治療02](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_008.png)
こちらの進行性線維化を伴うILD(PF-ILD)の管理アルゴリズム案においては、重症度や疾患進行の評価に基づき、中等症及び重症では抗線維化療法の検討が提案されています。
![抗線維化薬による治療03](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_009.png)
オフェブの作用機序
抗線維化剤オフェブは、膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020において、PM/DM-ILDの治療選択肢となる可能性のある薬剤として記載されています。
オフェブは、血管内皮増殖因子(VEGF)や血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)によるシグナル伝達を阻害することで、主に3つの作用を示すことが期待されます。
第1には、線維芽細胞の遊走、増殖、活性化を抑制する作用、第2には、線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換を抑制する作用、最後は、免疫細胞からの線維化促進性サイトカインの放出を抑制する作用です。
これらのオフェブの作用によって、肺の線維化が抑制されると考えられています。
![オフェブの作用機序](/jp/sites/default/files/inline-images/sato02_010.png)
まとめ
PM/DM-ILD患者さんでは、慢性に進行し、徐々に呼吸機能が低下する場合は生存率が緩やかに低下していきます。そのため、治療にあたっては、臨床症状、画像所見、KL-6などのバイオマーカーの推移などで治療効果を判定し、必要に応じて治療法の変更や追加を検討することが重要です。
また、慢性進行を抑制する治療法の追究は、患者さんの予後改善やQOLの維持につながる可能性が考えられます。
この点で、抗線維化剤オフェブは進行性線維化を伴うPM/DM-ILDの治療選択肢のひとつとなる可能性が期待されます。
今回ご紹介した内容を、PM/DM-ILD患者さんの診療にお役立ていただけますと幸いです。
【引用】
- Marie I. et al.: Arthritis Rheum 2002; 47(6): 614-622.
- Kang EH. et al.: Rheumatol Oxf Engl 2005; 44(10): 1282–1286.
- Tomimitsu H, et al.: Mod Rheumatol 2016; 66: 398-402.
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.66. 2020.
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.71. 2020.
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. P.74. 2020.