RA-ILDにおける診断・モニタリングの重要性(静止画)

サイトへ公開: 2021年04月01日 (木)

ご監修: 森信 暁雄 先生(京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学 教授)

ご監修: 森信 暁雄 先生(京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学 教授)

関節リウマチの疾患概念

関節リウマチ(RA)は、多発関節炎を特徴とする全身性炎症性自己免疫疾患です。本邦の有病率は0.6–1.0%で、女性では男性に比べ約3倍多いことが2014年に東京女子医科大学から報告されています1)

RAでは関節滑膜を中心とする関節炎のほか、皮下結節、乾燥性角結膜炎や唾液腺炎、肺病変、多発単神経炎などの関節外症状をしばしば伴います(約40%)。なかでも肺病変は最も多く、胸膜炎・胸水や気道病変、リウマチ結節、間質性肺疾患(ILD)など多彩であることが知られています2)
関節炎の治療は、臨床的寛解の達成と維持を目標として、早期から疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)による介入を行います。そして、治療開始前や治療中は、ILDなどの合併症のスクリーニングおよびモニタリングを十分に行う必要があります2)

関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)の予後への影響

合併症のなかでも、ILDは、患者さんの予後に関連する重要な合併症の1つになります。

こちらは、RA患者さんにおけるILDの有無別の死亡率を示したグラフです。ILDを有する群と対照群の1年死亡率はそれぞれ13.9%、3.8%、5年死亡率は39.0%、18.2%、10年死亡率は60.1%、34.5%でした3)
また、RA-ILDにおける死亡のリスク因子として、高齢、男性、HRCTでのUIPパターン、広範囲な線維化、肺拡散能低下、ILDの急性増悪といった項目があげられています4)

関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)の予後への影響

RA-ILDの診断のポイント

では、RA-ILDの診断は、どのように進めればよいのでしょうか。ポイントを急性、亜急性、慢性の経過に分けてみていきましょう。

急性経過の発症例では、肺炎との鑑別が重要になります。器質化肺炎(OP)を疑う場合は気管支鏡検査を行います。急性呼吸不全を伴い広汎な陰影を呈した場合は、重症肺炎、ニューモシスチス肺炎などと固有病変としてのRA/びまん性肺胞傷害(DAD)の鑑別を行います5)

亜急性経過の発症例では、OP、細胞浸潤性非特異性間質性肺炎(cNSIP)や感染症の鑑別のため気管支鏡検査を行います5)

慢性経過の発症例では、高分解能CT(HRCT)が有用で、通常型間質性肺炎(UIP)パターンか非特異性間質性肺炎(NSIP)パターンかを判断し、いずれも確診度が高くない場合には分類不能型と判断します5)

RA-ILDにおける進行性線維化性フェノタイプ

RA-ILDと診断した場合、それが進行性線維化のフェノタイプを示すILDであるかを見極めることも重要です。
ご覧のように、RA-ILDの有病率は10万人あたり0.8~4人、進行性線維化を呈するRA-ILDの割合は40%と推定されており、このような患者さんは、予後不良と考えられています6)

RA-ILDにおける進行性線維化性フェノタイプ

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の特徴と治療アルゴリズム

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の特徴は、進行性の肺の線維化、呼吸機能の低下、呼吸器症状の悪化です。PF-ILDの背景疾患はさまざまですが、進行性の線維化に関連する共通の病因・病態が存在すると推測されます7)

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の特徴と治療アルゴリズム

こちらにPF-ILDの管理と疾患経過のモニタリングをお示しします。ご覧のように、PF-ILDの治療では、背景疾患の診断に基づく標準的治療に加えて、線維化の疾患の挙動に応じた抗線維化療法の検討が重要になります。

PF-ILDの管理と疾患経過のモニタリング

INBUILD試験

試験概要

抗線維化薬であるオフェブは、RA-ILDを含むPF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制に対する有効性が検討されています。
INBUILD試験では、663例の患者さんをオフェブ群とプラセボ群に1:1で割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。

試験デザイン

本試験では特発性肺線維症(IPF)患者さんは除外し、ILDの進行性の基準には、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化及び胸部HRCT画像上での線維化変化の増加が用いられました。

ILDの進行性の基準

本試験におけるILD臨床診断名別の患者割合はご覧のとおりであり、RA-ILD患者さんは13.4%含まれていました。

ILD臨床診断名別の患者割合
有効性

主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制効果が示されました。また、52週間のFVCのベースラインからの平均変化量は、経過とともにご覧のように推移しました。

FVCの年間減少率

また、全期間における初回急性増悪又は死亡までの期間について、オフェブ群のプラセボ群に対するリスク減少率は33%でした。

全期間における初回急性増悪
安全性

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例 (98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における重篤な有害事象は147例で、肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。投与中止に至った有害事象は73例で、下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は21例で、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした。

全期間における有害事象

主な有害事象は、オフェブ群で、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)など、プラセボ群で、下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。

全期間における有害事象2

続いて、投与52週までの下痢、悪心、嘔吐、肝酵素上昇の有害事象の重症度を示します。オフェブ群において、下痢は、有害事象共通用語規準を用いた評価ではGrade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。

投与52週までの下痢、悪心、嘔吐、肝酵素上昇の有害事象の重症度

RAの治療においては、ILDをはじめとする合併症を注意深く診断し、モニタリングしていくことも重要になります。
抗線維化薬であるオフェブは、RA-ILDを含むPF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験で、呼吸機能低下の抑制および急性増悪又は死亡リスクに関する結果が示されました。
今後、RA-ILD患者さんの治療において、オフェブが進行性線維化を伴うILDの進行を抑制するための新たな治療選択肢の1つになる可能性が期待されます。

本日ご紹介した内容を、先生方のご診療にお役立ていただければ幸いです。

文献:

1) Yamanaka H et al. Mod Rheumatol 2014; 24(1): 33-40.
2) 日本呼吸器学会, 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.103.
3) Hyldgaard C. et al.: Ann Rheum Dis 2017; 76(10): 1700–1706.
4) 日本呼吸器学会, 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.107.
5) 日本呼吸器学会, 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.106.
6) 日本呼吸器学会, 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.190.
7) 日本呼吸器学会, 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.148.

ページトップ