CTD-ILD診療における労作時SpO2測定の重要性(静止画)

サイトへ公開: 2024年02月28日 (水)

ご監修:金子 祐子先生(慶應義塾大学 医学部 リウマチ・膠原病内科 教授)/加藤 元康先生(順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 助教)

膠原病でみられるさまざまな臓器障害の中でも、間質性肺疾患(ILD)は発現頻度が高いだけでなく、主要な死亡原因にもなりうる臓器障害です。そのため、早期にILDの進行をとらえ、適切なタイミングで治療介入を行うことが必要です。   
膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)の進行を早期にとらえる方法のひとつに、労作時のSpO2測定があります。   
本コンテンツでは、CTD-ILD診療における労作時SpO2測定の重要性について、慶應義塾大学 医学部 リウマチ・膠原病内科 教授 金子 祐子 先生と、順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 助教 加藤 元康 先生にうかがいます。

CTD-ILD診療における労作時SpO2の測定意義と測定方法

リウマチ・膠原病内科 金子 祐子 先生:

CTD-ILDの進行は、検査以外では患者さんからの咳や労作時の息切れといった自覚症状の訴えがきっかけとなってとらえられます。しかしながら、患者さん自身が無意識にゆっくり歩くなどして、症状が目立たなくなっている場合があります。労作時SpO2を測定することで、自覚症状では気付かれないCTD-ILDの進行をとらえることができます。   
世界標準の労作時SpO2の評価方法として、6分間歩行テストがあります。6分間歩行テストは、2023年に発表された「CTD-ILDのコンセンサスステートメント」において、「重症度評価において考慮する項目」のひとつとしても示されています。

6分間歩行テストによる労作時のSpO2測定は、予後予測にも役立ちます。たとえば、6分間歩行テスト後のSpO2の低下は、全身性強皮症に伴うILD(SSc-ILD)の進展リスク因子のひとつとされています。

呼吸器内科 加藤 元康 先生:

6分間歩行テストでは、患者さんに30mの直線路を6分間努力歩行してもらい、歩行中のSpO2や歩行距離を測定します1)。   
努力歩行として適切な負荷は、患者さんごとに異なります。患者さんにとって適切な負荷で歩行してもらうためには、6分間歩行テストの開始時に「できるだけ遠くまで歩いてください」といったお声がけをするとよいと思います。

CTD-ILDの進行が疑われる6分間歩行テスト実施後のSpO2の低下

呼吸器内科 加藤 元康 先生:

CTD-ILD患者さん63例及び自己免疫疾患の特徴を伴う間質性肺炎(IPAF)患者さん44例を対象にILD進行の予測因子を検討した研究では、ベースライン時と6分間歩行テスト後の平均SpO2が調べられています。CTD-ILD患者さんの平均SpO2はベースライン時に95.00%、6分間歩行テスト後に90.69%と報告されました。なお、平均%FVCは85.51%と報告されました。実際の診療でも、%FVCが80%くらいの方で労作時SpO2が90%程度まで低下していることが多いように思います。   
一般的に、労作時SpO2が90%未満の場合及びSpO2が普段の値から3~4%低下した場合は、呼吸不全の状態とされています2,3)。これらのことから、労作時SpO2が90%を下回った場合やSpO2が普段の値から3~4%低下した場合は、CTD-ILDの進行を疑うのがよいと考えます。

リウマチ・膠原病内科 金子 祐子 先生:

CTD-ILD患者さんの場合は、労作時SpO2が90%を下回る場合だけでなく、これまで安定して95%程度だったのが90%前半に低下したといった場合も、CTD-ILDが進行している可能性が考えられます。ただし、関節の痛みで患者さんが上手く歩けない場合や血流障害によってSpO2を正確に測定するのが難しい場合もあるため、そのほかの所見も考慮して労作時SpO2の結果を解釈します。

労作時SpO2の結果からCTD-ILDが進行している可能性が考えられた場合の治療選択肢の検討

リウマチ・膠原病内科 金子 祐子 先生:

労作時SpO2の低下を認めた場合、CTD-ILDが進行している可能性に加え、肺高血圧や心不全といった別の病態が原因となっている可能性も考えられるため、まずは鑑別診断を行います。鑑別診断後、CTD-ILDの進行の病態を確認し、線維化性の病態であれば抗線維化薬、細胞性/炎症性の病態であればステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤などを治療選択肢として検討します。

呼吸器内科 加藤 元康 先生:

抗線維化薬導入の基準として、ILDの自覚症状が認められる場合や6分間歩行テストでSpO2が4%以上低下した場合、6ヵ月で%FVCが5~10%以上低下した場合があげられます。このほかに、画像所見で肺線維化の進行が認められた場合も抗線維化薬導入の検討対象となります4,5)。   
最終的な抗線維化薬導入の判断については、これらの所見を総合的に評価したうえで行うようにしてください。

CTD-ILD患者さんを診療されている先生へのメッセージ

金子 祐子先生 から   
膠原病診療においては、CTD-ILDを一臓器病変としてとらえ、全身管理をしていくことが重要と考えています。その一環として、ILDの進行を早期にとらえ、適切なタイミングで治療介入することは重要です。   
CTD-ILDの進行を早期にとらえるうえで、6分間歩行テストによる労作時SpO2測定は有用な方法のひとつです。そのほかの、定期的な検査を逃さず実施すること、患者さんからの自覚症状の訴えにきちんと耳を傾けることとあわせて、ぜひ日常の診療で実施いただきたいと思います。

加藤 元康 先生から   
労作時SpO2はILDの進行性を評価するための重要な指標のひとつです。労作時SpO2低下を早期にとらえる観点からは、すべての患者さんに対し、6分間歩行テストによるSpO2測定を早期に行うことが理想的ですが、ご施設によっては難しい場合もあると思います。その場合、患者さんご自身にパルスオキシメータを用意していただき、ご自宅で歩いた後のSpO2値を測定してもらうという簡易的な方法もあると思います。   
患者さんにとって適切な治療を早期に届けるために、労作時SpO2の測定を含め、必要に応じて膠原病内科と呼吸器内科の連携をとっていただければと思います。

【引用】

  1. ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories.: Am J Respir Crit Care Med.2002; 166(1): 111-117.
  2. 日本呼吸器学会. Q&A パルスオキシメータ ハンドブック(https://www.jrs.or.jp/file/pulse-oximeter_medical.pdf、2023年9月22日アク セス)
  3. 日本呼吸器学会. よくわかるパルスオキシメータ(2021年2月改訂 第2版発行)
     (https://www.jrs.or.jp/file/pulse- oximeter_general20211004.pdf、2023年9月22日アクセス)
  4. Raghu G, et al.: Am J Respir Crit Care Med. 2022; 205(9): e18-e47.
  5. Flaherty KR, et al.: N Engl J Med. 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
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