間質性肺炎クリティカルパス〜集中的に多職種が関わり病識向上と治療継続を図る〜

サイトへ公開: 2021年04月07日 (水)

取材施設:国立病院機構 九州医療センター(福岡県福岡市)

呼吸器内科 部長    岡元 昌樹 先生
看護部      八木祐一郎 氏
リハビリテーション部  原口 玲未 氏
栄養管理室 栄養管理室長 井上 聡美 氏 

日時:2020年12月22日(火)18:00
場所:ヒルトン福岡シーホーク5階 セージ

九州医療センター呼吸器内科は、2019年より間質性肺炎(ILD)のクリティカルパスを導入し、早期診断と早期治療介入、チーム医療の強化に取り組んでいます。多職種がクリティカルパスに基づいて患者さんの病識向上、治療やリハビリの継続に向けた支援を提供し、情報共有しながらADLやQOLの維持という目標の実現を目指しています。

POINT
✔早期治療介入、治療継続でADLやQOLを維持する
✔多職種で患者さんを支え、悪循環に陥るのを防ぐ

入院で検査と診断を行い、チームで患者を支援

岡元昌樹先生は、九州医療センター赴任後すぐに慢性線維化性間質性肺疾患(FILD)のクリティカルパスを導入し、検査と診断を入院で行う体制を整えました。理由は2つです。「1つは診断のための検査が多いこと。詳細な問診に始まって呼吸機能検査、6分間歩行試験など時間を要する検査もあり、これらを同じ時期に行うためには入院した方が患者さんの負担は少なくてすみます。もう1つは丁寧なインフォームド・コンセントを行い、FILDという病気をしっかり理解してもらうためです」と、岡元先生は説明しました。
FILDが進行性の病気であることを知ると、恐れを感じて通院しなくなる患者さんもいます。しかし、入院中に多職種が連携して支える姿勢を示すことで患者さんは治療に前向きになるそうです。

間質性肺炎精査を受けられる患者さんへ (気管支鏡あり) 入院予定表

患者ID


患者氏名               様


病名

月 日 /  月 /  火 /  水 /  木
暦 日 1日目 2日目 3日目 気管支鏡検査日 4日目
    検査前 検査後  
達成目標 検査の説明を受けて、安心して検査にのぞみましょう
間質性肺炎という病気との付き合い方を知りましょう
退院基準
検査結果、間質性肺炎の病状、今後の
治療法について説明を受け、理解される
治療処置
(点滴、内服
処置)
・咳嗽が強い患者さんには、鎮咳剤 (咳止め)を投与します。
・内服中の薬剤を確認します。
・血がサラサラになる薬をお飲みの方はお知らせ下さい。
・血糖降下剤以外は朝7時に内服して下さい。
(   :   )
・点滴を行います。(   :   )
・看護師と検査室に行きます。(   :   )
・のどの麻酔をした後、検査が始まります。
(   :   )

・検査後、お部屋に戻ります。
・食事が再開されると針を抜きます。

 
検査 胸部レントゲン
時間内歩行試験
胸部CT
心電図
呼吸機能検査
採血検査
心エコー検査
検査前に病室で検温を行います。 ・病室に戻り、検温、血圧、酸素飽和度を
計測します。
・検査終了後2時間はベット上安静です。
・検査後2時間後からは制限はありません。
 
看護
検査技師
安心して検査が受けれるよう援助します。
検査の目的や方法について、ご説明します。
食事 制限はありません。 朝食は絶食です ・検査終了後指示があるまで絶飲食です。
・安静がとれて水分を少量取って頂きます。
・むせがなければ食事をとって頂きます。
・検査後2時間後からは制限はありません。
制限はありません。
活動 活動制限はありません。 ・ストレッチャーで帰室します。
・検査終了後2時間はベット上安静です。
・2時間後以降の制限はありません。
活動制限はありません。
排泄 制限はありません。 ・検査後2時間からはトイレ歩行できます。
それまでは看護師が付き添いますので、
お知らせ下さい。
 
清潔 入浴できます。 検査後は入浴できません。 入浴できます。
患者様および
ご家族への説明
・気管支鏡検査についてご説明し、
同意書に署名を頂きます
・本日行う検査の内容と結果を
ご説明します。
・間質性肺炎に重要な栄養療法、
リハビリテーションについてご説明します。
・本日行う検査の内容と結果を
ご説明します。
  ・検査後、発熱、胸痛、血痰があれば
教えてください。
・これまでの検査結果全体を
ご説明します。
・間質性肺炎とはどのような病気か、
これからどう対応するかをご説明します。
署名          

パスコード(           )

令和1年8月16日 作成
NHO九州医療センター呼吸器内科

気管支鏡検査が必要な場合は3泊4日、不要な場合は2泊3日の入院が基本です。医師や看護師だけでなく理学療法士や管理栄養士などが集中的に関わることで、患者さんは多職種が支えてくれると実感できます。

早期からの呼吸器リハでADLを維持

FILDと診断されても、自覚症状が乏しく深刻に受け止められない患者さんもいますが、岡元先生は、「早期に呼吸器リハを開始し、身体活動量を維持する重要性を理解してもらうことが大切です。運動耐容能はそのまま予後に直結します」と解説されました。
線維化が進んで呼吸苦が出現するようになると、患者さんは動きたがらなくなり、体力低下、肺炎の発症、筋肉の萎縮などの問題が次々と起こってきます。理学療法士の原口玲未氏は、「身体的な苦痛に加え、将来への不安や社会的な孤立により抑うつになることもあります。それを防ぎ、ADLを維持するために、リハの重要性や呼吸苦への対処法などを軽症のうちからしっかり伝え、骨格筋量など客観的な評価も随時行うようにしています。評価の結果を本人に分かりやすくお伝えし、その結果に基づいて治療プログラムを立案し、退院後も継続しやすいリハビリの内容を提示するようにしています。」と仰いました。

早期からの呼吸器リハでADLを維持

患者さんが悪循環に陥るのを防ぐために、運動療法の大切さを丁寧に繰り返し説明すること、親身になって伝えることにチームで取り組んでいます。

早期からの呼吸器リハでADLを維持02

負荷のかかる運動療法と呼吸苦を軽減させるコンディショニングのバランスは、重症度により変わります。今後の見通しを患者さんと共有しながら包括的呼吸リハビリテーションを行っています。

管理栄養士の的確な栄養評価を治療やリハに生かす

呼吸器リハの効果を上げるためには栄養管理が欠かせません。FILDの患者さんは、十分な量のエネルギーやたんぱく質を摂取する必要がありますが、管理栄養士の井上聡美氏は「日頃の食生活について伺うと、3食食べてはいるけれど1日の摂取量が不足していたり、たんぱく質が不足し炭水化物に偏っている患者さんも少なくありません。栄養指導ではバランスのとれた適切な量と質の食事の摂り方について話し、食習慣を振り返ってもらうようにしています。」と述べました。管理栄養士が早期に介入し、適切な栄養サポートを行うことはADLやQOLの急激な低下を防ぐことにつながります。
岡元先生は、「ILDは慢性の呼吸器疾患ですが、COPDに比べ栄養療法の重要性がまだ十分に認識されていない」と指摘し、管理栄養士の力を、患者さんの栄養指導だけでなく治療や呼吸器リハに積極的に生かすという考えでチーム医療に取り組んでいます。

心の苦しみに寄り添い、絶望に向かう悪循環を防ぐ

同センターでは心理的なケアにも力を入れています。病棟看護師の八木祐一郎氏は、「患者さんがふともらした小さな一言を、しっかりキャッチすることを心がけています。ILDが完治しない病気であると認識したり、重症化した際の苦痛に患者さんは絶望しがちですが、身体的な苦痛を可能な限り低減し、自尊心を保ちながら受容できるように支援したいと考えています」と解説されました。身体的な苦痛は心理面にもダメージを与えるため、患者さんと接する時間の多い看護師が、医師や理学療法士に情報を提供して有効な症状緩和ケアや心理支援につなげているといいます。
岡元先生は、「呼吸苦で動けない、食べられないという苦しみのために抑うつになり、さらに痩せていくという悪循環を防ぐには、チームで患者さんを支えることが不可欠です。今後はより早期の介入を目指し、地域のプライマリ医との連携も強化したいと考えています」と展望を語りました。

呼吸器内科 部長 岡元 昌樹 先生

呼吸器内科 部長 岡元 昌樹 先生
FILDは病識を持ちにくい一方で、どんな病気かわかると絶望してしまう患者さんがいます。診断の段階で多職種が集中的に関わり、呼吸器リハや栄養療法の説明、感染予防のための生活指導、心理的ケアをじっくり行うことで、患者さんはILDと向き合えるようになっていきます。チーム医療を展開する上でクリティカルパスはとても有用だと感じています。

看護部 八木 祐一郎 氏

看護部 八木 祐一郎 氏
ILDは完治しないため早期からの緩和ケアが必要です。患者さんを“患者”ではなく一人の“人間”として捉えて向き合い、身体面・心理社会面の苦しみやニーズにいち早く気づいて、その人が自分らしくいられる環境を他の専門職と連携して整えることが、看護師の重要な役割だと思います。通院だけでなく、在宅医療が必要になった患者さんを、在宅療養へと切れ目なくつなげる地域連携の体制構築も目指しています。

リハビリテーション部 原口 玲未 氏

リハビリテーション部 原口 玲未 氏
個別的な呼吸器リハを提供するために、6分間歩行試験に加えNRADLによるADL評価、SF-36®️によるQOL評価などを行い、データ化にも取り組んでいます。電子カルテには呼吸苦が出やすい場面なども具体的に記載して運動処方、看護ケア、栄養評価等に生かしてもらい、適宜情報交換もしていますが、今後は定期的なカンファレンスも必要だと思っています。

栄養管理室 栄養管理室長 井上 聡美 氏

栄養管理室 栄養管理室長 井上 聡美 氏
当院では入院患者さん一人ひとりに対して、医師、看護師、管理栄養士などの医療スタッフが栄養評価を行い情報共有しています。栄養指導の際には、その情報に加え食生活や生活環境などを聞き取り、患者個々に応じた食事の摂り方や食欲不振時の食事の工夫についてアドバイスをしますが、クリティカルパス適用の患者さんは短期間の入院であるため、1回の栄養指導のみの介入となることがほとんどです。今後は、多職種と連携しながら入院から退院後までの継続的な栄養管理ができるよう体制を整える必要があると思っています。

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