インタビュー取材 抗線維化薬導入パスをベースに患者に合わせた丁寧な指導を実践

サイトへ公開: 2021年04月01日 (木)

取材施設:独立行政法人 国立病院機構 長良医療センター(岐阜県岐阜市)

統括診療部長 加藤 達雄 先生
薬剤師 安田 和誠  氏
病棟副師長 青木 康恵  氏
理学療法士長 楠川 敏章  氏

日時:2020年12月23日(水)17:30
会場:長良医療センター 第一会議室

国立療養所を前身とする長良医療センターは、その歴史的に呼吸器疾患を診療の柱の一つとしており、呼吸器内科では多職種によるカンファレンスが活発に行われているのが特徴です。間質性肺炎の診療では、そうした活動を通じて抗線維化薬導入パスも運用されており、きめ細かな患者指導を実現するツールとなっています。

POINT
服薬指導は患者自身がモニタリングを行い状況に応じて介入
治療動機が弱く、投薬も進行抑制であるからこそ指導を重視

多職種カンファの活動からパス作成WGを立ち上げ/h2>

 呼吸器疾患の診療に力を入れる長良医療センターには、以前から間質性肺疾患(ILD)の患者が紹介されていましたが、近年は患者が増加傾向にあります。加藤達雄先生は「抗線維化薬の登場を期に非専門医、特に開業医で疾患の理解が進み、それまで治療に結び付かなかった患者さんに手が届くようになったように思います」と話されました。続けて、「以前は在宅酸素療法(HOT)が必要な状況になって、ようやくILDが認識されていたのですが、今は少し咳が続くということで紹介があります」とも述べられました。
 患者増の中で抗線維化薬の適応となる患者も増えてきたため、同センターでは昨年春から導入用クリニカルパスを運用しています。加藤先生は「呼吸器内科の毎週のカンファレンスには古くから看護師や薬剤師が参加しており、2年前からは理学療法士も加わっています。一定数の症例を経験したことで、そろそろパスが必要と考え、昨年に入り私とその3人のメンバーでワーキンググループ(WG)を立ち上げ、役割分担で作成を進めました」と説明されました。

看護師・薬剤師の連携で「服薬日誌」も指導に活用

 パスは「7日間」と「14日間」の2種類を運用しています。加藤先生は「14日間パスは、もともと実臨床でやっていた内容を形にしたもの。HOT導入などにも対応できるよう、リハビリを強化しています。7日間パスは、現役世代などは2週間も休めないので、最低限、薬の導入をしっかりやることが目的です」と説明されました。
 WGのメンバーで病棟副師長の青木康恵氏は「パスの意義は、やはり治療の標準化です」と述べられました。「チーム医療を支えるツールとして、多職種のだれが関与しても一定の質を担保するのがねらいであり、なかでも指導を重視しています。特に服薬指導では『服薬日誌』(A4サイズ1枚に15日分)も活用し、患者さんに自分の症状をモニタリングしてもらいながら、それに応じた指導に役立てています」と説明されました。
 同じくWGのメンバーである薬剤師の安田和誠氏も、その有用性について次のように説明されました。「たとえば、副作用にも自覚しやすいものとそうでないものがあるので、日誌の記入内容などを確認しながら話をすることで、患者さんは副作用の有無を視覚的に、そして時系列の記録としても理解できます」。

リハでは1週間かけて個別に退院時指導を“熟成”

 退院時指導は直前だけでなく、退院を見据えて数日前からも行われます。「リハビリでは14日間パスの場合、後半の1週間は毎日指導を行います。退院時指導だから最後にまとめてやるのではなく、退院に至るまでに“熟成”させることが重要と考えています。つまり、決して画一的なものにならないよう、患者さんの状況や理解度なども考慮しながら、時間をかけて指導を重ねていくわけです」と、やはりWGのメンバーである理学療法士長の楠川敏章氏は説明されました。加藤先生は「パスはあくまでも工程表。重要なのは指導の中身です」と述べられ、指導全般で患者一人ひとりに応じた実施が貫かれています。
 安田氏は「理解度という点では、抗線維化薬は治す薬ではなく、進行を遅らせる薬。患者さんによっては、そこの認識が進まないこともあります」と述べられ、「服薬の自己管理にも個人差があるので、理解や管理が足りないと感じれば、適宜説明や指導を追加するようにしています」と説明されました。

外来リハ、ACPなどの対応へチーム力の増強を図る

 加藤先生は「根治が望めないILDは、治療の動機付けが難しいのですが、副作用でのドロップアウトはあるものの、動機が維持できずに服薬中断というケースはありません。入院でしっかり対応できているからでしょう」と話されました。
 一方で、急性増悪の対応には課題もあり、加藤先生は「早めの受診を徹底指導していますが、それでもなかなか浸透しません」と述べられました。青木氏は「個別に生活パターンなどを確認し、どのような場面で起こりやすいかの説明に努めています。今後は、早めに受診すれば『また家に戻れる』といった“意義”の理解を、ご家族も含め深めていきたい」と話されました。
 また、加藤先生は「外来リハの提供」も課題に挙げられました。楠川氏は「現在、3学会合同呼吸療法認定士は3人いますが、パスの運用を機にリハビリ職の教育を充実させ、呼吸リハの底上げを図った上で対応を目指します」と話されました。
 加藤先生は「終末期における患者の意思決定支援(ACP)などでは、MSWや臨床心理士の力も必要」と述べられ、より多職種の関与も進め、チーム医療の増強を図るお考えです。

統括診療部長 加藤達雄 先生

統括診療部長 加藤達雄 先生
ILDには急性増悪があるので、短い期間で終末期に至るケースも少なくありません。患者さんは、そのときになって自分がどう最期を迎えたいかの問題に直面します。人工呼吸器の装着について、ご本人は意思決定が困難で、ご家族との相談になるという状況も見られます。患者増の中で、今後は必然的にACP(Advance Care Planning)が重要性を増してきます。

薬剤師 安田和誠 氏

薬剤師 安田和誠 氏
抗線維化薬の導入が増えている中で、今後は地域の薬局との連携にも力を入れたいと考えています。年1回以上は交流の場があるので、ILDや抗線維化薬についても勉強会を開き、知識を深め合っていければと思います。この疾患や治療のことをよく知らない薬局薬剤師もいるので、その理解を高めるだけでも、患者さんにとっての環境変化になるはずです。

病棟副師長 青木康恵 氏

病棟副師長 青木康恵 氏
急性増悪については、画一的に説明しても、「自分は大丈夫」と思う患者さんがいるので、外出の頻度や自宅の温度環境など、やはりその人の生活パターンに即して、注意点や対処法などを説明するよう心がけています。なにか異変があれば、とにかく早めに受診するようにしてもらうためには、「少し休憩の頻度が増えているな」といった家族の目も重要です。

理学療法士長 楠川敏章 氏

理学療法士長 楠川敏章 氏
リハビリの実施では栄養科とも連携しており、「リハ栄養」の視点がとても重要です。栄養状態を無視してリハをやってしまうと、体力を上げるつもりで負荷をかけていたものが、逆に低下を招いてしまったということになりかねません。パスでは入院2日目に栄養状態をチェックし、入院中だけでなく、退院後の生活も視野に入れ、栄養指導も行っています。

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