ILDにおけるVEGFの関与とPF-ILDに対するオフェブの有用性(静止画)

サイトへ公開: 2020年09月29日 (火)

更新日 2020年9月

ご監修: 東北医科薬科大学 名誉教授 海老名 雅仁 先生

本コンテンツでは、間質性肺疾患(ILD)における急性増悪のメカニズムや、線維化を伴うILDの治療についてご紹介します。ぜひ、ご覧ください。

ILDにおける急性増悪

IPF1)などのIIPs2)、自己免疫性ILDs 3,4)などでは急性増悪が認められ、急性増悪発現後の予後は不良であることが報告されています。
また、国内のIPFとIPF以外の線維化を伴うILDの観察研究におきましても、急性増悪を起こした場合、どちらの生命予後も悪化することが報告されています。さらに、急性増悪発現後の生命予後には、疾患群による有意差がなかったことも示されています。これらのデータから、全てのILDにおいて急性増悪の発現を抑制することは、重要な課題のひとつと考えられます。(図1)

図1

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急性増悪の発現メカニズムにおけるVEGFの関与

ILDの中で、UIP様パターンを示す間質性肺疾患の急性増悪が生じるメカニズムには、血管内皮増殖因子(VEGF)が関与していると考えられています。
VEGFが関与するポイントは、血管新生促進作用と血管透過性亢進作用の2つです6)
まず、VEGFの血管新生促進作用によって肺胞毛細血管の増殖が起こり、さらにVEGFに曝されると血管透過性亢進作用が起こり、漏出しやすい炎症状態となります7) (図2)

VEGFは再生Ⅱ型肺胞上皮細胞から分泌され、肺胞中隔における肺胞毛細血管のリモデリング異常を招きます7)
また、小葉間隔壁では、線維化の過程でリンパ管が物理的に破壊され、新生が抑制されるリンパ管のリモデリング異常をきたします7)
この2つのリモデリング異常が急性増悪発現のメカニズムの背景と考えられます。(図3)

つまり、小葉間隔壁と胸膜下領域の線維化やコラーゲン蓄積によって生じたリンパ管破壊によるドレナージ不良と、VEGFが関与する肺胞毛細血管の増殖や漏出状態に偶発的なtriggerが加わることで急性増悪に発展すると考えられます。
以上のことから、ILDの急性増悪を予防するために、VEGFは重要な治療標的のひとつであると言えます。(図4)

図2

図2

図3

図3

図4

図4

オフェブの作用機序

抗線維化剤であるオフェブは、VEGFRおよびPDGFR、FGFRを標的とした低分子チロシンキナーゼであり、これらの受容体を介した病態メカニズムの進行を抑制することが期待されます。(図5)

図5

図5

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性(INBUILD試験)

進行性の線維化を伴う間質性肺疾患患者を対象にしたINBUILD試験において、オフェブの有効性および安全性が検討されました。(図6)
663例の患者をオフェブ群とプラセボ群に1:1で割り付けました。主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)であり、解析は、「全体集団」、及び「HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団」の2つをco-primary評価集団と定義し、解析が行われました。(図7)

主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率において、オフェブ群のプラセボ群に対する相対減少率は、全体集団で57%、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団においては61%でした。

全体集団とHRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団で、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが検証されました。(図8)

また全期間でみたILDの初回急性増悪又は死亡までの期間において、オフェブ群のプラセボ群に対する相対リスクの減少は、全体集団で33%、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団では38%という結果でした。(図9)

図6

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図7

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図8

図8

図9

図9

なお、本試験の全期間において、オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。また、オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。さらに、オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全5例、呼吸不全4例などでした。
(図10)(図11)

図10

図10

図11

図11

急性増悪は、生命予後に大きな影響を及ぼしますので、急性増悪のリスクを持つ患者さんの治療戦略は特に重要です。
オフェブは、急性増悪発現メカニズムに関与すると考えられるVEGFをターゲットに含む抗線維化剤であり、IPFだけでなく、PF-ILDにおいても有用性が期待されます。

文献

1) Natsuizaka M, et al.: Am JRespir Crit Care Med 2014;190(7): 773-779.
2) Arai T, et al. Respirology.2016;21(8):1431‐1437.
3) Suda T, et al. Respir Med.2009; 103(6):846-53.
4) Hozumi H, et al. BMJ Open.2013;3(9):e003132.
5) Hasegawa Y, et al.Respirology (2020) 25, 525– 534.
6) Ebina M, et al. Pulm Med 2011; 916486
7) Ebina M. Respir Investig. 2017;55(1):2-9.

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