呼吸器疾患診療における胸部HRCT画像読影のポイント(静止画)

サイトへ公開: 2024年04月25日 (木)

ご監修:石井 晴之先生(杏林大学医学部 呼吸器内科学 教授)

呼吸器疾患の診療において、胸部HRCT検査は客観的かつ経時的に病変を捉えられることから、有用な検査方法のひとつです。しかしながら、胸部HRCT画像の読影に難しさを感じられている先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。 
今回は、呼吸器疾患診療における胸部HRCT画像読影のポイントについてご紹介します。

胸部HRCT画像読影の基礎知識

胸部HRCT画像の読影にあたって、まず知っておくべきことは、「肺区域の解剖」「HRCTの出力条件」「胸部HRCTにより疑われる代表的な疾患」です。

肺区域の解剖

右肺は上葉、中葉、下葉、左肺は上葉、下葉に分かれています。肺区域は、肺葉をさらに細かく分けたもので、各肺葉の肺区域は図1のとおりです。この肺区域を用いて、胸部HRCT画像上の病変の位置を表現します。

図1

HRCTの出力条件

HRCTの出力条件には、肺の病変を観察しやすい「肺野条件(図2)」と、縦隔や胸壁の病変を観察しやすい「縦隔条件(図3)」の2つがあります。 
所見の見落としを防ぐためには、出力条件ごとに読影手順を決めておくことが重要です。「肺野条件」では、肺尖部から肺底部に向かって読影を進めていきます。「縦隔条件」では、縦隔、リンパ節、胸膜、胸壁、乳腺、甲状腺、心臓、大動脈、食道といったように、臓器別に順序を決めて読影を進めるとよいでしょう。

図2

図3

胸部HRCTにより疑われる代表的な疾患

図4に胸部HRCTにより疑われる代表的な疾患をお示しします。 
これらの代表的な疾患を知ることは、優先すべき読影ポイントを絞り込むためにも重要です。

図4

胸部HRCT画像読影のポイント

ここからは、胸部HRCT画像で認められる陰影である「肺結節」「低吸収域」「すりガラス影とコンソリデーション」の3つについて、読影のポイントや実際の胸部HRCT画像をみていきましょう。

肺結節

肺結節は、最大径3cm以下の円形、あるいは、辺縁が不整な吸収値上昇領域と定義され1)、大きさや位置、分布パターン等により「孤立性結節影」「多発性結節影」「微細粒状影」などに判断できます。 
孤立性結節影がみられた場合の鑑別疾患には、原発性肺癌や肺結核などがあげられます。多発性結節影では転移性肺腫瘍や敗血症性肺塞栓症などが、微細粒状影ではサルコイドーシスやびまん性汎細気管支炎などが鑑別疾患としてあげられます。これらの疾患の鑑別は、肺結節の大きさや位置、分布パターンなどから行うことが可能です。

肺結節を読影する際のポイント(図5)2)

■大きさ

  • 肺結節の形状はさまざまですが、一般的には長径を測定して所見とします。
  • 肺結節の長径が3cm以上のものを腫瘤影、5mm~3cmのものを結節影、5mm以下のものを粒状影、粒状影の中でも2mm以下のものを粟粒影と分類します(図5 右下画像)3)
  • 孤立性結節影
    • 3cmもしくは5cm大程度の孤立性結節影では、悪性腫瘍の可能性を強く考える必要があります。
    • 一方で、5~10mm程度までの孤立性結節影では、腫瘍性病変と炎症性病変の両方の可能性が考えられます。
  • 多発性結節影
    • 多発性結節影の場合も、大きいほど腫瘍性病変の可能性が高くなります。
    • また、多発性結節影の大きさが比較的均一であるか、もしくは、明らかに異なる大小不同であるかという情報は、腫瘍性疾患や肉芽腫性疾患を考えるうえで重要になります。

■位置や分布パターン

  • 孤立性結節影
    • 孤立性結節影の存在部位は、肺区域を用いて確認します。
  • 多発性結節影
    • 多発性結節影では、両側性・片側性や肺葉、小葉との関係性といった分布パターンを確認します。
    • 両側性に分布している場合は、全身性疾患や血行性変化を強く疑います。
    • 片側性に分布している場合は、同側同葉内の多発性結節は肺クリプトコッカス症などの経気管支変化の陰影を考えます。
    • 上肺優位に比して下肺優位な症例や、肺結節のランダム分布は血行性変化を呈した転移性肺腫瘍を疑う所見になります。
  • 微細粒状影
    • 微細粒状影の場合は、小葉中心性分布や小葉辺縁性分布、ランダム分布を確認していきます(図6)。
    • 小葉中心性分布は、感染症や誤嚥による細気管支炎やびまん性汎細気管支炎など、細気管支病変の存在を示唆する分布パターンです。
    • 小葉辺縁性分布は、胸膜や小葉間隔壁の部位に微細粒状影が分布している状態で、気管支血管束周囲の分布も伴っていれば、サルコイドーシスや塵肺症などが疑われます。

■辺縁、周囲の変化

  • 孤立性結節影
    • 孤立性結節影の場合、周囲に胸膜陥入像や気管支血管束の途絶がみられる場合は、悪性腫瘍を疑います。
    • 境界明瞭な結節影は、腫瘍成分(良性・悪性とも)もしくは液性成分(嚢胞、気管支粘液栓、異常血管)からなる充実性のものを考えます。
    • 境界不明瞭な結節影は、炎症もしくは出血・滲出物などを伴っている可能性を考えます。
    • 辺縁は平滑もしくは不整で表現し、平滑であれば良性腫瘍や転移性腫瘍を、不整な辺縁は悪性腫瘍を疑う所見になります。
    • 不整が非常に細かい棘上構造のものをスピキュラと呼び、原発性肺癌(腺癌)を疑う重要な所見になります。
  • 多発性結節影
    • 結節影周囲にすりガラス影がみられた場合は、炎症性変化や出血を伴う変化を疑います。

■内部情報

  • 孤立性結節影
    • 孤立性結節影では、内部情報として空洞、石灰化、気管支透亮像を読影します。
    • 空洞性病変は内部が壊死していることが多く、肺結核や肺膿瘍などの感染症を第一に考えます。
    • 石灰化は慢性炎症を強く示唆する所見であり、縦隔条件で確認する必要があります。
    • 気管支透亮像は、一般的には炎症性変化を強く示唆します。

■付随する所見

  • 多発性結節影
    • 炎症性疾患で多発性結節影を認める場合は、気管支の変化(特に細気管支病変)が存在することが大半です。
    • 細気管支病変は、気管支拡張像や気管支壁肥厚、気管支内の粘液栓としてみられます。
    • 気管支拡張像では、気管支内腔の直径が伴走する肺動脈影に比して明らかに大きくなっている様子が認められます。

図5

図6

肺結節の実際の胸部HRCT画像 
図7は、孤立性結節影の胸部HRCT画像です。 
左上区S1+2に辺縁凹凸不整でスピキュラを伴う径3.5cm大の結節影(腫瘤影)が認められます。この結節影は胸膜陥入像を伴い、結節周囲には散布性病変はなく内部にも石灰化や空洞を認めない充実性病変となっています。 
これらの所見から、原発性肺癌を強く疑います。原発性肺癌の中でも、非小細胞肺癌の腺癌を疑う所見です。

図7

図8は、多発性結節影の胸部HRCT画像です。 
全肺野びまん性、下葉優位に境界明瞭、辺縁平滑な大小不同(0.1~5cm)の結節が多発しています。結節は外層に優位で胸膜に接するものもみられます。小さめの結節でみると、小葉とは一定の関係はみられません。内部は均一で、空洞はみられず、肺門・縦隔リンパ節腫大や胸水も認められません。 
これらの所見から、転移性肺腫瘍を疑います。

図8

低吸収域

低吸収域は、正常肺構造がなくなって気腔が拡張している状態であるため、正常肺よりも放射線が吸収されず、黒く描出される領域です。低吸収域は、肺嚢胞や気腫性病変を認める疾患でみられます。肺嚢胞は肺実質内に存在する境界明瞭な3mm以下の薄い壁を有した空間です。一方、気腫性病変には明らかな薄壁がみられません。低吸収域については気腫性変化、嚢胞性病変の大きさ、嚢胞壁の状態などを確認しましょう。 
低吸収域がみられた場合の鑑別疾患には、肺気腫や肺ランゲルハンス細胞組織球症、肺リンパ脈管筋腫症などがあげられます。

低吸収域を読影する際のポイント(図9)4) 
低吸収域のみられる胸部HRCT画像では、気腫性変化のパターンや嚢胞性病変の大きさなどが優先したい読影のポイントとなります。

■気腫性変化のパターン

  • 肺気腫は、組織学的に肺胞壁の破壊や消失、終末細気管支より末梢の気腔の非可逆性拡張と定義されます。
  • これらの気腔拡張は、小葉中心性肺気腫、汎小葉性肺気腫、傍隔壁性肺気腫の3つのパターンに分類されています(図9 右下画像、図10)。

図9

■嚢胞性病変の大きさ

  • 肺ランゲルハンス細胞組織球症では数mm~数cmにまで拡張する大小不同な嚢胞がみられます。
  • 一方、肺リンパ脈管筋腫症では2cm以下の嚢胞がみられることが一般的です。
  • 嚢胞の大きさは閉塞性換気障害にも影響してくるため、嚢胞の経時的な変化(特に最大径)も重要な情報になります。

■嚢胞壁の状態

  • 嚢胞性病変の壁は薄く辺縁も平滑であることが一般的です。
  • 嚢胞性肺疾患の中でも肺ランゲルハンス細胞組織球症は壁の厚い不整形の嚢胞が特徴的ですが、類円形・卵円形などの形状もみられます。
  • シェーグレン症候群や肺リンパ脈管筋腫症における嚢胞は、壁が薄く比較的均一な類円形の形状がほとんどです。

■付随する所見

  • 肺ランゲルハンス細胞組織球症では、肺嚢胞以外にも小葉中心性の粒状影・小結節影、また輪状影もみられます。
  • 肺嚢胞が優位にみられる領域は、疾患によって異なります。
  • 肺ランゲルハンス細胞組織球症では上葉優位に、Birt-Hogg-Dubé症候群では下葉の縦隔側優位にみられますが、肺リンパ脈管筋腫症では優位な領域はありません。
  • ビア樽様胸郭は、高度な閉塞性換気障害により両肺の過膨張をきたしている状態です。

図10

低吸収域の実際の胸部HRCT画像(図11) 
両側上葉には主として小葉中心性、一部に小葉辺縁性に低吸収域が認められます。両側下葉の低吸収域は小葉中心性から汎小葉性へと変化しているようにみえます。嚢胞性病変の大きさは3~20mm程度まで幅があり、嚢胞壁は非常に薄く、ほとんどみえない状態です。 
診断は慢性肺気腫で主に小葉中心性ですが、小葉辺縁性や汎小葉性の肺気腫も認めます。 

図11

すりガラス影とコンソリデーション 
すりガラス影は、すりガラス状にみえる病変または濃度の所見を指し、その内部に肺血管影や気管支影がみえる程度の淡い肺野濃度の上昇と定義されます。これらの陰影が不鮮明でみられない濃度上昇のコンソリデーションとは区別されています。なお、撮影スライス厚が大きい場合、コンソリデーションがすりガラス影にみえることもあるので注意が必要です。 
すりガラス影の鑑別疾患には特発性間質性肺炎や過敏性肺炎などが、コンソリデーションの鑑別疾患には肺炎球菌性肺炎やマイコプラズマ肺炎などがあげられます。

すりガラス影やコンソリデーションを読影する際のポイント(図12)5) 
すりガラス影やコンソリデーションを読影する際のポイントは、区域性の拡がりや胸膜下領域の変化、内部情報などです。

■区域性の拡がり

  • すりガラス影
    •  区域性の拡がり(分布)とは、すりガラス影がその領域の区域気管支・肺動脈が広がる区域に一致して拡がることをいいます。
    • 区域性の拡がりは、気管支を介して区域に拡がった疾患(特に感染症や誤嚥など)や、気管支と伴走する肺動脈周囲から陰影が拡がる肺水腫や心不全などでみられます。
    • 一方で、非区域性の拡がり(分布)とは、気管支や肺動脈の拡がりとは異なって隣接する区域にすりガラス影が拡がる分布をいいます。
    • 非区域性の拡がりは、器質化肺炎などの間質性肺炎である可能性が高いとされています。
  • コンソリデーション
    • 区域性の拡がりは、コンソリデーションの場合も確認します。
    • 区域気管支・肺動脈を中心とした楔状のコンソリデーションであれば感染症や肺梗塞を、区域気管支血管周囲のコンソリデーションであれば肺水腫や肺胞出血を鑑別にあげます。
    • 非区域性分布であれば器質化肺炎や慢性好酸球性肺炎を鑑別診断の筆頭に考えていきます。

■地図上分布の拡がり

  • すりガラス影
    • 地図上分布とは、世界地図のようにすりガラス影が境界明瞭で斑状に分布している所見です。
    • これは、肺胞蛋白症や、薬剤性肺障害、ニューモシスチス肺炎、剥離性間質性肺炎(DIP)などでみられます。
    • 分布パターン
  • コンソリデーション
    • コンソリデーションでは、分布パターンが片側性か両側性かを確認します。
    • 片側性にコンソリデーションがみられる場合は、感染症を第一に考えます。
    • 孤立性で辺縁が凹凸不整であれば、炎症性疾患だけでなく腫瘍性病変も鑑別すべきです。
    • 両側性の場合は、器質化肺炎を含む間質性肺疾患、肺水腫や肺胞出血、好酸球性肺炎、感染症による両側肺炎などを鑑別にあげていきます。

■内部情報

  • すりガラス影
    • crazy-paving appearance、牽引性気管支拡張像、粒状影はすりガラス影に伴ってみられる所見です。
    • crazy-paving appearanceは、すりガラス影内部に線状あるいは網状影が重なり、ネットワーク状にみられます。
    • crazy-paving appearanceは肺胞蛋白症でよくみられますが、そのほかに急性肺障害/急性呼吸促迫症候群や肺炎、誤嚥、肺水腫などさまざまな疾患でみられます。
    • 牽引性気管支拡張像は気道周囲の強い線維化を、粒状影は細気管支病変を疑う所見です。
  • コンソリデーション
    • 気管支透亮像、空洞影、石灰化はコンソリデーションの内部に伴う所見として鑑別診断に有用です。
    • コンソリデーション内部に気管支透亮像がみられる場合は、腫瘍性よりも炎症性病変の可能性を考えます。
    • 空洞影を伴うコンソリデーションは肺膿瘍や抗酸菌感染症などを、石灰化を伴う場合は塵肺症(珪肺症)やアミロイドーシスなどの炎症性疾患を疑う所見です。

■胸膜下領域の変化(図12 右下画像)

  • すりガラス影
    • 両側肺野にびまん性にすりガラス影がみられる場合、胸膜に近接する領域の評価は鑑別診断に有用です。
    • その領域に蜂巣肺や網状影がみられると、特発性肺線維症を第一に疑うことになります。
    • 特発性肺線維症の典型的病理像と合致した胸部CT所見(蜂巣肺、網状影、胸膜下領域のすりガラス影)をUIP※2パターンと呼びます。
    • すりガラス影の陰影回避が胸膜下領域に分布すると、肺水腫や肺胞蛋白症が鑑別する上位にあがってきます。
    • 小葉間隔壁肥厚は細肺静脈やリンパ管のうっ滞を示し、肺水腫にみられる所見です。 
      ※2 UIP:通常型間質性肺炎

■付随する所見

  • コンソリデーション
    •  粒状影は、細気管支病変を疑う所見になります。
    • また、両側下葉(特に肺底部)優位にみられるコンソリデーション所見は、皮膚筋炎/多発性筋炎による間質性肺炎や抗ARS抗体症候群の肺病変が疑われます。
    • コンソリデーション内部に著明な気管支拡張像を認める場合は、かなり強い炎症が起きている可能性が示唆されます。
    • コンソリデーションの移動性は、自然経過で陰影の場所が変化する所見のことをいい、器質化肺炎などでみられます。

図12

すりガラス影の実際の胸部HRCT画像 
図13では、両側下葉の容積が減少するとともに、両側下肺胸膜直下背側優位に比較的大きさが均一な多層性嚢胞の集簇があり、蜂巣肺を認めます。比較的変化が弱い上葉腹側末梢には胸膜から垂直に立ち上がる線状影(不均一な小葉内病変分布)と二次小葉内に不均一に分布する網状影が認められます。また、胸膜直下に細気管支の牽引性気管支拡張を伴っています。総合的にUIPパターンの間質性肺炎と考えます。

図13

続いて、同じ患者さんが6ヵ月後に症状の増悪を訴えて受診した際の胸部HRCT画像をみてみましょう(図14)。 
安定時に認められていた慢性経過の線維化を反映する所見に加えて、これまで正常肺であった領域に新たに非区域性びまん性に分布する広範なすりガラス影が認められます。新たに出現したすりガラス影の内部には、気管支拡張も認められます。

図14

まとめ

胸部HRCT画像を的確に読影するためには、所見を見落とさないように手順を決めることと、各所見の陰影の種類を判断し、その所見の特徴から、どのような疾患なのか鑑別していくことが重要です。

今回ご紹介した内容を、呼吸器疾患患者さんの診療にお役立ていただけますと幸いです。

【参考文献】

  1. 日本CT検診学会 肺がん診断基準部会 編:低線量CTによる肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方 第5版, p.4, 2017.
  2. 石井晴之、栗原泰之 編集:教科書では学べない 胸部画像診断の知恵袋, p.2-69, p.142-160, 2020, 秀潤社
  3. 医療情報科学研究所 編集:病気がみえる vol.4 呼吸器 第3版, p.71, 2018,メディックメディア
  4. 石井晴之、栗原泰之 編集:教科書では学べない 胸部画像診断の知恵袋, p.162-184, 2020, 秀潤社
  5. 石井晴之、栗原泰之 編集:教科書では学べない 胸部画像診断の知恵袋, p.72-140, 2020, 秀潤社
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