Q&Aで基礎からわかる!進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)

サイトへ公開: 2023年12月20日 (水)
Q&Aで基礎からわかる!進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)

同窓会で久しぶりに再会した大倉先生と谷部先生。昔話に花を咲かせるうちに、話題は進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の話題に移ります。

Q PF-ILDはどのような疾患?

谷部先生
PF-ILDはどのような疾患なんですか?

大倉先生
間質性肺疾患(ILD)のうち、「臨床経過のある時点において進行性の線維化がみられる」という共通の特徴を持つものがPF-ILDと呼ばれます(図1)。 
代表的な疾患として特発性肺線維症(IPF)がありますが、IPF以外の特発性間質性肺炎(IIPs)や自己免疫性ILDなどでも一部の患者さんでPF-ILDが認められます。

図1

こちらの図の青色のボックスで示されているように、PF-ILDが認められることが多い疾患にはさまざまなものがありますよ(図2)。

図2

谷部先生
関節リウマチや全身性強皮症といった膠原病でもPF-ILDが認められるんですね。

大倉先生
そうです。そして、PF-ILDは患者さんの予後に影響を及ぼす疾患です。 
PF-ILDの生存率について各疾患別に調べたフランスの研究では、生存期間中央値について、2.4~7.9年と報告されているんですよ(図3)。

図3

谷部先生
なるほど。 
患者さんの予後を考えると、早期に見つけて適切な治療を行うことが必要な疾患といえそうですね。

Q PF-ILD患者さんを見つけるには?

谷部先生
PF-ILD患者さんを見つけるには何に気をつければいいですか?

大倉先生
PF-ILD患者さんを見つけて適切な治療につなげるためには、まずはILD疑い患者さんを見つける必要がありますね。

谷部先生
ILDでは、コンコンとした痰を伴わない咳(空嗽)や、階段の上り下りなど労作時の呼吸困難といった症状があるのでしたっけ?1,2

大倉先生
そうですね。 
ただし、膠原病に伴うILD(CTD-ILD)の初期においては、しばしば無症状の場合や特異的な症状がみられない場合もありますよ2

谷部先生
症状にだけ注意していると、ILD疑い患者さんを見逃す可能性があるんですね。では、どのようにILD疑い患者さんを見つければいいですか?

大倉先生
ILDのスクリーニング検査として、①胸部聴診所見での捻髪音の確認、②胸部X線などによる画像検査、③血液検査でのバイオマーカーの測定などがあげられますね3

❶ 胸部聴診所見での捻髪音の確認

捻髪音の聴取は、適切な手順の中で背中も含めて行います。 
捻髪音を聴診する際のポイントとして次のふたつがあります。 
ひとつめは、患者さんに息を大きく吸ってもらうことです。捻髪音は吸気終末時に聴取されるため、軽症例では深呼吸が必要となります。ふたつめは、生理的無気肺を生じやすい聴診部位であるため、聴診を複数回行い、再現性を確認することです。無症状例においても両側肺底部背側での慎重な聴診によって捻髪音を聴取することができますよ(図4)。

図4

❷ 胸部X線などによる画像検査

胸部X線検査で得られる画像は重積像であることから、早期の微細な陰影に関しても鋭敏に検出することができます4。 
ILD患者さんの胸部X線画像では、線状・網状影やすりガラス影などが認められます。また、肺の容積が減少し、横隔膜との境界に不明瞭さがみられます(図5)。

図5

異常影が軽微な症例においては、胸部X線画像では認識できない場合も少なくありませんが、過去の胸部X線画像との比較(比較読影)により、肺容積の変化や経過を観察することができます3。 
実際に比較読影によって捉えられたILDの進行例をみてみましょうか。こちらは80歳代男性IPF患者さんの胸部X線画像です。当初、両下肺野、横隔膜上に「モヤモヤ」した陰影として網状影が認められていました。同じ患者さんの9年後の画像では、両下肺野の網状影が拡大し、肺容積が減少していることがわかりますね。さらに半年後のX線画像では、両中下肺野優位に広範なすりガラス影が出現し、肺容積がさらに減少しています(図6)。 
画像検査に関しては、胸部X線だけでなく、必要に応じて高分解能CT(HRCT)を行い、病変を確認することも必要となります3

図6

❸ 血液検査でのバイオマーカーの測定

KL-6やSP-D、SP-Aなどのバイオマーカーについては、疾患特異性はないものの、ILDを疑うきっかけや病態のモニタリングなどに有用とされています5。 
実際に、ベースライン時から6ヵ月後にILDが進行した人では、KL-6及びSP-Dがベースライン時よりも上昇していたことが報告されていますね(図7)。

図7

谷部先生
症状やスクリーニング検査で、ILDを疑う所見が認められた場合はどうすればいいですか?

大倉先生
『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版』にも記載されているように、ILDを疑う患者さんを見つけた場合は、症状の有無にかかわらず一度は呼吸器専門医に紹介するようにしてください6。紹介された患者さんに対し、呼吸器専門医がより詳細な検討を加え、正確な診断及び病態や重症度の評価を行います。

Q PF-ILDの診断は?

谷部先生
ILD疑いとして紹介した患者さんに対して、呼吸器専門の先生方が正確な診断をされるとのことですが、ILDと診断された後、どのような所見がみられた場合に進行性の肺線維化がある、つまり、PF-ILDであると診断されるんですか?

大倉先生
PF-ILDにおける進行性の定義はまだ公式に定められていませんが、背景疾患の診断後、標準的治療・管理を行い、呼吸器症状、①生理検査(FVC、DLco)、②胸部HRCTによる線維性病変の拡がりの変化(疾患挙動)から進行性線維化性の判断を行うとされています7。これらに加え、PF-ILDの管理アルゴリズム案では、③6分間歩行試験も疾患進行のモニタリング検査として提案されていますね8

❶ 生理検査(FVC、DLco)

経時的な呼吸機能の変化は、IPF及び線維性NSIP※1において鋭敏な予後予測因子と考えられています。予後不良を示唆する臨床的に有意なベースラインからの変化は%FVC 10%以上、%DLco 15%以上とされています9。 
※1 NSIP:非特異性間質性肺炎

❷ 胸部HRCT検査

PF-ILDの代表的な疾患であるIPFで認められるHRCTパターンは、UIP※2、Probable UIP、Indeterminate for UIP、Alternative Diagnosisを示唆するCT所見の4パターンに分類されます。各パターンにおける確診度、分布、CT像の特徴はこちらのとおりです(図8)。 
※2 UIP:通常型間質性肺炎

図8

実際に、肺線維化進行の様子を捉えたHRCT像をみてみましょうか。こちらは、全身性強皮症に伴うILD患者さんのHRCT像です。当初は、肺底部に優位なすりガラス影、軽度の牽引性気管支拡張及びNSIPパターンと一致するsubpleural sparing※3を伴う網状影がみられました。10年後のHRCT像では、すりガラス影の減少と肺底部における網状影及び牽引性気管支拡張の増加がみられ、肺の線維化が進行しています(図9)。 
※3 subpleural sparing: 胸膜直下の肺病変が少ない

図9

❸ 6分間歩行試験

6分間歩行試験は、運動負荷時のガス交換能の変化を評価する試験です。 
6分間歩行距離207m未満あるいは250m未満、6ヵ月間で50m以上の短縮、SpO2最低値88%以下あるいは未満、歩行後心拍数増加の回復の遅れは、IPFを含むIIPsの予後予測因子とされています10。 
なお、6分間歩行試験と1分間椅子立ち上がり試験の最低SpO2については相関が認められているため(図10)、6分間歩行試験の代替として1分間椅子立ち上がり試験を実施することができるとされていますよ11

図10

PF-ILDの診断については、背景疾患の特異的診断及び疾患横断的な肺の進行性線維化の評価と診断で行われます。診断精度を高めるためには、呼吸器科医、放射線科医、そして必要に応じて病理医、膠原病内科医で実施する多分野による集学的検討/診断(MDD)で総合診断するのが望ましいとされていますね7,12

谷部先生
疾患横断的な肺の進行性線維化の評価と診断ですか…。 
PF-ILDにおける進行性の定義はまだ公式に定められていないということですが、PF-ILDの診断をする上で参考となる基準はあるんですか?

大倉先生
PF-ILDの治療選択肢のひとつである抗線維化剤オフェブの有効性・安全性を検討したINBUILD試験では、こちらに示す定義を満たす場合をPF-ILDとしています(図11)。

図11

その一方で、2022年にATS/ERS/JRS/ALAT※4から公表された『特発性肺線維症および進行性肺線維症国際診療ガイドライン2022』では、新たに進行性肺線維症(PPF)が定義されました。 
※4 ATS:American Thoracic Society(米国胸部学会) 
ERS:European Respiratory Society(欧州胸部疾患学会) 
JRS:Japanese Respiratory Society(日本呼吸器学会) 
ALAT:Asociación Latinoamericana de Tórax(ラテンアメリカ胸部医学会)

2つの定義を比べると若干の違いがあるものの、PPFの定義でもINBUILD試験のPF-ILDの定義でも、予後不良の患者さんを特定できることが研究で示されています13(図12)。

図12

このことから、2つの定義の優劣を議論するよりも、どちらの基準を満たした場合でも予後不良と判断することが大切なのではないか、と思っています。

Q PF-ILDの治療は?

谷部先生
PF-ILDと診断後、どのような治療が行われるんですか?呼吸器専門の先生と連携して患者さんの経過を見るケースもあるかもしれないと思うので知りたいです。

大倉先生
まずILDの治療について説明しましょう。ILDは疾患によって線維化性病態の関与はさまざまで、このことが治療選択にも影響します。 
こちらに示すように、線維化性を主体とするものに対しては、抗線維化薬による治療が推奨されています。一方、細胞性/炎症性を主体とするILDに対してはステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤などによる治療が推奨されています(図13)。

図13

PF-ILDと診断された場合に抗線維化薬を考慮することは、『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版』で示されていますよ(図14)。

図14

谷部先生
先ほどPF-ILDの定義についてお話しいただいたときに、PF-ILDの治療選択肢のひとつとして抗線維化剤オフェブの名前を出されていましたよね。 
オフェブを処方することで、PF-ILDは改善するんですか?

大倉先生
オフェブなどの抗線維化薬による治療は、疾患修飾療法、すなわち、疾患の進行の遅延や阻止を目的としています。 
理想的な治療目標は、呼吸機能が治療介入時に比べて改善することですが、肺の線維化や血管障害は組織構造の破壊を伴うため、一度低下した機能の正常化は難しいとされています。したがって、現実的な治療目標は、呼吸機能の低下が自然経過と比べて抑制されること(進行遅延)または低下せずにとどまること(進行阻止)となります。この治療目標を踏まえると、抗線維化薬による治療はできるだけ早期に開始し、継続することが望ましいと考えられますね(図15)。

図15

まとめ

谷部先生
お話しをまとめると、

  • PF-ILDは「臨床経過のある時点において進行性の線維化がみられる」という共通の特徴を持つILDである
  • 症状の有無にかかわらず、スクリーニング検査等でILD疑いとなった患者さんは呼吸器専門の先生に紹介する
  • PF-ILDの診断は、FVC及びDLcoの測定や胸部HRCT検査、6分間歩行試験もしくはその代替となる1分間椅子立ち上がり試験などによる肺の進行性線維化の評価と診断、及び背景疾患の特異的診断で行われる
  • 診断精度を高めるためには、呼吸器科医、放射線科医、そして必要に応じて病理医、膠原病内科医で構成されるMDDを実施することが望まれる
  • PF-ILDと診断された場合は、オフェブなどの抗線維化薬が治療選択肢として検討できる

ということですね。 
教えていただいた内容を、これからの診療に役立てたいと思います。ありがとうございました!

【引用】

  1. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.9. 2022, 南江堂
  2. 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会合同膠原病に伴う間質性肺疾患診断・治療指針作成委員会2020編:膠原病に伴う間質性肺疾患診断・治療指針 2020. p.2. 2020, メディカルレビュー社
  3. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.167, 2022, 南江堂
  4. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.10, 2022, 南江堂
  5. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.20, 2022, 南江堂
  6. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.169, 2022, 南江堂
  7. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.59-60, 2022, 南江堂
  8. Gibson CD. et al.: Lung 2020; 198(4): 597-608.
  9. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.21, 2022, 南江堂
  10. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.22, 2022, 南江堂
  11. Oishi K. et al.: NPJ Prim Care Respir Med 2022; 32(1): 5.
  12. 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.6, 2022, 南江堂
  13. Khor YH. et al.:Am J Respir Crit Care Med. 2023;207(1):102-105.
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