関節リウマチに伴う間質性肺疾患の管理(静止画)

サイトへ公開: 2021年06月22日 (火)

ご監修:
京都府立医科大学大学院医学研究科 免疫内科学 病院教授 川人 豊 先生

関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)は、関節リウマチ(RA)患者の生命予後に関連する重要な関節外症状の1つです。RAの治療に用いられる疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)は、副作用として薬剤性肺障害を発現することがあり、RA-ILD及び急性増悪との鑑別が重要となります。ここでは、RA-ILDの疫学や予後不良因子、急性増悪、及びRA-ILDに対するオフェブの有用性について解説します。

関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)の疾患概要

RA-ILDの疫学、症状、予後不良因子

RA-ILDの有病率は、RA患者のうち約28~67%と報告されています(HRCTによる検討)(表1)。多くは無症状での診断例であり、臨床症状を伴うのは7~29%です。女性の割合は45~70%、また、喫煙歴を有する患者の割合は20~65%と報告されています1)

通常型間質性肺炎(UIP)及び線維性非特異性間質性肺炎(NSIP)を呈する患者においては慢性の経過を呈し、乾性咳嗽や労作時呼吸困難などの初期症状がみられ、気道病変を合併しやすく、合併すると喀痰を伴う湿性咳嗽を伴います。また、多くの患者で両側肺底部に捻髪音(fine crackles)が聴取されます。一方、器質化肺炎(OP)やびまん性肺胞傷害(DAD)、細胞浸潤性NSIPの一部患者では、発熱や全身倦怠感などの症状がみられます1)

RA-ILDの予後不良因子として、男性、高齢、拡散能低下、広範囲な線維化、HRCTにおけるUIPパターン、間質性肺疾患(ILD)の急性増悪などが挙げられます1)

表1 RA-ILDの疫学、症状、予後不良因子

予後不良因子

日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.103-113. 2020

RAの死亡原因及びRA-ILDの生命予後

日本の大規模コホート研究「IORRA」に登録されたRA患者7,926例(死亡例289例)を対象とした検討において、最も多い死亡原因は悪性腫瘍(24.2%)でした(図1a)2)

ILDは11.1%を占めており、RA患者の生命予後に関連する重要な因子です1,2)。 2010年に報告されたBongartzらのRA患者582例(ILD合併46例、ILD非合併536例)の検討では、ILD診断後の生存期間中央値は2.6年であり(平均追跡期間16.4年)、RA-ILD患者はRA患者全体に比べて予後不良であることが示されています(図1b)3)

図1 RAの死亡原因とRA-ILD患者の生命予後

RAの死亡原因

2)Nakajima A. et al.: Scand J Rheumatol 2010; 39(5): 360-367.
3)Bongartz T. et al.: Arthritis Rheum 2010; 62(6): 1583-1591.

RAの薬物治療

RAで用いられる主な治療薬を表2に示します。疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)は、合成DMARDsと生物学的DMARDsに分類されます。合成DMARDsとして、メトトレキサート、サラゾスルファピリジン、タクロリムスなどの従来型合成DMARDs、JAK阻害薬であるトファシチニブ、バリシチニブ、ペフィシチニブ、ウパダシチニブなどの分子標的合成DMARDsが用いられます。生物学的DMARDsはさまざまな標的分子に対する生物学的製剤であり、TNF阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブなど)、IL-6受容体阻害薬(トシリズマブ、サリルマブ)、T細胞共刺激分子阻害薬(アバタセプト)などが用いられます。他の生物学的製剤として、骨びらんの進行抑制効果を有するRANKL阻害薬(デノスマブ)もあります。また、炎症や疼痛に対しては、ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます。

これらの薬物治療の副作用として、薬剤性肺障害が発現することがあります。薬剤性肺障害は、びまん性肺胞傷害(DAD)を含む間質性肺炎、急性好酸球性肺炎、過敏性肺炎、細気管支炎などを呈します4,5)。RAの治療においては、薬剤性肺障害のリスク・頻度を考慮して、治療方針を決定する必要があります1)

表2 RAの主な治療薬

表2RAの主な治療薬

日本リウマチ学会. 関節リウマチ診療ガイドライン2014. 2014 より作表し一部改変
監修:京都府立医科大学大学院医学研究科 免疫内科学 病院教授 川人 豊 先生

RA-ILDの急性増悪

RA-ILDの経過中に、急速に呼吸機能の低下を呈する予後不良の病態である急性増悪を発現することがあります。RA-ILDの急性増悪では、1ヵ月以内の経過で呼吸困難の悪化や呼吸機能の低下、動脈血酸素分圧(PaO2)の10Torr以上の低下がみられ、胸部画像においてすりガラス陰影や浸潤影が新たに出現します(図2)

急性増悪のリスク因子として、メトトレキサート(MTX)使用者、高齢、HRCTにおけるUIPパターンなどが挙げられます。また、RAの関節炎の活動性とは相関しないことも多いとされています1)。 HozumiらによるRA-ILD患者51例の検討(観察期間中央値8.5年)において、急性増悪を発現した患者の割合は22%であり、死亡率は64%でした。また、急性増悪の1年発症率は2.8%(UIPパターンの患者:6.5%、UIPパターン以外の患者:1.7%)、5年発症率は11%(UIPパターンの患者:33%、UIPパターン以外の患者:3%)でした6)

このように、RA-ILDにおける急性増悪は、特発性肺線維症(IPF)の急性増悪と同様に予後不良の病態であり、UIPパターンを呈する患者においては特に注意が必要です。

図2 RA-ILDの急性増悪のHRCT所見

図2 RA-ILDの急性増悪のHRCT所見

日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.109. 2020

RAにおける急性増悪と薬剤性肺障害の鑑別

RA-ILDの急性増悪が疑われる場合は、ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス肺炎などの感染症との鑑別、DMARDsによる薬剤性肺障害との鑑別が重要です1)

DMARDsによる薬剤性肺障害では、薬剤投与後に皮疹や肝障害、好酸球増加が生じ、その後に間質性陰影が出現することが一般的ですが、原因薬剤ごとに、胸部HRCT画像パターンや重症度が異なります4)

HRCT所見において、RA-ILDでは両側下肺野、外側、胸膜直下に陰影が分布するのに対して、薬剤性肺障害の多くは上中肺野、小葉中心性にも認められます。しかし、薬剤性肺障害の診断に特徴的な血液検査、画像所見はなく、RA-ILDとの鑑別診断は困難な場合が多いため、定期的に肺病変を観察する必要があります7)

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)に対するオフェブの有用性を検討したINBUILD試験

試験概要:INBUILD試験[国際共同第Ⅲ相試験(検証試験)]

INBUILD試験は、抗線維化薬であるオフェブのPF-ILDに対する有用性を検討した国際共同第Ⅲ相試験です(図3)8,9)。IPFを除くPF-ILD患者663例(日本人患者108例を含む)が、オフェブ150mg 1日2回投与群又はプラセボ群に1:1で割り付けられました。

本試験では、IPF以外のILDと診断され、胸部HRCTでの線維化の広がりが肺全野の10%超で確認され、かつ医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらずスクリーニング前の24ヵ月以内において ⅰ)~ ⅳ)のいずれかのILDの進行性の基準を満たす患者が対象とされました(表3)。 本試験におけるILDの臨床診断名別の患者割合は図4に示すとおりであり、RA-ILD患者の割合は13.4%でした9,10)

図3 試験デザイン

図3 試験デザイン

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727.
本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
承認時評価資料

試験デザイン: ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較試験
実施地域: 日本を含む15ヵ国、153施設
目的: 進行性線維化を伴う間質性肺疾患患者におけるオフェブ150mg 1日2回投与の有効性と安全性を検討する。
対象: 特発性肺線維症を除く進行性線維化を伴う間質性肺疾患の患者663例(日本人108例含む)
方法: 対象患者をオフェブ群あるいはプラセボ群に1:1の比率でランダムに割り付け、試験薬を52週間投与し、有効性と安全性を検討した。中央判定したHRCTパターンに基づき、UIP様線維化パターン、又は他の線維化パターンにより層別化してランダム化を行った。用法・用量として150mgを1日2回投与した。投与期間は52週以降、本試験終了(最後の患者の最終観察終了時と定義)、又は投与中止の理由に該当するまでとし、割り付けられた試験薬を盲検下で継続投与した。有害事象への対応として、中断又は100mg 1日2回への減量を可能とした。
主要評価項目: 投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)
その他の評価項目: 全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間 など
解析計画: 解析対象として、全患者( 全体集団)及びHRCTでUIP様線維化パターンがみられる患者(HRCTでUIP様線維化パターンのみがみられる集団)の2つをco-primary評価集団と定義し、主要評価項目、副次評価項目及びその他の評価項目の解析はco-primary評価集団で実施した。主要評価項目の解析にはランダム係数回帰モデル(ランダム切片・傾き)を用いた。全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間については、log-rank検定(全体集団の解析のみHRCTパターンで層別化)を用いて解析し、投与群の項を含め、同じ因子で層別したCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)及びその95%信頼区間(CI)を求めた。プラセボ投与に対するオフェブ150mg 1日2回投与の優越性の検証は、2つのco-primary評価集団で主要評価項目について検定を実施した。検定の多重性の調整にはHochberg法を用い、2つのco-primary評価集団でともに両側有意水準5%で有意であった場合、又はいずれかの集団において両側有意水準2.5%で有意であった場合に統計学的に有意とした。主要評価項目について、次の部分集団解析を行うことが事前に規定された。性別(男性、女性)、年齢(65歳未満、65歳以上)、人種(白人、アジア人、黒人又はアフリカ系アメリカ人)、ベースライン時の%FVC(70%以下、70%超)、ILD臨床診断グループ[過敏性肺炎(過敏性肺臓炎)、特発性非特異性間質性肺炎、分類不能型特発性間質性肺炎、自己免疫性間質性肺疾患、他の間質性肺疾患]。

全期間:最後の患者の最終観察終了時

表3 ILDの進行性の基準

表3 ILDの進行性の基準

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727.
本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
承認時評価資料

図4 ILD臨床診断名別の患者割合

図4 ILD臨床診断名別の患者割合

有効性:投与52週までのFVCの年間減少率

主要評価項目である投与52週までのFVCの年間減少率において、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが示されました(図5)

全体集団における投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-80.8mL/年、プラセボ群-187.8mL/年であり、相対減少率は57%でした。HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団では、オフェブ群-82.9mL/年、プラセボ群-211.1mL/年であり、相対減少率は61%でした8,9)

ILDの臨床診断名別にみた投与52週までのFVCの年間減少率(部分集団解析)は(図6)に示すとおりでした9,10)

図5 投与52週までのFVCの年間減少率:主要評価項目

投与52週までのFVCの年間減少率:主要評価項目

Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
承認時評価資料

図6 ILD臨床診断名別の投与52週までのFVCの年間減少率:部分集団解析

図6 ILD臨床診断名別の投与52週までのFVCの年間減少率:部分集団解析

Wells AU. et al.: Lancet Respir Med 2020; 8(5): 453-460. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
承認時評価資料

有効性:ILDの急性増悪又は死亡までの期間

RA-ILDの急性増悪は、IPFの急性増悪と同様に予後不良であり1)、RA-ILDの管理においては急性増悪を抑制することが重要となります。 INBUILD試験では、全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間の評価が行われ、オフェブ群におけるリスク減少率は、全体集団では33%(ハザード比0.67、層別Cox回帰モデル)、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団では38%(ハザード比0.62、Cox回帰モデル)でした(図7)9)

全期間:最後の患者の最終観察終了時

図7 全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間:その他の評価項目

図7 全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間:その他の評価項目

承認時評価資料

安全性

全体集団での全期間※1における有害事象は、オフェブ群では332例中326例(98.2%)、プラセボ群では331例中308例(93.1%)に認められました(表4)。オフェブ群における重篤な有害事象※2、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は表4のとおりでした。また、オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)、上咽頭炎及び食欲減退が各54例(16.3%)などでした。また、ALT増加、AST増加、γ-GTP増加などの肝酵素上昇もみられました(表5)9)

本試験における投与52週までの肝酵素上昇、下痢、悪心、嘔吐の有害事象の重症度は表6に示すとおりでした9)

※1 全期間:最後の患者の最終観察終了時
※21名を複数の重篤度分類基準でカウントしている場合がある

表4 全期間における有害事象の概要

表4 全期間における有害事象の概要

承認時評価資料

表5 全期間におけるいずれかの治療群で発現割合5%超の有害事象

表5 全期間におけるいずれかの治療群で発現割合5%超の有害事象

承認時評価資料

表6 投与52週までの肝酵素上昇、下痢・悪心・嘔吐の有害事象の重症度

表6 投与52週までの下痢・悪心・嘔吐の有害事象の重症度

承認時評価資料

今後のRA-ILD治療の展望

RA-ILDはRA患者の約28~67%でみられ、ILDはRA患者の死亡原因の11.1%を占める予後不良の合併症です。

PF-ILD患者を対象としたINBUILD試験では、抗線維化薬であるオフェブの投与により、呼吸機能の低下が抑制されることが示され、この結果はRA-ILDにおいても同様でした。これまで、RA-ILDに対してエビデンスを持つ有効な治療法はありませんでしたが、今後は、HRCTにより確認された進行性の肺の線維化、努力肺活量などの呼吸機能の低下、咳や呼吸困難などの呼吸器症状の悪化がみられるなど、線維化が進行しているRA-ILD患者さんにとって、オフェブは新たな治療選択肢になると考えられます。

文献:

1)日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.103-113. 2020
2)Nakajima A. et al.: Scand J Rheumatol 2010; 39(5): 360-367.
3)Bongartz T. et al.: Arthritis Rheum 2010; 62(6): 1583-1591.
4)三森明夫. 膠原病診療ノート(第4版). p.454-537. 2019
5)Makino S.: Clin Rheumatol 2008; 20(1): 76-80.
6)Hozumi H. et al.: BMJ Open 2013; 3(9): e003132.
7)久保惠嗣、藤田次郎. 間質性肺疾患診療マニュアル(改訂第2版). p.270-274. 2014
8)Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
9)承認時評価資料
10)Wells AU. et al.: Lancet Respir Med 2020; 8(5): 453-460. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました

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