知っておきたい医療費助成のポイント ~シェーグレン症候群~(静止画)

サイトへ公開: 2021年11月19日 (金)

ご監修・ご出演:坪井 洋人先生(筑波大学医学医療系 膠原病リウマチアレルギー内科学 講師)

坪井 洋人先生

特発性肺線維症(IPF)の治療薬である抗線維化剤オフェブは、2019年12月に全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の適応を取得しました。2020年5月には進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の適応を取得し、シェーグレン症候群を含めたさまざまな原疾患に合併するPF-ILD患者さんへの投与が可能になりました。
しかし、オフェブによる治療は高額になることもあることから、治療をためらわれる患者さんが少なからずいらっしゃる現実もあります。
オフェブによる治療の際、重症度が一定基準以上のシェーグレン症候群では、認定を受けることで難病医療費助成を受けることができます。
また、一定基準以下でも医療費が高額になる場合は、高額療養費制度を利用できる可能性もあります。
実臨床において患者さんの負担を減らすためには、これらの制度を医師が把握しておくことが重要であると考えます。

そこで本日は、これらの制度の概要と、制度適用となるシェーグレン症候群の診断方法や重症度評価などについてご紹介します。

オフェブ服用患者さんが利用できる主な医療費助成制度

本邦では、治療中の患者さんの経済的負担を減らすことを目的として、高額療養費制度や難病医療費助成制度が設けられています。これらの制度を利用することにより、医療保険給付分に加えて助成金が支給され、患者さんが支払う医療費を減らすことができます。

オフェブ服用患者さんが利用できる主な医療費助成制度01

高額療養費制度

高額療養費制度は、1ヵ月間に医療機関へ支払った自己負担額が自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分の支給を受けられる制度です。たとえば、70歳未満で標準報酬月額が32万円、1ヵ月の医療費総額が100万円の患者さんの自己負担上限額は87,430円となります。自己負担の上限額は年齢と所得によって異なります。

高額療養費制度01

難病医療費助成制度

難病医療費助成制度は厚生労働大臣が定める指定難病の患者さんで、症状が一定程度以上または高額な医療費を支払っている場合に医療費が助成される制度です。

難病医療費助成制度

また、高額な治療を長期にわたって行う必要がある場合は、さらに負担が軽減されます。

軽症でも、高額な医療の継続が必要な患者さんは、難病医療費助成の「軽症高額」の認定対象になります。具体的には、医療費助成の申請をした月から12ヵ月前までの期間において、申請した難病の治療にかかった1ヵ月当たりの医療費総額が33,330円※を超える月が3回以上ある患者さんが対象になります。

※医療費総額が33,330円(自己負担が3割の場合、自己負担額が10,000円)を超える場合

難病医療費助成制度02

高額療養費制度は、どの疾患であっても適用される一方、難病医療費助成制度は、指定難病の認定を受けた患者さんが対象となります。

認定には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要になります。臨床調査個人票は対象の指定難病によってフォーマットが異なっており、すべて難病情報センターのホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/)からダウンロードすることができます。

こちらが、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)に関連する指定難病の疾患の一部です。
原疾患が明確でありかつ指定難病と診断されている場合は、原疾患の基準での申請が可能です。PF-ILDに関連する指定難病としては、特発性間質性肺炎(IIPs)、全身性強皮症、皮膚筋炎/多発性筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群など主な疾患はこちらに記載のとおりです。

難病医療費助成制度03

シェーグレン症候群の症状と合併症

シェーグレン症候群は、涙腺と唾液腺を中心にリンパ球浸潤を主とする慢性炎症が生じ、眼乾燥と口腔乾燥を代表とする腺症状を呈します1)。また、腺外症状として、全身に多彩な症状が見られます。

シェーグレン症候群は、自己免疫疾患の合併がない一次性シェーグレン症候群と、自己免疫疾患を合併する二次性シェーグレン症候群に大別されます。

こちらに、一次性シェーグレン症候群における腺症状、腺外症状、合併症の出現頻度を示します。間質性肺炎は、一次性シェーグレン症候群で認められる主な合併症のひとつで、20~25%に認められています。

シェーグレン症候群の症状と合併症

ここからは、シェーグレン症候群の難病医療費助成制度の申請方法に関して紹介します。

難病医療費助成制度の申請方法

難病情報センターホームページ:シェーグレン症候群
https://www.nanbyou.or.jp/entry/111

申請の際には、まず、厚生労働省研究班による「シェーグレン症候群改訂診断基準」に基づいてシェーグレン症候群を診断します。生検病理組織検査、口腔検査、眼科検査、血清検査を行い、表中の基準に沿って陽性所見を認めるか確認します。
そして、いずれか2項目で陽性の場合、シェーグレン症候群と診断します。

難病医療費助成制度の申請方法

続いて、ESSDAI(EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index)によって重症度を評価します。各領域の評価の結果、ESSDAI合計点数が5点以上の場合、重症に分類されて難病医療費助成の対象となります。

難病医療費助成制度の申請方法02

「活動性なし」「低活動性」「中等度活動性」「高活動性」の4段階で評価します。肺病変は係数が高く、「低活動性」の場合でも、点数5点以上(重症)となることから難病医療費助成の対象となります。「低活動性」は、次の2項目のいずれかを満たす場合を指します。

  • 気管支病変による持続する咳で、単純レントゲンで異常を認めない
  • 単純レントゲンあるいはHRCTで間質性肺病変を認め、息切れがなくて呼吸機能検査が正常

なお、現在活動性の肺病変なし(不可逆的障害による安定した長期の症状、あるいはシェーグレン症候群と無関係なもの(喫煙など))の場合は「活動性なし」となります。

難病医療費助成制度の申請方法03

実際の臨床調査個人票では、3ページ目に検査所見、4ページ目に診断カテゴリーを選択する欄があります。また、4ページ目から5ページ目にかけて重症度分類について選択する欄がありますので、それぞれ該当する箇所を選択し、ESSDAI合計点数を記入します。

難病医療費助成制度の申請方法04

臨床調査個人票:P3

難病医療費助成制度の申請方法05

臨床調査個人票:P4

難病医療費助成制度の申請方法06

臨床調査個人票:P4~5

支給を受けるための流れ

患者さんが実際に支給を受けるためには、臨床調査個人票以外にもさまざまな書類が必要になります。患者さんは、これらの必要な書類を都道府県または指定都市の申請窓口に提出し、審査後承認されると医療費受給者証が交付されます。

支給を受けるための流れ01支給を受けるための流れ02

まとめ

指定難病となりうる主な間質性肺疾患は、特発性間質性肺炎、膠原病に伴う間質性肺疾患などです。このうち病状の程度が一定程度以上、または軽症で医療費が高額な場合に難病医療費助成を受けられる可能性があります。また、過敏性肺炎、関節リウマチに伴う間質性肺疾患など、「指定難病」以外の疾患の患者さんも、高額療養費制度の利用が可能な場合があります。

まとめ

抗線維化剤オフェブで治療を行う場合、患者さんは医療費助成を受けられる可能性があります。シェーグレン症候群の患者さんは難病医療費助成制度の対象となる可能性があり、助成を受けるためには、医師がその適用範囲を正しく理解しておくことも重要です。
高額な医療費を知り、治療を諦めたり、ためらわれたりしてしまう患者さんが、各制度を利用することで負担を軽減して治療の開始や継続を行う、という選択ができるよう、本日ご紹介した内容が参考になれば幸いです。
※各自治体によって本日ご紹介した以外の制度を設けていることもあります。
詳細は各自治体にご確認ください。

【引用】

  1. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社. p202-205, 2016
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