ご監修:川口 鎮司先生(東京女子医科大学医学部 内科学講座膠原病リウマチ内科学分野 臨床教授)
![川口 鎮司先生](/jp/sites/default/files/inline-images/20210707_cost_SSc_01_thumbnail.jpg)
特発性肺線維症(IPF)の治療薬である抗線維化剤オフェブは、2019年12月に全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の適応を取得しました。2020年5月には進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の適応を取得し、全身性強皮症(SSc)や多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)を含めたさまざまな原疾患に合併するPF-ILD患者さんへの投与が可能になりました。
しかし、オフェブによる治療は高額になることもあることから、治療をためらわれる患者さんが少なからずいらっしゃる現実もあります。
オフェブによる治療の際、重症度が一定基準以上のSScやPM/DMでは、認定を受けることで難病医療費助成を受けることができます。
また、一定基準以下でも医療費が高額になる場合は、高額療養費制度を利用できる可能性もあります。
実臨床において患者さんの負担を減らすためには、これらの制度を医師が把握しておくことが重要であると考えます。
そこで本日は、これらの制度の概要と、制度適用となるSSc、PM/DMの診断方法や重症度評価などについてご紹介します。
オフェブ服用患者さんが利用できる主な医療費助成制度
本邦では、治療中の患者さんの経済的負担を減らすことを目的として、高額療養費制度や難病医療費助成制度が設けられています。これらの制度を利用することにより、医療保険給付分に加えて助成金が支給され、患者さんが支払う医療費を減らすことができます。
![オフェブ服用患者さんが利用できる主な医療費助成制度01](/jp/sites/default/files/inline-images/01_0.png)
高額療養費制度
高額療養費制度は、1ヵ月間に医療機関へ支払った自己負担額が自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分の支給を受けられる制度です。たとえば、70歳未満で標準報酬月額が32万円、1ヵ月の医療費総額が100万円の患者さんの自己負担上限額は87,430円となります。自己負担の上限額は、年齢と所得によって異なります。
![高額療養費制度](/jp/sites/default/files/inline-images/02_0.png)
難病医療費助成制度
難病医療費助成制度は厚生労働大臣が定める指定難病の患者さんで、症状が一定程度以上または高額な医療費を支払っている場合に医療費が助成される制度です。
![難病医療費助成制度03](/jp/sites/default/files/inline-images/03_0.png)
また、高額な治療を長期にわたって行う必要がある場合は、さらに負担が軽減されます。
軽症でも、高額な医療の継続が必要な患者さんは、難病医療費助成の「軽症高額」の認定対象になります。具体的には、医療費助成の申請をした月から12ヵ月前までの期間において、申請した難病の治療にかかった1ヵ月当たりの医療費総額が33,330円※を超える月が3回以上ある方が対象になります。
※医療費総額が33,330円(自己負担が3割の場合、自己負担額が10,000円)を超える場合
![難病医療費助成制度04](/jp/sites/default/files/inline-images/04_0.png)
高額療養費制度は、どの疾患であっても適用される一方、難病医療費助成制度は、指定難病の認定を受けた患者さんが対象となります。
認定には、難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要になります。臨床調査個人票は、対象の指定難病によってフォーマットが異なっており、すべて難病情報センターのホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/)からダウンロードすることができます。
こちらが、PF-ILDに関連する指定難病の疾患です。
原疾患が明確であり、かつ指定難病と診断されている場合は、原疾患の基準での申請が可能です。PF-ILDに関連する指定難病としては、特発性間質性肺炎(IIPs)、全身性強皮症、皮膚筋炎/多発性筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群など、主な疾患はこちらに記載のとおりです。
![難病医療費助成制度05](/jp/sites/default/files/inline-images/05_0.png)
ここからは、SScとPM/DMの難病医療費助成制度の申請方法に関してご紹介します。
難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~
難病情報センターホームページ:全身性強皮症
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4026
申請の際には、まず、「全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」の診断基準に基づいてSScを診断します。大基準である「手指あるいは足趾を越える皮膚硬化」を満たす場合、あるいは小基準1)の「手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化」と小基準2)~4)の1項目以上を満たす場合、SScと診断されます。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~01](/jp/sites/default/files/inline-images/06_0.png)
皮膚硬化の評価は、mRSSを用いて評価します。
mRSSでは、身体の17ヵ所の皮膚硬化を0~3の4段階でスコア化し、その合計スコアを評価します。合計スコアは51点満点で、点数が高いほど重症となります。
mRSS :modified Rodnan total skin thickness score
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~02](/jp/sites/default/files/inline-images/07_0.png)
続いて、重症度を評価します。SScでは、①皮膚、②肺、③心臓、④腎、⑤消化管のうち、最も重症度スコアの高いものが、moderate以上の患者さんが難病医療費助成の対象となります。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~03](/jp/sites/default/files/inline-images/08.png)
このうち皮膚の重症度は、mRSSを用いて確認します。
mRSS 10以上の場合にmoderate以上となります。
SScでは、皮膚以外にさまざまな臓器に病変が認められることが示されています。特に、消化管病変は39.6~68.2%、肺に関する病変、間質性肺疾患(ILD)に関しては34.7~71.1%と、高い頻度で生じたことが報告されています。消化管病変の場合は、胃食道逆流症(GERD)を発症される方が多く、その場合の重症度はmoderateとなります。また、肺の病変に関しては、胸部HRCTによる病変の広がり、努力肺活量、酸素療法の有無によって判断されます。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~04](/jp/sites/default/files/inline-images/09_0.png)
胸部HRCTでは、こちらに示す5スライスで、 ILD と関連する全ての陰影(すりガラス影、網状影、蜂窩影、囊胞影)の占めるおおよその面積比を求め、その平均を病変の広がりとします1)。
病変の広がりが20%超であればmoderate以上となります。加えて努力肺活量が70%未満であれば、酸素療法の有無によってsevereまたはvery severeとなります。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~05](/jp/sites/default/files/inline-images/10.png)
実際の臨床調査個人票では、5ページ目に診断カテゴリーを選択する欄があります。大基準を満たさない場合は小基準の項目を確認します。皮膚硬化以外にも手指先端の陥凹性瘢痕あるいは指腹の萎縮、両側性の肺基底部の線維症、全身性強皮症に特異的な抗体の検出を確認します。また、7ページ目に重症度分類について選択する欄がありますので、それぞれ該当する重症度の箇所を選択します。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~06](/jp/sites/default/files/inline-images/11_0.png)
(臨床調査個人票:P5)
![難病医療費助成制度の申請方法 ~SSc~07](/jp/sites/default/files/inline-images/12_0.png)
(臨床調査個人票:P7)
難病医療費助成制度の申請方法 ~PM/DM~
難病情報センターホームページ:皮膚筋炎/多発性筋炎
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4079
まず、こちらの診断基準に基づいてPM/DMを診断します。DMは、皮膚症状としてヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候のうち1つ以上を認め、かつ経過中にこちらの(2)~(9)の項目中4項目以上を満たす場合に診断されます。また、PMは(2)~(9)の項目中4項目以上を満たす場合に診断されます。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~PM/DM~01](/jp/sites/default/files/inline-images/13_0.png)
PM/DMでは、次の4つの基準のいずれかに該当する症例が重症とされ、医療費助成の対象となります。
1つ目は、原疾患に由来する筋力低下があることです。これは徒手筋力テスト(MMT, manual muscle strength testing)によって評価されます。体幹・四肢近位筋群のMMT平均が5段階評価で4+以下である場合、またはいずれか1つのMMTが4以下である場合に該当します。
2つ目は、原疾患に由来するCK値もしくはアルドラーゼ値の上昇があることです。
3つ目は、活動性の皮疹があることです。
4つ目は、活動性の間質性肺炎を合併していることです。ここには、抗線維化剤オフェブによる治療中のPF-ILDも含まれます。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~PM/DM~02](/jp/sites/default/files/inline-images/14.png)
実際の臨床調査個人票では、4ページ目に診断カテゴリーを選択する欄があります。また、6ページ目に重症度分類について選択する欄がありますので、それぞれ該当する箇所を選択します。
![難病医療費助成制度の申請方法 ~PM/DM~02](/jp/sites/default/files/inline-images/15.png)
(臨床調査個人票:P4)
![難病医療費助成制度の申請方法 ~PM/DM~03](/jp/sites/default/files/inline-images/16.png)
(臨床調査個人票:P6)
支給を受けるための流れ
患者さんが実際に支給を受けるためには、臨床調査個人票以外にもさまざまな書類が必要になります。患者さんは、これらの必要な書類を都道府県または指定都市の申請窓口に提出し、審査後承認されると医療受給者証が交付されます。
![支給を受けるための流れ03](/jp/sites/default/files/inline-images/17.png)
![支給を受けるための流れ04](/jp/sites/default/files/inline-images/18.png)
まとめ
指定難病となりうる主なILDは、特発性間質性肺炎、膠原病に伴うILDなどです。このうち病状の程度が一定程度以上、または軽症で医療費が高額な場合に難病医療費助成を受けられる可能性があります。また、過敏性肺炎、関節リウマチに伴う間質性肺疾患など、「指定難病」以外の疾患の患者さんも、高額療養費制度の利用が可能な場合があります。
![まとめ01](/jp/sites/default/files/inline-images/19.png)
抗線維化剤オフェブで治療を行う場合、患者さんは医療費助成を受けられる可能性があります。SScやPM/DMの患者さんは、難病医療費助成制度の対象となる可能性があり、助成を受けるためには、医師がその適用範囲を正しく理解しておくことも重要です。
治療における患者さんの負担を軽減し、治療を継続いただくために、本日ご紹介した内容をお役立ていただければ幸いです。
※各自治体によって、本日ご紹介した以外の制度を設けていることもあります。
詳細は、各自治体にご確認ください。
文献:
- 全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン. 日皮会誌 2016; 126(10): 1831-1896.