進行性線維化を伴う間質性肺疾患の自然経過 (静止画)

サイトへ公開: 2021年06月22日 (火)

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 統合呼吸器病学 教授 宮崎 泰成 先生

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)は、呼吸機能の低下、胸部HRCTでの線維化の進行、呼吸器症状やQOLの悪化を経て、死亡に至る予後不良な疾患群です。PF-ILDには、特発性肺線維症(IPF)や過敏性肺炎、自己免疫性ILDなどのさまざまな間質性肺疾患が含まれます。これらの疾患は臨床的及び病態生理学的類似性があり、共通の線維化反応が存在することが推測されます。しかし、その臨床経過について詳しい解析はなされていませんでした。
今回紹介する論文では、IPF患者とその他のPF-ILD患者における呼吸機能の低下、死亡リスクといった自然経過を評価するために、IPFを除くPF-ILD患者を対象としたINBUILD試験のプラセボ群とIPF患者を対象としたINPULSIS試験のプラセボ群を比較解析した結果が報告されています。

試験概要

対象:
INBUILD試験及びINPULSIS試験におけるプラセボ群の患者754例
(INBUILD試験:331例、INPULSIS試験:423例)

目的:

  • IPFとIPF以外のPF-ILDの臨床経過を比較する。
  • ILD臨床診断グループにおける、あるいは、HRCTで認められるUIP様線維化パターン又は他の線維化パターンにおける、疾患の進行速度の違いとの関連を評価する。
  • PF-ILD患者におけるFVCの低下と死亡との関連を評価する。

方法:
下記項目によって自然経過を評価した。
①FVCの年間減少率(mL/年) ②52週間のFVCの経時変化 ③52週時の%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超の患者の割合 ④52週時の%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が5%超の患者の割合 ⑤総死亡

解析手法:
FVCの年間減少率(mL/年)は、ベースラインFVC(mL)と患者集団(IPF vs. 非IPF)を共変量として含むランダム係数回帰モデル(ランダムな傾きと切片を有する)を用いて評価した。プラセボを早期に中止した患者からの測定を含む、最初の52週に得られたすべての測定値に基づいた。モデルはランダムに欠測していると仮定し、欠測データを考慮した。本論文では、比較対照内の「平均的な」患者の結果を提示した。
死亡までの期間の評価には、患者母集団(IPF vs. 非IPF)を共変量として含むlog-rank検定を用いた。
%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)は、連続共変量[ベースライン時の%FVC及び患者集団(IPF vs. 非IPF)]を補正したロジスティック回帰モデルで評価した。
95%CIの調整オッズ比を使用して、各患者集団内の影響を定量化した。52週時の%FVC値が得られなかった患者に関しては、%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が5%超又は10%超であるとしてノンレスポンダーとするworst case analysisを行った。
INBUILD試験及びINPULSIS試験の52週までのデータを用いて、%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超であることと死亡までの期間の関連を分析した。FVCの低下と死亡率の関連に関する評価は、%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%を超えるまでの期間を時間依存変数として含むCox比例ハザードモデルに基づいた。
INBUILD試験の全体集団における評価には、層別変数(HRCTでのUIP様線維化パターン vs. 他の線維化パターン)を含んだが、他の変数は含まなかった。

■ INBUILD試験1)及びINPULSIS試験2)における主な選択基準

INBUILD試験の選択基準

  • 18歳以上である(日本では20歳以上)
  • ILDと診断され、医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらずスクリーニング前の24ヵ月以内において次のi )~ iv)のいずれかのILDの進行性の基準を満たす患者
    i)%FVCの10%以上の減少(相対変化量)がみられる
    ii)%FVCの5%以上10%未満の減少(相対変化量)がみられ、かつ、呼吸器症状の悪化がある
    iii)%FVCの5%以上10%未満の減少(相対変化量)がみられ、かつ、胸部画像上での線維化変化の増加がみられる
    iv)呼吸器症状の悪化及び胸部画像上での線維化変化の増加がみられる
  • スクリーニング前12ヵ月以内のHRCT(中央判定)上、肺の線維化(蜂巣肺所見の有無によらず、網状影又は牽引性気管支拡張を含む)が肺全野の10%超にみられる
  • ランダム化割り付け時点で%DLco(ヘモグロビンで補正)が30%以上80%未満である
  • ランダム化割り付け時点で%FVCが45%以上である

INPULSIS試験の選択基準

  • 40歳以上である
  • ATS/ERS/JRS/ALATガイドライン(2011年)に基づき、ランダム化の5年以内に特発性肺線維症と診断されている
  • スクリーニング前12ヵ月以内にHRCTが実施されている
  • HRCT及び外科的肺生検(入手可能な場合)の診断基準に則り、放射線科専門医1名、病理専門医1名による中央判定により特発性肺線維症と確定診断されている
  • ランダム化前の%FVCが50%以上である
  • ランダム化前の%DLco(ヘモグロビンで補正)が30%以上80%未満である

■ INBUILD試験1)及びINPULSIS試験2)の試験デザイン

INBUILD試験の試験デザイン

INBUILD試験の試験デザイン

INPULSIS試験の試験デザイン

INPULSIS試験の試験デザイン

Richeldi L. et al.: N Engl J Med 2014; 370(22): 2071-2082. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

1)Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727.
本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
2)Richeldi L. et al.: N Engl J Med 2014; 370(22): 2071-2082.
本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

患者背景

■ INBUILD試験及びINPULSIS試験におけるプラセボ群の患者背景の比較

INBUILD試験及びINPULSIS試験における患者背景は表1のとおりでした。ベースライン時の%FVC平均値は、INBUILD試験のプラセボ群は69.3%、INPULSIS試験のプラセボ群は79.3%でした。

表1 ベースライン時の患者背景

表1 ベースライン時の患者背景

Brown KK. et al.: Eur Respir J 2020; 55(6): 2000085. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

結果

■ INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群におけるFVCの年間減少率の比較

プラセボ群における投与52週までのFVCの年間減少率※1は、INBUILD試験の全体集団では-192.9mL/年、INPULSIS試験では-221.0mL/年と、差は認められませんでした(名目上のp値=0.19)(図1)
INBUILD試験の部分集団のうち、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団(部分集団解析)のFVCの年間減少率についても、INPULSIS試験と差は認められませんでした(ー214.6mL/年 vs. ー223.2mL/年、名目上のp値=0.74)。一方、INBUILD試験の部分集団のうち、HRCTで他の線維化パターンがみられる集団(部分集団解析)のFVCの年間減少率は、INPULSIS試験より小さいことがわかりました(ー160.1mL/年 vs. ー224.1mL/年、名目上のp値=0.032)(図1)
※1 ランダム係数回帰モデルにより推定

図1 INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における投与52週までのFVCの年間減少率

図1 INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における投与52週までのFVCの年間減少率

Brown KK. et al.: Eur Respir J 2020; 55(6): 2000085. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

プラセボ群における投与52週までのFVCのベースラインからの変化量は、INBUILD試験の各線維化パターンの患者集団及びINPULSIS試験において、図2のとおりでした。いずれの患者集団においても、FVCの経時的な低下が同程度に認められました。

図2 INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における投与52週までのFVCのベースラインからの変化量

図2 INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における投与52週までのFVCのベースラインからの変化量

Brown KK. et al.: Eur Respir J 2020; 55(6): 2000085. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

■ INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超の患者における死亡リスク

表2に示すように、INBUILD試験の全体集団、及びHRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団(部分集団解析)において、52週間の%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超であることと死亡に有意な関連が認められました[それぞれHR3.64(95%CI:1.29, 10.28)、HR3.35(95%CI:1.16, 9.64)]。また、INPULSIS試験においても同様の関連が認められました[HR3.95(95%CI:1.87, 8.33)]。本解析において、INBUILD試験の部分集団のうち、HRCTで他の線維化パターンがみられる集団(部分集団解析)においては、死亡が1例であったため評価ができませんでした。
以上より、IPF患者と同様に、PF-ILD患者においても%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超である患者の死亡リスクは有意に高いことがわかりました。

表2 INBUILD試験及びINPULSIS試験のプラセボ群における52週間の%FVCのベースラインからの減少率(相対変化量)が10%超であることと死亡との関連

Brown KK. et al.: Eur Respir J 2020; 55(6): 2000085. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

論文中には安全性に関する解析などの記載はありませんでした。

まとめ

IPF患者を除くPF-ILD患者の自然経過において、呼吸機能の低下や死亡といった予後は無治療のIPF患者と同様に不良であり、HRCTでの線維化パターン別の部分集団解析においても同様の結果が得られました。

■ 監修医のコメント

IPFは特発性間質性肺炎の中で最も予後不良であることが知られていますが、今回、IPF以外のPF-ILD患者においても、IPF患者と同様に呼吸機能の低下や生命予後不良が認められることがわかりました。ILD患者において、呼吸機能の低下、呼吸器症状の悪化、胸部HRCT所見における線維化変化の増加、といった疾患の進行が認められる場合は、抗線維化薬などによる治療介入を検討することが重要であると考えます。

文献:

Brown KK. et al.: Eur Respir J 2020; 55(6): 2000085. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

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