PM/DM診療とPF-ILDへのオフェブの有効性・安全性(静止画)

サイトへ公開: 2021年04月01日 (木)

ご監修:藤本 学 先生(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座 皮膚科学教室 教授)

ご監修:藤本 学 先生(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座 皮膚科学教室 教授)

本コンテンツは、多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)の診療と進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)への抗線維化薬オフェブの有効性・安全性について大阪大学医学系研究科 情報統合医学講座 皮膚科学教室 教授 藤本 学先生のご監修にて作成されました。ぜひ、ご覧ください。

PM/DMの特徴と診断

PM/DMは、骨格筋と皮膚を対象とする自己免疫疾患で、特異的な筋症状がみられる場合や、ヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候などの特徴的な皮疹を呈し、その他の症状として発熱、関節炎、間質性肺疾患、悪性腫瘍などの全身症状を伴うことがあります。筋症状のみの場合は多発性筋炎 (PM)、皮膚症状も伴う場合は皮膚筋炎(DM)と分類されます。

PM/DMの特徴と診断01

2020年暫定版の多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドラインで は、PM/DMの診断基準としてご覧の9項目をあげています。このうち2~9の項目中4項目以上を満たすものをPM、ヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹、ゴットロン徴候の1項目以上を満たし、かつ経過中に2~9の項目中4項目以上を満たすものをDMとして診断されます。註の内容も合わせてご参照ください。

PM/DMの特徴と診断02

筋炎特異的自己抗体の臨床的意義

診断基準のひとつである筋炎特異的自己抗体は、診断のみならず、合併症や病型分類、経過・予後・治療効果の予測にも有用であると考えられています。

PM/DMにおいて特徴的に発現がみられる抗体として、抗MDA5抗体、抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗TIF1-γ抗体などがあげられます。これらの特異的自己抗体は、合併症にも関連しています。特に、抗MDA5 抗体・抗ARS抗体では間質性肺疾患(ILD)が、抗TIF1-γ抗体では悪性腫瘍が高率に合併し、生命予後の大きな原因となります。

筋炎特異的自己抗体の臨床的意義01

また、ILDでは5~6割の症例で労作時の息切れや乾性咳嗽といった呼吸器症状を呈し1)、病初期や病変部が限局している場合は無症候性のこともあるため、呼吸機能検査や胸部CTによりILDの評価を行うことが必要といわれています2)

抗MDA5抗体陽性患者さんの特徴は、予後不良な急速進行型ILDを高率に合併しており、筋症状に乏しい無筋症性皮膚筋炎(clinically amyopathic dermatomyositis:CADM)の病型をとる可能性が高いです。皮膚所見からみると、紫斑や潰瘍、鉄棒豆様皮疹などが特徴的です。

抗MDA5抗体陽性が判明した場合は三者併用療法が考慮されますが、予後不良因子を複数認める患者さんは治療抵抗性を示す可能性が高まります。
また、頻度は多くありませんが、抗MDA5抗体陽性例でも慢性進行型を呈することがあり、プレドニゾロン(PSL)と免疫抑制薬による治療を行います。

筋炎特異的自己抗体の臨床的意義02

抗ARS 抗体陽性患者さんの特徴は、筋炎、発熱、関節炎、レイノー症候群、機械工の手などの抗ARS抗体症候群を呈することです。また、高率でILDを併発することが報告されており3)、おおむねその発症様式は慢性進行型であることが知られています。

筋炎特異的自己抗体の臨床的意義03

PM/DM-ILDの予後

国内44施設が参加したレトロスペクティブコホート研究によると4)、PM/DM-ILD患者さん497例において、生存率は3年で80%でした。経過中に死亡した93例のうち、76例の死因がILDによる呼吸不全でした。

また、PM/DM-ILDでは、ILDの発症様式によって生命予後が異なることが報告されています。国内単施設レトロスペクティブコホート研究において5年生存率を検討したところ、急性/亜急性ILDは慢性ILDと比較して有意に予後不良でした。

PM/DM-ILDの予後01

 

PM/DM-ILDの予後02

PM/DM-ILDの治療

このように、PM/DM-ILDは発症様式によって臨床経過が異なるため、治療においては、発症様式ごとに目標を定め、適切な薬剤選択を行う必要があるといわれております。

膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020では、PM/DM-ILDが関連する治療目標は、急性の場合「寛解(救命)」、亜急性の場合「改善、進行防止、再燃防止」、慢性の場合「状態の維持、急性増悪の予防」となっています。

PM/DM-ILDの治療01

PM/DMの治療薬としては、症状に応じてステロイドや免疫抑制薬の外用薬、難治性および重症の場合は、経口ステロイドや免疫抑制薬の全身投与が用いられます。

筋症状もILDもステロイドによる治療によく反応しますが、減量とともに再燃を繰り返し、慢性の経過をたどることが問題となっております5)

このように、ILDの原因が炎症性の場合はステロイド、免疫抑制薬などが使用されますが、慢性に線維化が進展する患者さんにおいては、今まで使用できる薬剤がありませんでした。

PM/DM-ILDの治療02

 

PM/DM-ILDの治療02

INBUILD試験

試験概要:
抗線維化薬であるオフェブは、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD) 患者さんを対象にしたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制に対する有効性が検討されています。

INBUILD試験01

本試験では、日本人108例を含む663例の患者さんをオフェブ群とプラセボ群に1:1で割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)、副次評価項目は投与52週時におけるL-PF symptomsドメインスコアなどでした

INBUILD試験02

組み入れ基準のILDの進行性の基準には、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化及び胸部画像上での線維化変化の増加が用いられました。
全体集団のうち、臨床的に重要とされる%FVCの10%以上の減少は、オフェブ群48.2%及びプラセボ群52.0%であり、ほぼ半数の患者さんで該当しました。
また、%FVCの5%以上10%未満の減少がみられ、かつ呼吸器症状の悪化もしくは胸部画像上での線維化変化の増加がみられた患者さんは、オフェブ群33.1%及びプラセボ群29.3%でした。
%FVCの減少が5%未満で呼吸機能の大きな低下がみられず、呼吸器症状の悪化及び胸部画像上での線維化変化の増加がみられるに該当した患者さんは、オフェブ群18.7%及びプラセボ群18.4%でした。

INBUILD試験03

有効性:
主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群はプラセボ群に比べて57%の相対的減少を認めまし た。オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが検証されました。
また、52週までのFVCの変化量は、経過とともにご覧のように推移しました。

INBUILD試験04

参考情報:
副次評価項目であるL-PF symptoms呼吸困難ドメインスコアのベースラインからの変化量は、オフェブ群4.3及びプラセボ群7.8であり、群間差は-3.5でした。また、咳嗽ドメインスコアのベースラインからの変化量は、オフェブ群-1.8及びプラセボ群4.3であり、群間差は-6.1でした。

INBUILD試験05

安全性:
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。また、オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。さらに、オフェブ群において投与中止に至った有害事象は、下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全5例、呼吸不全4例などでした。

INBUILD試験06

続いて、有害事象として認められた肝酵素上昇、下痢、悪心、嘔吐の重症度を示します。オフェブ群において、肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。下痢は、Grade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。

INBUILD試験07

PM/DM-ILDの治療においては、発症様式に基づき目標設定と薬剤選択を行う必要があるといわれておりますが、炎症性のILDの場合はステロイドや免疫抑制薬、線維化性のILDの場合は抗線維化薬の使用が検討されます。
オフェブは、PF-ILD患者さんを対象にしたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制効果が示されました。
PM/DM-ILD患者さんで慢性に線維化が進行する場合は、今後オフェブが新たな治療選択肢のひとつとなると考えられています。
今回ご紹介した内容を、診療にお役立ていただけると幸いです。

文献:

1) Fujisawa T. et al.: PLoS One. 2014; 9(6): e98824.
2) Hozumi H. et al.: Respir Med. 2016 Dec; 121: 91-99.
3) 難治性疾患政策研究事業自己免疫疾患に関する調査研究班多発性筋炎皮膚筋炎分科会編. 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン. 2020.
4) Sato S. et al.: Rheumatology (Oxford) 2018; 57(7): 1212-1221.
5) Yoshifuji H. et al.: Autoimmunity. 2006 May; 39(3): 233-41.

ページトップ