進行性線維化を伴う間質性肺疾患の病態形成メカニズムとオフェブの作用機序

サイトへ公開: 2021年07月30日 (金)

ご監修:桑名 正隆 先生(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授)

ご監修:桑名 正隆 先生(日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授)

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)とは

さまざまな間質性肺疾患の中で、臨床経過のある時点において、進行性の線維化が見られる疾患群を、進行性線維化を伴う間質性肺疾患:PF-ILDといいます。

その特徴は、HRCTなどの画像評価で進行性の肺の線維化が見られること、呼吸機能の低下が見られること、呼吸器症状の悪化が生じることの3つです。

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)とは01

PF-ILDの治療目標

理想的なPF-ILDの治療目標は、低下した呼吸機能が治療介入により改善することです。

しかし、PF-ILDにおいては、線維化や血管障害による組織構造の破壊は不可逆的であり、一度低下した機能の正常化は困難とされています。
そのため、現実的には、治療介入によって呼吸機能の低下が自然経過に比べて抑制される「進行遅延」、または呼吸機能が低下せずにとどまる「進行阻止」が治療目標となります。

PF-ILDの治療目標01

線維化の原因と自己継続的線維化

PF-ILDの病態形成は、初期段階と後期段階にわけられると考えられています。

線維化の原因と自己継続的線維化01

APC:抗原提示細胞
NSIP:非特異性間質性肺炎

Wijsenbeek M. and Cottin V.: N Engl J Med 2020;383(10): 958-968. より一部改変


初期(Early Phase)
さまざまな要因によって、肺胞上皮細胞や血管内⽪細胞の障害、⾃⼰免疫やリンパ球の活性化による過剰な免疫応答、慢性⾁芽腫性炎症が⽣じます。

<因子>
持続的な抗原の侵入、環境リスク因子(喫煙、職業性曝露、⼤気汚染、マイクロアスピレーション、ウイルス感染など)、加齢、遺伝的背景およびエピジェネティック修飾など

肺胞や、血管内⽪の傷害又は免疫活性化および炎症が繰り返し起こった後、後期にフェーズ移⾏すると考えられています。

後期(Late Phase)
線維化促進性サイトカインがリンパ球から持続的に産生されるようになります。線維化を促進するサイトカインなどの液性因子によって線維芽細胞は活性化されて増殖し、筋線維芽細胞へと分化します。
筋線維芽細胞は、線維芽細胞だけでなく、上皮細胞、骨髄由来のfibrocyte、血管周細胞、血管内皮細胞など多様な細胞からの分化転換も供給源となることが報告されています。

筋線維芽細胞はその後、間質へ遊走し、特に線維芽細胞巣において、細胞外マトリックスを過剰産⽣します。過剰な細胞外マトリックスは、組織リモデリングを促進し、肺組織の硬化や低酸素状態を引き起こします。これにより線維化促進性サイトカインの産⽣経路がより活性化され、筋線維芽細胞はさらに増加します。

後期フェーズでは、このような線維化促進環境が形成され、⾃⼰継続的な線維化のループを引き起こしているとされています。

PF-ILDの治療のポイントとオフェブの作用

PF-ILDの治療では、リンパ球や線維芽細胞など病態形成に関わる複数の細胞の活性化や増殖を抑制することが大切です。

線維芽細胞の活性化や増殖には、血小板由来成長因子受容体:PDGFR、線維芽細胞増殖因子受容体:FGFR、血管内皮細胞増殖因子受容体:VEGFRといった受容体を介したシグナル伝達が関与しています。

これらのシグナル伝達経路の活性化に必須であるキナーゼ活性を阻害し、細胞の増殖や活性化を抑制するのが、抗線維化薬であるオフェブです。

オフェブは、線維化の複数のプロセスを抑制することで、自己継続的線維化のループを断ち、PF-ILDにおける進行性の線維化を食い止めることが期待されています。
オフェブの代表的な作用を3つご紹介します。

PF-ILDの治療のポイントとオフェブの作用01

作用1:線維芽細胞の増殖と遊走の抑制
PDGFR 、FGFRおよびVEGFRを介したシグナル伝達経路は、線維芽細胞の局所への遊走や増殖の促進、線維芽細胞の活性化に関与しています。

オフェブは、これらの経路を遮断することで、線維芽細胞の増殖と遊走を抑制します。これにより、筋線維芽細胞の供給源である線維芽細胞が、病変部で増加することを抑制できると考えられます。

作用2:線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換を抑制
線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換を誘導する代表的な因子として、TGF-βが知られています。

オフェブは、TGF-β存在下でも、線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換を抑制することが示されています。
なお、オフェブはTGF-βによって引き起こされるSMAD2のリン酸化を抑制しないことから、線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換に対するオフェブの阻害作用はTGF-βシグナルに依存しないと考えられます1)
このことからオフェブは、線維化促進環境下においても、筋線維芽細胞の増加を抑制すると考えられます。

TGF-β:トランスフォーミング増殖因子β
SMAD2:マザーズアゲンストデカペンタプレジックホモログ2

作用3:免疫細胞からの線維化促進性サイトカイン放出の抑制
T細胞やマクロファージなど免疫細胞から放出される線維化促進性因子は、線維芽細胞を活性化し、筋線維芽細胞への形質転換を促すことで、線維化反応を促進します。

オフェブは、免疫細胞に発現するCSF-1RやSrcファミリーなどチロシンキナーゼを阻害する活性も有することから、免疫細胞からの線維化促進性因子の放出を抑制することで、線維化反応を抑制する可能性もあります。

CSF-1R:コロニー刺激因子1受容体


上記3つの作用により、オフェブは、PF-ILDの病態における線維化の進行を抑制できると考えられています。
さらに、筋線維芽細胞の数を減少させることで、細胞外マトリックスの産生も抑制されることが期待されます。

INBUILD試験

試験概要
オフェブは、進行性の線維化を伴う間質性肺疾患患者を対象としたINBUILD試験において、呼吸機能低下の抑制が認められています。

本試験では、663例の対象患者をオフェブ群とプラセボ群に1:1の比率でランダムに割り付けました。
主要評価項目は投与52週までのFVCの調整年間減少率(mL/年)でした。

INBUILD試験01

ILDの進行性の基準には、IPF以外のILDと診断され、胸部HRCTでの線維化の広がりが全肺野の10%以上、かつ医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらずスクリーニング前の24ヵ月以内に、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化および胸部画像上での線維化変化の増加を複数満たすことが基準として用いられました。

INBUILD試験02

有効性

全体集団におけるFVCの調整年間減少率は、オフェブ群80.8mL/年およびプラセボ群187.8mL/年であり、群間差は107.0mL/年、プラセボ群に対するオフェブ群の相対減少率は、57%でした。オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが検証されました。

また、52週までのFVCの変化量は、グラフのとおりでした。

試験結果01

安全性

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。また、オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。さらに、オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした。
全期間におけるいずれかの治療群で発現割合5%以上の有害事象は記載のとおりです。

安全性01

 

安全性02

まとめ

PF-ILDの病態では、自己継続的な線維化ループが形成され、組織の構造改変が進行すると考えられています。

PF-ILDの治療では、「進行阻止」「進行遅延」が目標となります。定期的なモニタリングを行い、早期にPF-ILDを見つけ、治療介入を進めることが重要です。

オフェブは、主にPDGFR、FGFRおよびVEGFRを介したシグナル伝達を阻害することで、自己継続的な線維化ループを断ち、PF-ILDにおいて進行する線維化を食い止めることが期待されます。

文献

  1. 承認時評価資料:薬効薬理試験(線維芽細胞の形質転換に対する作用) (2015年7月3日承認,CTD 2.6.2.2)[0004039065]
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