かかりつけ医のためのILD診断と病診連携のポイント (静止画)

サイトへ公開: 2021年04月27日 (火)

ご監修・ご出演:杉野 圭史 先生(一般財団法人慈山会 医学研究所付属 坪井病院 副院長 兼 呼吸器科部長兼間質性肺炎・肺線維症センター長)  

肺線維症センター長 杉野圭史先生

ILDsに含まれる疾患群とPF-ILD

さまざまな間質性肺疾患のうち、臨床経過のある時点において進行性の線維化がみられるものを「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」(PF-ILD)と呼びます。
特発性肺線維症(IPF)は進行性の線維化を特徴とするPF-ILDの代表的な疾患であり、IPF以外の特発性間質性肺炎(IIPs)や過敏性肺炎、自己免疫性ILDなどにもPF-ILDが存在することが知られています。

ILDsに含まれる疾患群とPF-ILD

PF-ILDの臨床経過

PF-ILDの疾患進行は多様な臨床経過を示し慢性的に徐々に進行する場合などはより早期から治療介入を行うことでその後の進行を抑制できる可能性があります。
したがって、PF-ILD 患者さんの予後改善のためには、治療導入を検討することが必要です。

PF-ILDの臨床経過

IPFの診断の遅れと予後

もし診断が遅れた場合、患者さんはどのような経過をたどるのでしょうか。実際、代表的なPF-ILDであるIPF患者さんを対象としたアメリカのコホート研究では、診断の遅れが予後不良につながる可能性が示唆されています。
本研究において、呼吸困難の発症から三次医療センター初診までの期間の中央値は2.2年であり、IPFの診断までの期間が2倍に遅れるごとの死亡のハザード比は1.3倍でした1)。また、診断までに4年を超えた患者さんでは、1年未満に診断された患者さんと比べて死亡率が3.4倍高かったと報告されています1)

IPFの診断の遅れと予後

かかりつけ医のILD診療ポイント

ILDの診断には、適切な問診に加えて、聴診所見、身体所見、画像検査、血液検査の4つの検査が必要です。

聴診所見
両側背下部で捻髪音(fine crackles)を聴取することが重要です。
身体所見
ばち指をさまざまな頻度で認めることがあります。
画像検査(胸部X線写真)
両側下肺野での網状影や輪状影、すりガラス影や浸潤影などが見られます。過去の写真との比較読影により進行のスピードを推測することができます。
血液検査
KL-6やSP-Dといった肺線維化マーカーの測定が考慮されますが、高値とならないケースもあることに留意が必要です。
また、膠原病関連の疾患が疑われる場合は膠原病疾患自己抗体の検査も有用です。

こうした検査や所見で気になるものがあった場合は、症状の有無にかかわらずILDを疑うことが重要です。

かかりつけ医のILD診療ポイント

ILD診療における聴診のポイント

以上の検査や所見のうち、ILD診療で特にポイントとなるのは聴診による捻髪音(fine crackles)になります。
特に、咳嗽や労作時呼吸困難を呈する場合に、両側背下部における捻髪音は間質性肺炎を疑う根拠となります。また、無症状例でも慎重な聴診によって捻髪音を聴取することが可能です。
捻髪音は吸気終末に聴取される細かい断続性ラ音で、軽症例の場合は深吸気が必要となります。部位的には生理的無気肺を生じやすい場所であるため、深呼吸を繰り返して再現性のある捻髪音を確認します。
こちらが、実際の捻髪音の例です。

ILD診療における聴診のポイント

PF-ILDでは早期診断と早期治療が重要であり、捻髪音の所見などからILDが疑われる場合は、症状の有無にかかわらず専門医への紹介をご検討ください。

かかりつけ医の先生方へメッセージ

ご紹介いただいたILD疑いの患者さんは、呼吸機能検査、HRCTなどによる精査や、必要に応じて肺生検などを行い、集学的チームによる多職種間の議論で診断を確定します。
ILD患者さんの疾患管理では、その後も専門医療機関で薬物療法や呼吸リハビリテーション、定期的な進行の評価を行うとともに、安定期ではかかりつけ医で併存疾患や日常生活の管理を行うなど、専門医とかかりつけ医の相互の連携が重要になります。
かかりつけ医の先生方には、ILDを疑ったときや定期評価時、および呼吸困難の増悪時や気胸合併などの際、ぜひ専門医へご紹介いただきますようお願いいたします。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験

概要
抗線維化薬であるオフェブは、PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験において、呼吸機能低下抑制に対する有効性が検証されています。 
本試験では、組み入れ基準を満たすILD患者さん663例をオフェブ群とプラセボ群に1:1で無作為に割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験

有効性
主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制が示されました。また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、経過とともにグラフのように推移しました。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験02

抗線維化薬

安全性
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験03

オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は、下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験04

続いて、投与52週までの下痢、悪心、嘔吐、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、CTCAE(有害事象共通用語基準)を用いた評価ではGrade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。悪心は、軽度が80.2%、中等度が19.8%、嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした。

PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験05

まとめ

ILDの診療では、捻髪音の聴診所見などからILDの可能性を見逃がさず、症状の有無にかかわらず、ILDが疑われる患者さんを専門医へご紹介いただくことで早期に適切な診断・治療に結び付けることが重要です。
抗線維化薬オフェブは、PF-ILD患者さんを対象としたINBUILD試験で呼吸機能低下の抑制が認められており、進行性線維化を伴うILDの治療選択肢として期待できると考えられます。 
本日ご紹介した内容が、先生方の診療にお役に立てていただければ幸いです。

文献

  1. Lamas DJ et al.: Am J Respir Crit Care Med. 2011; 184(7): 842-847.
ページトップ