IIPs申請基準改訂のポイントと日常診療における留意点(静止画)

サイトへ公開: 2024年03月28日 (木)

ご監修:近藤 康博 先生(公立陶生病院 副院長 呼吸器・アレルギー疾患内科)

特発性間質性肺炎(IIPs)は、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に定められる「指定難病」※1のひとつです。「重症度分類等」に照らして病状が一定程度以上のIIPs患者さんは、指定難病の医療費助成の対象※2となります2)。    
このたび、IIPsに関する「診断基準」及び「重症度分類」が改訂され、令和6年4月より施行されました。    
今回は、IIPs申請基準改訂のポイントと日常診療における留意点について紹介します。

※1 指定難病1):    
難病のうち、以下の要件の全てを満たすものを、患者の置かれている状況からみて良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、 厚生科学審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定    
・患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%前後)に達しないこと    
・客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること   
※2 ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となります(軽症高額)2)

IIPsの診断基準及び重症度分類の改訂内容

最初に、今回改訂されたIIPsの診断基準と重症度分類についてご紹介します。

診断基準

指定難病としてのIIPsの診断基準に関しては、診断のカテゴリーとしてDefinite(組織診断群)とProbable(臨床診断群)が設定されました(図1)。臨床診断群が設定されたことで、外科的肺生検による組織所見がない場合でも、①主要症状及び理学的所見の基準、②血清学的検査と③呼吸機能に関する基準のいずれか、④胸部高分解能CT(HRCT)所見のすべてを満たせばIIPsの診断ができるようになりました。

図1

① 主要症状及び理学的所見の基準    
主要症状及び理学的所見の基準は、「捻髪音(fine crackles)」「乾性咳嗽」「労作時呼吸困難」「ばち指」のうち、2項目以上を満たすことです。従来基準で必須とされていた捻髪音は、一部の症例では聴取されないことがわかったため、今回の改訂により必須ではなくなりました。

② 血清学的検査の基準    
血清学的検査の基準は、KL-6上昇、SP-D上昇、SP-A上昇の1項目以上を満たすことです。従来基準に含まれていたLDHは非特異的であるため削除されました。SP-Aについて、保険適用で測定できないため削除してもよいのでは、という意見もありましたが、残すことになりました。

③ 呼吸機能に関する基準    
呼吸機能に関する基準は、拘束性障害、拡散障害、低酸素血症の1項目以上を満たすことです。従来基準では軽症例が項目を満たさないという意見があったため、従来基準から満たすべき項目数が1つ削減となりました。

④ 胸部HRCT所見の基準    
胸部HRCT所見の基準は、網状影、すりガラス影、浸潤影(コンソリデーション)1項目以上を両側性に認めることです。診断ではHRCTが有用であるというコンセンサスが得られたため、 従来基準の胸部X線画像所見から胸部HRCT所見に変更となりました。

臨床診断群については、さらに特発性肺線維症(IPF)の臨床診断基準及び特発性胸膜肺実質線維弾性症(idiopathic PPFE/iPPFE)の臨床診断基準を用いて診断を行い、どちらの診断基準も満たさない場合は分類不能のIIPsと診断します(図2)。

図2

重症度分類

図3にお示しのとおり、すべてのIIPsにおいて、安静時PaO2※3では重症度Ⅰ度と判定される場合でも、6分間歩行時最低SpO2※4が90%未満の場合はⅢ度になることが新たに示されました。なお、指定難病の医療費助成の対象となる重症度分類は、従来と同様にⅢ度以上です※2

※2 ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となります(軽症高額)2)    
※3 PaO2:動脈血酸素分圧    
※4 SpO2:経皮酸素飽和度

図3

IIPsの診断基準及び重症度分類から考えるIIPsの日常診療における留意点

ここからは、IIPsの診断基準及び重症度分類に関連して、IIPsの日常診療をどのように考えていけばよいのか、留意点をふたつご紹介します。

ひとつめの留意点は、外科的肺生検が難しい場合に臨床診断群の基準を用いてIIPsの診断を行うことができる点です。    
臨床診断群では、IPFとIPF以外のIIPsとしてiPPFE及び分類不能のIIPsの診断を行うことができます。

IPFの場合    
先ほどご紹介した①IIPsの「臨床診断群」の基準を満たすことと、②胸部HRCT所見として「1. 肺底部・胸膜下優位の陰影分布」「2. 牽引性気管支・細気管支拡張を伴う網状影」「3. 蜂巣肺」の所見を認めることが臨床診断基準の主要項目となっています。主要項目の「①」と「②の1と3」のすべてを満たすものはIPF確実、主要項目の「①」と「②の1と2」のすべてを満たすものはIPF疑いと診断することができます。

iPPFEの場合    
①IIPsの「臨床診断群」の基準を満たすこと、②胸部HRCT所見として「1. 両側上葉優位の胸膜直下の浸潤影(コンソリデーション)」「2. 両側肺門の上方偏位、あるいは上葉の体積減少」を認めること、③画像上、両側上肺病変の経時的な増悪が確認できることの3つが臨床診断基準の主要項目となっています。また、鑑別診断として「造血幹細胞移植、肺移植、膠原病、薬剤などによる2次性PPFEや、画像的に類似した所見を呈する肺尖部胸膜肥厚(apical cap)、抗酸菌や真菌などの感染症を除外する」ことが示されています。なお、参考所見として、「理学所見として扁平胸郭を認める」ことと、「呼吸機能検査上、残気率(RV/TLC)の上昇を認める」ことが示されています。鑑別診断を除外したうえで、主要項目の「①」と「②」と「③」のすべてを満たすものをiPPFE確実、主要項目の「①」と「②」を満たすものをiPPFE疑いと診断します。

以上のIPFの臨床診断基準とiPPFEの臨床診断基準のいずれにも該当しない場合は、分類不能のIIPsと診断します(図4)。

図4

IIPs患者さんの中には、年齢が70歳を超えている、極端な肥満である、心疾患の合併や高度な呼吸障害がみられるといったように、外科的肺生検の実施に注意が必要な患者さんがいます(図5)。このような外科的肺生検の実施が難しい患者さんでも、臨床診断群の基準に沿ってIPF、iPPFE、分類不能のIIPsと診断されるとともに重症度分類の基準が満たされれば、指定難病の医療費助成を受けながら必要な治療を受けることができます※2

※2 ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となります(軽症高額)2)

図5

ふたつめの留意点は、6分間歩行テストを実施し、デサチュレーションの有無を確認することの重要性が高まった点です。 
重症度分類における改訂部分は、安静時PaO2では重症度Ⅰ度と判定されるIIPs患者さんでも、6分間歩行時最低SpO2が90%未満の場合はⅢ度となり、指定難病の医療費助成の申請をすることができます※2。 
安静時PaO2のみによる判定で重症度Ⅰ度でも6分間歩行テスト時にデサチュレーションが認められると予後不良になることは、日本人IPF患者さん103例を対象とした研究で示されています。図6に示すように、安静時PaO2のみによる判定で重症度Ⅰ度でも6分間歩行テスト時にデサチュレーションが認められたIPF患者さんは、103例中53例(51.5%)であり、生存期間中央値は50.5ヵ月とデサチュレーションが認められない患者さんの生存期間中央値99.3ヵ月と比べて予後不良であったことが報告されています。 
この結果から、IPF患者さんに対しては、安静時PaO2のみによる判定では重症度Ⅰ度であっても6分間歩行テストによってデサチュレーションを確認し、予後不良が予測される重症度Ⅲ度と判定された場合は、早期に治療介入を行う必要があることがおわかりいただけるかと思います。

※2 ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となります(軽症高額)2)

図6

では、IPF以外のIIPs患者さんにおいて、安静時PaO2及び6分間歩行時最低SpO2の結果から重症度Ⅲ度以上と判定した場合、どのようなフォローが必要でしょうか。    
図7は、フランスで行われた進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)患者さん14,413例を対象とする疫学研究の患者背景です。対象となったPF-ILD患者さんの中には、IIPs患者さんが3,113例(21.6%)含まれていました。また、本研究の対象となったPF-ILD患者さんの中には、糖質コルチコイドによる治療または免疫抑制療法を受けている患者さんが含まれていました。

図7

同研究において、進行性線維化を伴うIIPs患者さんの生存期間中央値は3.7年であったことが報告されています(図8)。    
以上の結果から、進行性線維化を伴うIIPs患者さんの中には、治療介入を行っても疾患が進行し、予後不良となる患者さんがいることがわかります。

図8

線維化性を主体とするIIPsの場合、抗線維化薬が治療選択肢のひとつとなります。なお、細胞性/炎症性を主体とするIIPsの場合は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が治療選択肢となります(図9)。このように、IIPsはその病態が細胞性/炎症性と線維化性のどちらを主体とするかによって治療が異なりますので、早い段階でIIPsの病態を見極め、病態に見合った適切な治療介入を行うようにしてください。

図9

まとめ

今回は、IIPs申請基準改訂の日常診療における活用ポイントについて紹介しました。    
IIPsに関する診断基準及び重症度分類が改訂されたことにより、外科的肺生検による組織所見がない場合でも、臨床診断群としてIIPsの診断ができるようになりました。さらに、安静時PaO2では重症度Ⅰ度と判定されても、6分間歩行時SpO2が90%未満であれば重症度Ⅲ度として指定難病の医療費助成の対象となることが新たに示されました※2。    
日常診療においてIIPsが疑われる患者さんを診療される際には、IIPsの臨床診断及び6分間歩行テストによる重症度の評価を行い、患者さんが指定難病の医療費助成の対象になるか確認してください。    
IIPsと診断された患者さんについては、IIPsの病態を見極め、病態に見合った適切な治療介入が必要となります。進行性の肺線維化が認められるIIPs患者さんについては、早期に抗線維化薬による治療介入を行うことが選択肢のひとつとなります。指定難病の医療費助成も活用し、患者さんの病態に見合った適切な治療介入を行ってください。

今回ご紹介した内容を、治療が必要なIIPs患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

※2 ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となります(軽症高額)2)

【参考文献】

  1. 厚生労働省. 指定難病の要件について
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000184562.pdf、2023年11月22日アクセス)
  2. 難病情報センター 指定難病患者への医療費助成制度のご案内 
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460、2023年11月30日アクセス)
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