進行性線維化を伴うCTD-ILD診療における急性増悪予防の重要性(静止画)

サイトへ公開: 2024年06月27日 (木)

ご監修:庄田 宏文先生(東京医科大学 リウマチ・膠原病内科学分野 教授)

今回は、進行性線維化を伴うCTD-ILD※1診療における急性増悪予防の重要性についてご紹介します。  
※1 CTD-ILD:膠原病に伴う間質性肺疾患

間質性肺疾患(ILD)の急性増悪が患者さんの予後に与える影響

ILDは患者さんの予後に影響を及ぼす疾患です。  
厚生労働省の2022年人口動態統計では、ILDで亡くなった男性は14,815人で、日本人男性の死因の第9位でした(図1)。

図1

ILDはさまざまな原因から発症することが分かっています。  
ILDの中でも、関節リウマチなどの膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)は、「慢性線維化性ILDの進行性フェノタイプ」を伴うことが問題になることが多いとされています(図2)。

図2

CTD-ILDを含む進行性線維化を伴うILD(PF-ILD)患者さんの予後は、ILDの進行だけでなく、ILDの急性増悪の影響も受けることが示されています。  
図3は、CTD-ILDを含む線維化を伴う間質性肺疾患(FILD)患者さん1,019例のうち、死亡した350例について死亡原因別の割合を調べた研究の結果です。ご覧のとおり、慢性呼吸不全を死亡原因とする患者さんの割合が46%と最も多く、次いで、急性増悪を死亡原因とする患者さんの割合が26%でした。  
以上の結果から、CTD-ILDを含むPF-ILDの診療においては、呼吸機能の低下を防ぐことに加え、ILDの急性増悪を防ぐことが、患者さんの予後改善において重要であると考えられます。

図3

急性増悪に注意が必要なCTD‐ILDとリスク因子

それでは、どのようなCTD-ILD患者さんでILDの急性増悪の発現に注意が必要なのでしょうか。

ILDの急性増悪の発現はさまざまなCTD-ILDで報告されていますが1,2)、中でも関節リウマチに伴うILD(RA-ILD)は急性増悪のリスクが高いとされています2,3)。  
RA-ILDは関節リウマチの併存疾患で、その発現頻度は報告によって1~58%と幅はあるものの4)、急性増悪については2.8%/年の頻度で発生するとされています5)。特に高分解能CT(HRCT)像がUIP※2パターンであるRA-ILD患者さんの5年生存率は70%(95% CI:44%-94%)と、非UIPパターンであるRA-ILD患者さんの5年生存率97%(95% CI:92%-100%)と比較して有意に低かったことが報告されています(図4)5)。急性増悪の発現頻度についても、HRCT像が非UIPパターンである患者さんで1.7%/年だったのに対し、UIPパターンであるRA-ILD患者さんでは6.5%/年と有意に高かったことが報告されています(log-rank検定, p=0.018)5)。  
※2 UIP:通常型間質性肺炎

図4

ここで、RA-ILDにおける急性増悪のリスク因子について、システマティックレビュー及びメタアナリシスの結果同定されたものをみてみましょう。  
図5に示すように、RA-ILDにおける急性増悪発現のリスク因子として、関節リウマチ診断時の年齢の高さ、男性、喫煙歴、%FVCの低下、Definite UIPパターンを示すHRCT像が報告されました。  
これらのリスク因子を有するRA-ILD患者さんを診療する際には、特に急性増悪の発現に注意が必要だと思います。

 図5

肺の線維化のメカニズムと抗線維化剤オフェブの作用機序

先ほどご紹介したように、RA-ILDにおける急性増悪のリスク因子のひとつとして、Definite UIPパターンを示すHRCT像があげられます。HRCT像でUIPパターンを示す患者さんの多くは、組織学的にもUIPパターンであり、不均一な線維化病変を来していることが報告されています6)。  
ここからは、どのようなメカニズムで肺の線維化病変が生じるのかをみていきましょう。

肺の線維化の進行には、肺胞上皮細胞の傷害、及び組織修復の異常による細胞外基質の過剰な沈着が関与していると考えられています7)。こうした病態には、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)といった増殖因子を介するメカニズムが指摘されています。  
抗線維化剤オフェブは、これらの増殖因子を介したシグナル伝達を阻害し、線維芽細胞の増殖、遊走、生存及び血管新生を抑制することで抗線維化作用を示すと考えられています(図6)。

図6

INBUILD試験 オフェブによるILDの急性増悪の抑制効果

試験概要  
CTD-ILDを含めたPF-ILD患者さんを対象に、オフェブの有効性及び安全性を検討した国際共同第Ⅲ相試験INBUILD試験では、ILDの急性増悪に対する抑制効果についても検討されています(図7)。

図7

本試験の対象は、特発性肺線維症(IPF)以外のILDと診断され、スクリーニング前の24ヵ月以内に医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらず、こちらに示すiからivのILDの進行性の基準のいずれかを満たす患者さん663例です。なお、CTD-ILD患者さんは170例含まれていました8)。スクリーニングされた患者さんは、オフェブ群あるいはプラセボ群にランダムに1:1で割り付けられました。  
主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率でした(図8)。

図8

有効性

本試験の結果、オフェブ群とプラセボ群の投与52週までのFVCの年間減少率には有意な差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制効果が示されました。  
また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、右側の図のように推移しました(図9)。

図9

全期間のILDの初回急性増悪又は死亡までの期間について、全体集団を対象とした解析におけるハザード比は0.67であり、プラセボ群に対しオフェブ群で有意な改善が認められました。  
HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団を対象とした解析でも、ハザード比が0.62とプラセボ群に対しオフェブ群で有意な改善が認められました(図10)。

図10

安全性

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)に認められました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした(図11)。

図11

主な有害事象は、発現頻度が高い順にオフェブ群で下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)など、プラセボ群で下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした(図12)。

図12

続いて、投与52週までの下痢、嘔吐、悪心、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、有害事象共通用語規準を用いた評価ではGrade 1 が66.5%、Grade 2 が23.1%、Grade 3 が10.4%でした。嘔吐と悪心、肝酵素上昇は有害事象の重症度の判定基準を用いて評価しています。嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%、悪心は軽度が80.2%、中等度が19.8%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした(図13)。

図13

オフェブによる治療介入のタイミング~急性増悪発現リスクがある場合~

一部のCTD-ILDを含め、急性増悪発現リスクのあるPF-ILD患者さんの場合、どのようなタイミングでオフェブによる治療介入を検討するのが良いのでしょうか。

日本国内の単施設において、IPF及びIPF以外のFILDの各サブタイプ別の予後を後ろ向きに解析した研究では、非特異性間質性肺炎を除き、いずれも急性増悪から90日後の死亡率が20%を超えていたことが示されています(図14)。このように、ILDの急性増悪が発現すると急速に予後が悪化する可能性が考えられるため、急性増悪発現リスクのあるPF-ILD患者さんでは、急性増悪の発現前からオフェブによる治療介入を検討したほうが良いと考えます。  
なお、ILDの急性増悪は年間通して認められますが、冬期に発現頻度が高くなる傾向があることを報告する研究もあります9)。ほかの時期以上に冬期のILDのマネジメントには注意が必要と考えます。

図14

まとめ

一部のCTD-ILDを含むPF-ILD診療においては、呼吸機能の低下を防ぐことに加え、ILDの急性増悪を防ぐことが患者さんの予後改善において重要です。  
特にHRCT像でUIPパターンを示す場合、RA-ILDをはじめ一部のCTD-ILD患者さんにおいて急性増悪発現のリスクが高いことが報告されています。

UIPパターンを示す患者さんの多くで認められる肺の線維化ですが、その進行に関わる増殖因子のシグナル伝達を阻害するオフェブは、ILDの急性増悪に対する抑制効果についてもINBUILD試験で検討されています。ILDの急性増悪が発現すると急速に予後が悪化する可能性があることから、一部のCTD-ILDなど、急性増悪発現リスクのあるPF-ILD患者さんでは、急性増悪が発現する前からオフェブによる治療介入を検討したほうが良いと考えます。

今回ご紹介した内容を、CTD-ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

【参考文献】

  1. Parambil JG. et al.: Chest. 2006;130(2):553-558.
  2. Suda T. et al.: Respir Med. 2009;103(6):846-853.
  3. Park IN. et al.: Chest. 2007;132(1):214-220.
  4. Spagnolo P. et al.: Arthritis Rheumatol. 2018;70(10):1544-1554. 著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。
  5. Hozumi H. et al.: BMJ Open. 2013;3(9):e003132.
  6. Assayag D. et al.: Radiology. 2014;270(2):583-588. 著者にベーリンガーインゲルハイム社より助成金を受領している者が含まれる。
  7. Spagnolo P. et al.: Ann Rheum Dis 2020; 80(2): 143-150.
  8. Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
  9. Collard HR. et al.: Eur Respir J 2017; 49(5): 1601339. 本論文の執筆はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
ページトップ