線維性NSIPの予後関連因子とオフェブの有効性・安全性(静止画)

サイトへ公開: 2021年04月01日 (木)

ご監修:馬場 智尚 先生(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長)

ご監修:馬場 智尚 先生(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長)

本日は、特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIPs)のひとつである、線維性非特異性間質性肺炎、いわゆる線維性NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)の予後関連因子について解説します。

線維性NSIP患者の生命予後

線維性NSIPは、NSIPの分類のひとつであり、患者さんの一部においてはあらゆる治療が奏効せず末期肺線維症に進展するなど、予後が不均一であることが知られています1)
この線維性NSIP患者さんの予後について、病型や疾患経過との関連性を検討したコホート研究が報告されています。

本研究では、外科的肺生検で線維性NSIPと診断された患者さん157例を3種類の病型(特発性線維性NSIP/非IPAF、特発性線維性NSIP/IPAF、CTD-ILD)および進行型と安定型の2種類の疾患経過に分類し、予後関連因子を検討しています。 自己免疫特徴を伴う間質性肺炎(IPAF)とは、特発性間質性肺炎(IIPs)の患者さんにおいて、背景に自己免疫性過程が示唆される臨床的特徴があるものの、膠原病の基準に合致しない患者さんを指します2)。今回の検討では、2015年にATS/ERSの委員により作成されたIPAFの基準3)による分類を実施しました。

線維性NSIP患者の生命予後01

IPAFの基準は、鑑別可能な疾患が除外されたILDが存在し、いずれの膠原病の基準も満たさず、3つのドメインのうち2つ以上を満たすことと定義されています。3つのドメインは臨床ドメイン、血清学ドメイン、形態学ドメインより構成されています。各ドメインの項目は記載のとおりです。

線維性NSIP患者の生命予後02

検討の結果、病型においては、特発性線維性NSIPでIPAFの基準に合致する患者さんや膠原病に伴う間質性肺疾患 (CTD-ILD)の患者さんと比較して、特発性線維性NSIPでIPAFの基準に合致しない非IPAF患者さんが有意に予後不良となることが示されました。また、疾患経過においては、安定型の患者さんと比較して、進行型の患者さんが有意に予後不良でした。

線維性NSIP患者の生命予後03

PF-ILDの治療アルゴリズム

そのため、特に、特発性線維性NSIPで非IPAFの患者さんや、進行型の経過がみられる患者さんは、将来的に進行性線維化を伴うILD(PF-ILD)となるリスクを抱えています。

肺線維症に関わるエビデンスをもとに提案された治療アルゴリズムをお示しします。
線維性ILDと診断された場合、第一選択の治療は基礎疾患の治療であり、多くの場合、免疫修飾療法が検討されます。適切な管理を行ったにもかかわらず疾患の進行がみられる症例では、基礎疾患に応じて抗線維化薬の使用が検討されます。薬物療法の順序は、患者さんごと、疾患ごとに決定されます。

PF-ILDの治療アルゴリズム01


疾患進行のモニタリングは、主に経時的な呼吸機能検査所見に基づき、FVCの低下が一貫してみられることが進行の特徴とされます。ほかに、肺拡散能、身体症状および運動能力、CT所見(線維化病変の広がりによる進行の評価)、運動時の酸素飽和度、酸素療法の必要性の有無などの所見と組み合わせてモニタリングが行われます。
このようにPF-ILDの管理として、患者さんの背景によって治療方法が異なるため、ステロイド・免疫抑制療法などが十分なのか、感染・腫瘍・肺胞蛋白症・肺塞栓症・肺高血圧症などの合併疾患による悪化でないのかなどを検討し、治療を進めることが重要です。

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性(INBUILD試験)

試験概要:
オフェブはINBUILD試験において、特発性NSIPを含む進行性の線維化を伴うILD患者さんにおける呼吸機能低下の抑制が認められました。
本試験では、663例の患者さんをオフェブ群とプラセボ群に1:1で割り付けました。主要評価項目は投与52週までのFVCの年間減少率(mL/年)でした。

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性(INBUILD試験)01

全体集団において、特発性NSIP患者さんの割合はオフェブ群で19.3%、プラセボ群で18.4%でした。

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性(INBUILD試験)02

なお、ILDの進行性の基準には、%FVCのほか、呼吸器症状の悪化および胸部画像上での線維化変化の増加が用いられました。

PF-ILDに対するオフェブの有効性と安全性(INBUILD試験)03

有効性

主要評価項目である52週までのFVCの年間減少率では、オフェブ群とプラセボ群のFVCの年間減少率に有意な差が認められ、オフェブの投与により呼吸機能の低下が抑制されることが検証されました。

有効性001

また、ILDの初回急性増悪または死亡までの期間に関しては、主な副次評価項目で52週間、その他の評価項目で全期間の検討が行われました。その結果、52週間においては両群に有意差はみられませんでしたが、全期間におけるオフェブ投与によるILDの初回急性増悪または死亡のリスク減少率は33%でした。

有効性002

安全性

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例 (98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)にみられました。オフェブ群における主な有害事象は、下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)などであり、プラセボ群における主な有害事象は下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした。また、オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。さらに、オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全5例、呼吸不全4例などでした。

安全性001

肝酵素上昇などの肝機能障害、下痢、悪心、嘔吐が現れた際の対処法について解説します。
肝機能障害が発現した際は、AST、ALTが基準値上限の3倍を超えた場合、オフェブを減量または中断し、患者さんの状態を十分に観察していただきます。
黄疸などの肝機能障害の徴候や症状が認められた場合には、オフェブの投与を中止し、再投与は行わないことが推奨されております。

安全性002

下痢が発現した際は、通常、初回発現時にできるだけ速やかにロペラミドなどの止瀉剤による対症療法を行うことによって、管理可能となる場合もあります。
適切な対症療法を実施されたにもかかわらず、下痢が継続する場合には、オフェブの減量・中断または投与中止を考慮していただきます。
対症療法を実施されたにもかかわらず持続するような高度(重度)の下痢の場合は、オフェブによる治療を中止し、再投与は行わないことが推奨されております。

安全性003

悪心・嘔吐が発現した際は、標準的な対症療法を行っていただきます。オフェブの減量又は中断、中止の基準は下痢と同様になります。

安全性004

線維性NSIPの中でも、特発性線維性NSIPで非IPAFの患者さんおよび進行型の患者さんは、特に予後不良となることが報告されています。
オフェブは、特発性NSIPを含む進行性線維化を伴うILD患者さんにおける呼吸機能低下の抑制および急性増悪または死亡リスクに関する結果が示されており、進行性線維化のある特発性NSIPの治療選択肢のひとつとして期待できると考えられます。

文献:

1) Yamakawa.H et al.Respirology (2018) 23, 1032–1040
2) 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.24、53
3) Fischer A et al.; Eur.Respir. J. 2015; 46: 976–87

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