コミュニケーションギャップの解消とIPFの診断・治療管理(静止画)

サイトへ公開: 2023年10月31日 (火)

ご監修:冨岡 洋海先生(神戸市立医療センター西市民病院 副院長/呼吸器内科 部長)

本日は2022年に発表された『IPFおよびPPF 国際診療ガイドライン』と、医師、患者間のコミュニケーションギャップについてご紹介します。
『IPFおよびPPF 国際診療ガイドライン』では「IPFの診断アルゴリズム」「IPFの高分解能CT(HRCT)パターン」「HRCTおよび生検パターンに基づくIPFの診断」などの図表が改訂されました。
IPF:特発性肺線維症 PPF:進行性肺線維症

特発性肺線維症(IPF)の診断アルゴリズム

本ガイドライン掲載のIPFの診断アルゴリズムでは、IPFが疑われる患者さんに対し、まずは可能性のある原因や関連する状況について問診を行うことが示されています(図1)。問診の結果、特に原因がない場合、もしくは、原因があっても特定の診断の確認が取れない場合は、胸部HRCTパターンの確認を行います。
HRCTパターン確認後の診断の進め方は、確認されたパターンごとに異なります。今回の改訂では、HRCTパターンがUIPまたはProbable UIPパターン※のいずれの場合でも同様に、多分野による集学的検討(MDD)を行いIPFの診断に至るよう、診断の進め方が変更されました。

一方、Indeterminate for UIPまたはAlternative diagnosisパターンの場合は、MDDに加えて、気管支肺胞洗浄(BAL)や経気管支クライオ肺生検(TBLC)、外科的肺生検(SLB)などを実施します。その後、再度MDDを行い、IPFもしくはAlternative diagnosisの診断を行います。
なお、可能性のある原因や関連する状況があり、特定の疾患と確定できる場合はAlternative diagnosisの診断となります。

※放射線学上でProbable UIPパターンを持つ患者は、適切な臨床の場では肺生検による確認なしに、多分野による集学的検討(MDD)後にIPFと診断できる(例:60歳、男性、喫煙者)。BALは、Probable UIPパターンを持つ一部の患者において適切である場合がある。

IPF患者の臨床管理

図1

IPF患者の臨床管理

IPF患者の臨床管理の流れも示され、IPF診断後の治療に際しての考慮事項と、疾患進行のモニタリングに関する記載が追加されました(図2)。また、どの段階でも参加可能な臨床試験の情報を患者に提供するとの記載も追加されています。
治療に際しての考慮事項としては、オフェブなどの抗線維化薬による薬物治療と、酸素療法や呼吸リハビリテーションといった非薬物治療の両方を検討すべきであることが示されています。加えて、肺高血圧や胃食道逆流症などの併存疾患や症状コントロールのための緩和ケア、死亡リスクの高い場合には診断時に肺移植について言及することも示されています。
また、疾患進行のモニタリングについても具体的な期間が提案されており、呼吸機能検査および6分間歩行試験は、4~6ヵ月ごとまたは臨床的に必要がある場合の早い方で、検討することが示されています。HRCTについては、臨床的に悪化が疑われる場合または肺癌のリスクがある場合は、年1回検討するとされています。また、急性増悪が懸念される場合にも、HRCTの実施が検討されます。CT肺血管造影については、肺塞栓症の臨床的懸念がある場合に検討されます。

抗線維化療法導入のタイミング

図2

抗線維化療法導入のタイミング

4~6ヵ月ごと、または臨床的に必要がある場合に実施を検討することが示されている6分間歩行試験は、労作時呼吸困難、労作時低酸素血症を評価し、抗線維化薬の導入を検討するうえで有用な試験です。
日本では抗線維化薬の導入、特に軽症例への導入が遅れていると言われています1)。IPF患者さんの予後を改善するためには、6分間歩行試験などを定期的に行い、適切なタイミングで抗線維化薬を導入することが重要です。
具体的には6分間歩行試験でSpO2が88%以下の場合やSpO2が4%以上の低下をしている場合は積極的に抗線維化薬の導入を検討するとよいでしょう(図3)。

抗線維化療法におけるコミュニケーションギャップ

図3

抗線維化療法におけるコミュニケーションギャップ

治療を開始するにあたり、患者さんにエビデンスを提示して治療方法を一緒に考えていくShared decision making(SDM)が大事だと言われています。

こちらは100床以上の医療機関でIPF患者を診療している医師に、医師およびその担当IPF患者を対象としたアンケートを依頼し、抗線維化療法に対する意識について調査した結果です(図4,5)。

抗線維化治療に関する医師の説明と、患者が受けたとする説明の比較を見てみると、「抗線維化薬は急性増悪を抑制する効果があること」「治療にかかる費用」「各抗線維化薬で起きる可能性のある副作用について」では医師と患者の間に説明の捉え方の違いに大きな差が見られます(図5)。
このように、双方の認識を比較してみると、患者さんには必ずしもこちらが意図したとおりに情報が伝わっていないことが分かります。
抗線維化薬の導入に当たっては、「治療目標として病気の進行を抑制することが大事であること」「抗線維化薬は長期にわたり病気の進行を抑制する効果がある薬であること」を伝えることが非常に大事です。
治療の目標や薬の役割を十分に説明することで、患者さんのアドヒアランスを維持することにつながります。

図4

図4

図5

図5

IPFの治療について説明を受けた時期に関するアンケートでは、約65%の患者さんが診断時までにIPFの治療について説明を受けたと回答していますが(図6)、主治医は治療に関する多くのことを説明しているのに、患者さんはその内容をあまり理解していないということも分かっています。

抗線維化療法のコミュニケーションギャップ解消へ、わたしたちができること

図6

抗線維化療法のコミュニケーションギャップ解消へ、わたしたちができること

IPFはがんに準じて予後不良であり、病名の告知、治療法の提示は細心の注意を払うことが求められます。
患者さんにとってどの情報が必要なのか、優先度も考えて情報を絞り込み、きちんと伝えることで、医師、患者間のコミュニケーションギャップを解消し、医療の質の向上につなげることができます。

短い診療時間でたくさんの情報を患者さんに伝えても、理解されていないことも多いので、オフェブの服薬などをサポートしてくれる「オフェブ®よりそいパートナー」を利用することも有効な方法だと考えられます(図7)。
抗線維化薬は継続して服用していくことが重要です。最初の半年を「オフェブ®よりそいパートナー」でしっかりサポートすることで治療継続に貢献できるかもしれません。

医療費のコミュニケーションギャップ解消へ、わたしたちができること

図7

医療費のコミュニケーションギャップ解消へ、わたしたちができること

また、治療に掛かる費用に関する説明も医師と患者の間で捉え方の違いに大きな差がみられました(図5)。

医療費助成に関しては自治体によってプロセスが異なり、患者さんの収入や重症度によっても受けられる助成が異なるため、外来で医師が全ての説明をすることは難しいかと思われます。
ソーシャルワーカーや看護師と協力して説明を行ったり、製薬企業が設置している医療費相談室を利用するのも解決方法のひとつと考えられます。
IPFのような慢性進行性の難治性疾患は、早期治療介入が重要ですが、先ほどのアンケート調査では薬剤費が高いという理由で処方を躊躇してしまう医師もいることが明らかになりました1)
オフェブ®による治療を検討される患者さんに、医療費や医療費助成制度に対する疑問にお答えするサポートサービス「オフェブ®医療費相談室」を利用してもらうことも解決策のひとつといえます(図8)。

図8

図8

本日は『IPFおよびPPF 国際診療ガイドライン』と、医師、患者間のコミュニケーションギャップについてご紹介いたしました。
ご視聴の先生方におかれましても、IPF診療における医師、患者間のコミュニケーションギャップを解消し、よりよい医療の提供につなげていただければ幸いです。

【引用】

  1. 冨岡洋海 ほか: 呼吸臨床 2020年4巻3号 論文No.e00097
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