インタビュー取材 間質性肺炎治療における呼吸筋トレーニングの有用性を検証

サイトへ公開: 2021年05月31日 (月)

取材施設:医療法人青仁会 池田病院(鹿児島県鹿屋市)

呼吸器内科 統括診療部長              寒川 卓哉 先生 
リハビリテーション科 リハビリテーションセンター長 鶴川 俊洋 先生
リハビリテーション科 理学療法士          田村亜紀子 氏
病棟看護師                     前野 幸恵  氏

日時:2021年1月19日(火)18:30
場所:かのやグランドホテル 2階 福

池田病院では2018年に、それまで鹿児島大学からの派遣で非常勤だった寒川卓哉先生が常勤となったことを機に、間質性肺炎治療にも力が注がれるようになっています。多職種の関与によるチーム医療を進め、呼吸リハビリテーションのクリニカルパスも導入されています。そのお取り組みについて、寒川先生ほか、スタッフの方々にお話しいただきました。

手厚いリハビリスタッフ体制で呼吸器リハにも力

寒川先生:「私が常勤になった後、地域からの紹介患者は確実に増えています。2020年の呼吸器外来患者数は約6,000人、うち約4,000人が慢性呼吸器疾患患者で、その約4割が間質性肺炎(IP)患者と思われます。呼吸器入院患者ではIPが11%と3番目に多く、入院呼吸器リハビリ総数ではIPが約3割を占めます。
IPの代表的な疾患である特発性肺線維症(IPF)は難治性で、薬物療法には限界があります。そうした難治性の呼吸器疾患では、呼吸リハビリの重要性が高いと考えています」
鶴川先生:「当院は回復期リハビリ病棟を持つケアミックス型病院であり、回復期リハの発展の中で体制が整備され、呼吸リハビリにも力が注がれてきました。現在は肝属地域リハビリテーション広域支援センターにも指定されています」
田村氏:「リハビリテーションセンターは理学療法士(PT)25人、作業療法士(OT)22人、言語聴覚士7人のスタッフを擁します。うち、PT4人・OT3人、計7人が3学会合同呼吸療法認定士取得者です」

パス運用し呼吸筋トレを1日2回、10日間実施

寒川先生:「IPにおける呼吸リハの有用性は明らかでないのが現状です。そこで、鶴川先生とも相談し、リハビリの教育入院で独自のプログラムを採用したクリニカルパスを運用し、その有用性を検証したいと考えました。パスの運用は、当院の倫理委員会の承認を得て、臨床研究として実施しています」
田村氏:「図1〜3に示すように13日間のパスで、リハの介入は2日目から始まり、2回の薬剤・栄養指導、3回の保健師指導も行われます。リハでは、呼吸器筋トレーナーという機器を用い、1日2回の『呼吸筋トレーニング』を導入しているのが特徴です。ストレッチや有酸素運度とともに採り入れることで、呼吸機能の改善につながるのではないかと考え、リハビリ科から提案しました」
寒川先生:「提案を受け、COPDには適用されている呼吸筋トレーニングをIPにも適用し検証してみることにしました」
前野氏:「パスの保健師指導では、IPの疾患特性などとともに、生活上の注意点を説明します。患者さんによって生活背景や理解度なども異なるため、3回にわけてしっかり指導を行い、理解を深めてもらっています」

パス運用し呼吸筋トレを1日2回、10日間実施01パス運用し呼吸筋トレを1日2回、10日間実施02パス運用し呼吸筋トレを1日2回、10日間実施03

吸気筋トレによる「最大吸気口腔内圧」改善に期待

寒川先生:「13日間の呼吸リハクリニカルパスを運用し、リハの介入前後で患者さんの状態がどのように変化するかを検証したいと考えています。その指標としては、現在のところ次の5項目を設定しています。
①mMRCスコア
②肺機能検査指標(高次肺機能を含む)
③6分間歩行試験の歩行距離
④横隔膜可動性(安静時および深吸気後)
⑤呼吸筋力(最大呼気口腔内圧、最大吸気口腔内圧)
FVCなどの肺機能は13日間での改善は難しいかもしれませんが、mMRCスコアや6分間歩行距離は介入効果が期待できると思っています。
私たちが最も注目しているのは、やはり呼吸筋トレを採り入れていることもあり、呼吸筋力の改善です。まだは症例数が少ないのですが、少しデータをまとめてみたところでは、最大吸気口腔内圧(MIP:Maximum Inspiratory Mouth Pressure)の改善に期待を寄せているところです。症例を重ね、データをまとめることができればと思っています」
田村氏:「吸気筋トレは、『POWERbreathe KH2』(POWERbreathe International社)という呼吸器筋トレーナーを用い、吸気負荷圧をMIPの20〜40%、呼吸数は30回で指定し1日2回行っています」

科学的な根拠のあるプログラムとして確立を

寒川先生:「今後は、この呼吸リハクリニカルパスの臨床研究を着実に進め、科学的な根拠に基づくプログラムとして確立したいと考えています。パスの対象になるのは、症状が落ち着いている患者さんなので、そうした方にリハビリの教育入院を勧めても、なかなか理解されない部分があり、症例数の積み上がりが遅いという課題もあります。逆に、そういう場面でエビデンスを示せると説得力が違うわけですから、まずは今あるデータを基に丁寧に説明して、一人でも多くの患者さんの理解を得ることに努力していきます」
鶴川先生:「IPにおける呼吸筋トレの有用性が期待されるところですが、データを丁寧に見ていく必要があると思っています。リハビリ内容を変えない形でパスを運用していますので、リスクがないかどうかにも十分に注意しながら研究を進めたいと考えています」
寒川先生:「チーム医療としては、薬剤師や栄養士の関与を高めていく必要があるので、合同カンファレンスなどを通じて、チーム力を向上させていきたいと考えています」

統括診療部長 寒川 卓哉 先生

統括診療部長 寒川 卓哉 先生

IPは根治が難しい疾患であり、非薬物療法としてのリハビリや栄養管理の重要性は言うまでもなく、うつや不安を抱えた患者さんには精神面でのサポート、病状が進行して薬物療法や在宅酸素療法も必要になれば経済的なサポートなども求められ、包括的な支援が必要です。医師一人で対応できることでなく、そこにチーム医療の意義があります。

リハビリテーションセンター長 鶴川 俊洋 先生

リハビリテーションセンター長 鶴川 俊洋 先生

当センターでは、これまでも患者さんの入院から在宅までのつながりを意識した取り組みを行ってきましたが、現在のようなコロナ禍も考えれば、IPに限らず、リモートなども活用しながら情報提供や情報共有を行う安全なシステムをつくっていくことがますます重要になるはずです。スタッフ全員で知恵を出し合って対応していきたいと考えています。

理学療法士 田村 亜紀子 氏

理学療法士 田村 亜紀子 氏

SpO2値の低下と呼吸困難の自覚が必ずしも一致しない患者さんもいます。そうした場合のリハビリでは、運動や生活動作におけるSpO2値の変動を患者さん自身に確認してもらいながら、休憩のタイミングなど、きめ細かく指導に入るよう心がけています。日常生活場面での呼吸器症状の変化も看護師と協力して評価し、動作指導などを行うようにしています。

病棟看護師 前野 幸恵 氏

病棟看護師 前野 幸恵 氏

食欲低下の見られる患者さんが多いので、状況を見ながら補助食品を積極的に使うなど、栄養士とも連携を図っています。また、呼吸困難なく食事摂取できるよう食事中の体位にも気をつけています。急性増悪が起きた際は不安感がとても大きいので、患者さんの気持ちを傾聴し、受け止めた上で援助することが大事です。不安を募らせているときは、まずは呼吸を整えるよう声掛けることを意識して関わっています。

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