全身性強皮症に伴う間質性肺疾患のスクリーニングと治療(静止画)

サイトへ公開: 2023年02月28日 (火)

ご監修:神人 正寿先生(和歌山県立医科大学 皮膚科 教授)

神人 正寿先生

全身性強皮症(SSc)において、間質性肺疾患(ILD)は主要な死亡原因のひとつです。そのため、SSc診断時及び診断後も定期的なモニタリングを必ず行い、適切な予後予測のもと、治療を検討することが重要となります。
本日は、SScに伴うILDのスクリーニングと治療について紹介します。

SScの診断基準

『全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン』より、日本におけるSScの診断基準を図1にお示しします。
SScは大基準として「両側性の手指を越える皮膚硬化」、小基準として「①手指に限局する皮膚硬化」「②爪郭部毛細血管異常」「③手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指尖潰瘍」「④両側下肺野の間質性陰影」「⑤抗Scl-70(トポイソメラーゼI)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体のいずれかが陽性」が定められています。大基準、あるいは小基準①及び②~⑤のうち1項目以上を満たした場合、SScと診断されます。
なお、除外基準も定められており、腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮症、好酸球性筋膜炎などの疾患は注意して鑑別する必要があります。

SScの診断基準

図1

SScにおけるILDの合併

SSc診療において、特に注意すべき臓器病変のひとつにILDが挙げられます。2010年に発表された、SScに関連して死亡した128例の患者さんを対象に調査した結果では、ILDが死亡原因となった患者さんの割合は全体の35.2%でした(図2左)。
さらに、このSScの死亡原因の変遷に関する調査結果も報告されています。ILDを死亡原因とする患者さんの割合は1972~1976年では6%、1997~2001年では33%と有意に増加しています。このことから、ILDが現在のSSc診療において特に注意すべき臓器病変のひとつであることが示されているかと思います1)(図2右)。

SScにおけるILDの合併 

図2

ILDを含むSScの臓器病変の発現時期は、臓器病変の種類やSScのサブタイプによってさまざまです。SScにおける各臓器病変の初発時期を検討した調査では、限局皮膚硬化型SSc(lcSSc)の場合、腎クリーゼなどの他の臓器病変の併発割合は減少する傾向にある中、ILDは発症1年目から20年以上にわたって、約20~30%の患者さんに継続的に併発します。一方、びまん皮膚硬化型SSc(dcSSc)の場合は、疾患の発症から1~2年の早期にILDの併発が多く見られます(図3)。

SScにおけるILDの合併02

図3

このように、SScのサブタイプによる違いはあるものの、予後やQOLに影響を与えるILDは、SScの罹病期間に関わらず、後述するスクリーニングを定期的に行う必要があると考えられます。

SSc-ILDの生命予後の予測

SScに伴うILD(SSc-ILD)は、発現時期だけでなく、その生命予後もさまざまです。
SSc-ILDの予後は、胸部HRCT所見と%FVCを組み合わせたステージ分類によって予測できます。まず、HRCT所見において、病変の広がりが20%未満の場合はLimited disease、20%より広い場合はExtensive diseaseに分類されます。HRCTでの病変の広がりの判断が困難な場合は、%FVCが70%以上であればLimited disease、70%未満であればExtensive diseaseに分類されます(図4左)。こちらの方法で分類されたステージ別の生存率を比較した結果、Extensive diseaseの方が、Limited diseaseに比べ、有意に予後不良であることが報告されました(図4右)。

SSc-ILDの生命予後の予測 

図4

これらのことから、SSc-ILDにおいては胸部HRCTにおける病変の広がりと%FVCのモニタリングが重要であるといえます。

SSc-ILDのスクリーニングと治療

それでは、SScにおいてILDのスクリーニングはいつ、どのように行えば良いのでしょうか。
HRCTによるスクリーニングについては、全SSc患者さんに対して診断時に行うことが望ましいとされています。また、診断時には、同時に努力肺活量(FVC)、一酸化炭素拡散能(DLco)、聴診所見といった検査も実施し評価します。その後のHRCTによるモニタリングの頻度は医師の判断によりますが、呼吸機能検査については定期的に実施することが望ましいとされています(図5)。

SSc-ILDのスクリーニングと治療

図5

具体的なILDのモニタリングの実施頻度については、『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』に掲載されているSSc-ILDの治療アルゴリズム(案)に示されています(図6)。
SSc診断時の胸部HRCTによってILDが認められなかった場合は、胸部HRCT及び呼吸機能検査によるスクリーニングを6~12ヵ月ごとに行います。
SSc診断時にILDが認められた場合のモニタリング及び治療は、先ほどお示ししたステージ分類ごとに異なります。
Extensive diseaseの場合、すでに高度肺機能低下があるケースを除いて、薬剤による治療を開始し、その後6~12ヵ月ごとに胸部HRCTや呼吸機能検査によって、ILDの進行を評価します。
Limited diseaseでILD進展が高リスクと予想される場合も、薬剤による治療を開始し、6~12ヵ月ごとにILDの進行を評価します。ILD進展が低リスクの場合は、6~12ヵ月ごとに病勢を評価し、ILDの進行が認められた場合には、薬剤による初期治療を検討します。
抗線維化剤オフェブは、本アルゴリズムにおいて、初期治療における選択肢のひとつとして記載されています。

図6

図6

先生方へメッセージ

SScの合併症の中でも、ILDは主要な死亡原因のひとつであり、HRCTと呼吸機能検査によるスクリーニングとモニタリングによって早期に診断し、進行をとらえることが重要です。また、これらの結果は、患者さんの予後予測と治療方針にも影響を与えます。
SScの診療においては、SSc診断時及び診断後におけるILDの定期的なスクリーニングとモニタリングを適切に行っていただき、ILDの進行が認められた場合はオフェブを含む治療の導入をご検討ください。

SSc-ILDにおけるオフェブの有効性及び安全性
国際共同第Ⅲ相試験 SENSCIS試験

試験概要

オフェブのSSc-ILDに対する有効性・安全性は、国際共同第Ⅲ相試験であるSENSCIS試験で検討されています(図7)。

試験概要

図7

本試験では日本人71例を含むSSc-ILD患者さん580例をオフェブ群あるいはプラセボ群に1:1でランダムに割り付け、52週以上、最長100週まで薬剤を投与しました。本試験の対象に登録されたのは、スクリーニング前7年以内にSScを発症し、スクリーニング前12ヵ月以内にHRCTが実施されている20歳以上の患者さんでした(図8)。
主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率でした。

試験概要02

図8

有効性

本試験の結果、オフェブ群とプラセボ群の投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-52.4mL/年、プラセボ群-93.3mL/年と有意差が認められ、オフェブによる呼吸機能低下の抑制効果が示されました(図9左)。
また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、右側の図のように推移しました(図9右)。

有効性

図9

また、本試験では投与52週までのFVCの年間減少率について、ミコフェノール酸の併用の有無別に部分集団解析を行っています。ベースライン時にミコフェノール酸を併用していた患者さんにおけるオフェブ群のFVCの年間減少率は-40.2mL/年、プラセボ群は-66.5mL/年でした。一方、ベースライン時にミコフェノール酸を併用していなかった患者さんのFVCの年間減少率はオフェブ群で-63.9mL/年、プラセボ群で-119.3mL/年でした(図10)。

有効性02

図10

安全性

本試験の全期間における有害事象はオフェブ群98.3%、プラセボ群97.6%に認められました。重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象については、図11のとおりです。

安全性

図11

主な有害事象は、発現頻度が高い順にオフェブ群で下痢220例(76.4%)、悪心96例(33.3%)、嘔吐78例(27.1%)など、プラセボ群で下痢94例(32.6%)、咳嗽63例(21.9%)、皮膚潰瘍、上咽頭炎各56例(19.4%)などでした(図12)。

安全性02

図12

続いて、投与52週までにオフェブ群で発現頻度が高かった有害事象である下痢、悪心、嘔吐の重症度をお示しします。下痢、悪心と嘔吐は有害事象の重症度の判定基準を用いて評価しています。オフェブ群において、下痢は、軽度が49.5%、中等度が45.0%、高度が5.5%でした。悪心は、軽度が65.9%、中等度が33.0%、高度が1.1%、嘔吐は軽度が62.0%、中等度が33.8%、高度が4.2%でした(図13)。

安全性03

図13

また、投与52週までの肝酵素上昇(臨床検査値異常)の発現状況について、各肝酵素の最大値別の内訳は図14のとおりでした。

有効性04

図14

SScの診療においては、ILDのスクリーニングを診断時に必ず行い、適切な予後予測のもと、治療を検討することが重要です。また、SSc発症からILDの併発までの期間が長い場合もあるため、診断時だけでなく、定期的なモニタリングの実施も必要となります。
オフェブはSSc-ILD患者さんを対象としたSENSCIS試験において有効性と安全性が検討されており、SSc-ILD患者さんの治療選択肢として期待できると考えます。
今回ご紹介した内容を、SSc患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

【引用】

  1. Steen VD. et al.: Ann Rheum Dis 2007; 66(7): 940–944.
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