間質性肺疾患患者さんへの栄養指導の実施意義(静止画)

サイトへ公開: 2024年02月28日 (水)

ご監修:磯部 宏子先生(神奈川県立循環器呼吸器病センター 栄養管理科 栄養管理科長)

神奈川県立循環器呼吸器病センターでは、間質性肺疾患診療の一環として管理栄養士による栄養指導を実施されています。
本コンテンツでは間質性肺疾患患者さんへの栄養指導の実施意義について、神奈川県立循環器呼吸器病センター 栄養管理科 栄養管理科長 磯部 宏子先生にうかがいます。

インタビュー実施場所:テクノタワーホテル インタビュー実施日:2023年10月3日(月) 提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

Q. 神奈川県立循環器呼吸器病センターでは、どのような間質性肺疾患患者さんに栄養指導を開始されますか?

当院の場合、間質性肺疾患の診断時など、疾患が進行していない初期段階から、医師の指示に基づいて初回の栄養指導を行うことが多くあります。その背景には、間質性肺疾患患者さんにおいて体重減少が予後に影響するということが報告されているためです(図1)1

図1

管理栄養士の立場からも、患者さんが痩せてしまう前、つまり食事をしっかり摂れる段階で栄養指導を行うことが重要と考えています。必要な食事量が摂れなくなって痩せてしまうと、呼吸筋の筋力が低下して呼吸が苦しくなる、呼吸が苦しくなると運動量が減り、食欲が落ちてまた痩せるといった悪循環におちいってしまいます。特に、高齢者の場合は一度痩せてしまうと食事量を増やせず、痩せる前の体重に戻すことは難しくなります。

Q. 間質性肺疾患患者さんへの栄養指導では、どのような内容を患者さんにお伝えしていますか?

まずは食事量についてです。
間質性肺疾患の進行がそれほど進んでいない患者さんの場合は、そもそも患者さんご自身が食事量に問題はないと思っている方もいらっしゃいます。しかし、患者さんに毎日の食事内容をお伺いすると、実際には食事量が足りていないことが多くあります。そのような患者さんに対しては、患者さんご自身に「痩せてきている」ことをまずお伝えします。そのうえで食事量が足りていないことと、体重減少を防ぐために適切な食事量(図2)を規則正しく朝昼晩の食事で摂る必要があることをお話しします。

図2

また、健康な人と同じ食事量を摂っているのに痩せてしまうとお話しされる患者さんもいらっしゃいます。そのような患者さんに対しては、たとえば「咳1回当たりエネルギーを約2kcal消費する」など、息切れや咳といった間質性肺疾患の症状によって健康な人よりもエネルギーを多く消耗していることを具体的な数値も出しながらお伝えしています。
当院で実施している包括的呼吸リハビリテーション入院での栄養指導の場合は、必要な食事量を実際に入院中に食べてもらい、どれくらい足りていないのかを患者さんに実感してもらうとともに、自宅でできる食事の工夫などを具体的に指導しています。
※包括的呼吸リハビリテーション入院:患者さんの症状に合わせた生活方法や運動内容、服薬方法、食事内容などのアドバイスを学ぶことができる入院コース。10日コース・7日コース・3日コースの3つが用意されている。

あわせて、日常生活で身体を動かすことの大切さもお伝えします。それは、たんぱく質を意識したバランスの良い十分な食事とともに運動をあわせて行うことが呼吸筋も含めた筋力の維持に重要だからです。間質性肺疾患による息切れの症状があると、身体を動かすことが少なくなります。その結果、呼吸筋を含む全身の筋力が弱まって、息苦しさがさらに強くなります(図3)。このようなフレイルにならないよう食事と運動で筋力を維持することができれば、運動耐容能が改善するとともに息苦しさが軽くなり、食事を含めた日常生活の活動性が改善します。このことは、患者さんの生活そのものをいきいきとしたものにすることにつながると考えています。

図3

Q. 間質性肺疾患患者さんは、どのような食事・栄養面の悩みや困りごとを抱えていらっしゃるのでしょうか?

間質性肺疾患の進行がみられる患者さんからは、「頑張って必要な食事量を摂ろうとしてもどうしても食べられない、でも、家族からは食べるように言われて辛い」といったお声をよく聞きます。
一方で、そのご家族もまた、患者さんが今までの食事量を摂れなくなっている状況をみて不安を感じられています。さらに、これまで患者さんご自身がご家族全員の食卓を担っていたというご家庭の場合、食事の用意に慣れないご家族が十分なサポートをしてあげられないことにもどかしさを抱えてしまうこともあります。
このような状況があることから、ご家族も栄養指導に同席いただく場合には、患者さんご自身とご家族両方から現在の状況やお気持ちを聞いて、お互いにストレスなくできる方法をご提案し、サポートするようにしています。

Q. 抗線維化剤オフェブを処方されている患者さんの場合、食事・栄養面ではどのような注意が必要でしょうか?

間質性肺疾患が進行性の疾患であることを考えると、休薬によって治療が滞ることは避けたいと考えます。オフェブの休薬の原因となる副作用のひとつである下痢や悪心・嘔吐、食欲不振に対しては、食事・栄養面の工夫も対応のひとつです。
下痢がみられた場合は、便と一緒に水分も出てしまうため、水分補給を行うことが必要です。このとき、一度に水分補給をしてしまうと、満腹感が生じて食事が摂れなくなる場合があるため、こまめな水分補給をお勧めしています。また、1回の食事量を少なめにすることや、下痢を誘発するような揚げ物や刺激物などをやめることもお伝えしています。ご高齢の患者さんには天ぷらが好物の方も多く、より注意が必要だと感じています。
悪心・嘔吐や食欲不振がみられた場合は、そばやそうめんなどのあっさりした味付けの食べやすいもので栄養を摂ってもらうことをお伝えしています。温めたときの匂いで食べられないといった場合には、冷たい茶碗蒸しのように温度の低いものなど、温度や匂いにも注意すると食べやすくなるかもしれないとお話ししています。

Q. 最後に、管理栄養士としてのお立場から、間質性肺疾患患者さんに対する栄養指導の実施意義についてお考えを教えてください

ご家族の方も含め、患者さんが楽しめる食事を栄養指導でご提案することは、患者さんのいきいきとした生活や、さらには治療に対するモチベーションの向上につながるという点で意義があるものだと思います。間質性肺疾患の進行によって食事量が低下し、患者さんが痩せてしまう前から栄養指導を行うことで、患者さんに少しでも長く、いきいきとした生活を送っていただきたいと思っています。

【参考文献】

  1. Comes A. et al.:Chest. 2022 May;161(5):1320-1329.
    著者にベーリンガーインゲルハイム社より研究費等を受領したものが含まれる。
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