全身性強皮症に伴う間質性肺疾患【治療アルゴリズム編】(静止画)

サイトへ公開: 2021年06月22日 (火)
山野先生

監修 : 公立陶生病院 呼吸器・アレルギー疾患内科 部長 山野 泰彦先生

更新日 2020年10月

日本呼吸器学会と日本リウマチ学会が合同で作成した「膠原病に伴う間質性肺疾患診断・治療指針2020」1)が発刊されました。本指針の「第2章 各論 2全身性強皮症」には、SSc-ILDの病期分類や進展リスク因子(図1)、治療アルゴリズム(図2)が掲載されています。今回は治療アルゴリズムを中心にご紹介します。

SSc-ILDの治療アルゴリズム

SScと診断された場合、呼吸器症状の有無にかかわらず、全例で高分解能CT(HRCT)によるILDのスクリーニングを行います(図2)。ILDが認められた場合は、Gohら2)の基準に従って、HRCT所見と呼吸機能検査の結果から、ILDの病型をExtensive diseaseとLimited diseaseに分類します(図1)。

Extensive diseaseで高度肺機能低下が認められない場合は、初期治療として、シクロホスファミド(CYC)の経口剤(POCY)または注射剤(IVCY)を投与後に、アザチオプリン(AZA)またはミコフェノール酸モフェチル(MMF)#で維持療法、MMF#、ニンテダニブ##を単独、あるいはPOCY/ IVCYまたはMMF#とニンテダニブ##※を併用投与します。これらのいずれかで治療後、さらにILDの進展がみられた場合は、他の初期治療の使用または併用を検討します。

一方、高度肺機能低下が認められる場合、病変の可逆性は乏しく、免疫抑制薬の使用はかえって感染リスクや死亡リスクが高まる可能性があるため、リスク・ベネフィットの観点から慎重な検討が必要です。また、高度肺機能低下が認められる患者で、55歳未満の場合は両肺移植、60歳未満の場合は片肺移植が可能であり、肺移植の可能性についても考慮する必要があります。

Limited diseaseであっても図1に示すようにILD進展予測で高リスクの場合は治療介入を考慮します。初期治療として、POCY/ IVCY投与後にAZAまたはMMF#で維持療法、MMF#、ニンテダニブ##※などを単独あるいは併用投与します(ただしPOCY/ IVCYとMMF#の併用は不可)(図2)。Limited diseaseのILD進展予測で低リスクの場合は、6~12ヵ月ごとに病勢評価を行い、進行性が確認されたら高リスクと判断して治療を開始します。

このように、初期治療薬として、免疫抑制薬、抗線維化薬のニンテダニブなどが用いられますが、各薬剤の順位づけに関するエビデンスはありません。そのため、本指針では各薬剤の順位づけはされていません。 また、いずれの初期治療薬を用いてもILDの進行が抑制できない場合は、自己末梢血幹細胞移植(auto-PBSCT)またはリツキシマブ(RTX)投与を考慮します(図2)。

# 全身性強皮症の適応は本邦未承認(2020年7月時点)
## 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の適応追加(2019年12月)
ニンテダニブはシクロホスファミド、アザチオプリンとの併用時の有効性及び安全性は検討されていません

図1

進展予測と進展リスク

図2

SSc-ILD治療のアルゴリズム

SSc-ILDの進行および治療効果の評価

SSc-ILDの進行や治療効果は、FVCやDLcoなどの呼吸機能検査の結果から評価します。また、息切れや患者報告アウトカム、HRCTの病変の広がりが参考になります。SSc-ILDの予後に関しては、肺活量の低下により治療介入を行った患者群は、呼吸器症状の出現により治療を行った患者群に比べて、長期予後は良好であることが報告されています3)。また、SSc-ILDではFVCの3~5%の変化が、自覚症状やHRCTの変化と関連するMCID(臨床的意義のある最小変化量)であることが報告されています4)

SSc-ILD治療のエビデンス

SSc-ILDに対する主な治療薬として、シクロホスファミドの経口剤および注射剤、MMF#、ニンテダニブ##などがあります(表1)

# 全身性強皮症の適応は本邦未承認(2020年7月時点)
## 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患の適応追加(2019年12月)

表1

SSc-ILDに対する主な治療薬

第Ⅲ相国際共同試験「SENSCIS試験」の結果

第Ⅲ相国際共同試験として実施されたSENSCIS試験5, 6)では、SSc-ILD患者580例をオフェブ群とプラセボ群に1:1の割合でランダムに割り付け、オフェブ150mg1日2回投与の有効性および安全性が検討されました(図3)

その結果、主要評価項目である52週間のFVC年間減少率は、オフェブ群-52.4mL/年、プラセボ群-93.3mL/年で(調整群間差41mL/年、95%CI:2.88~79.01、P=0.0350)、プラセボ群と比べてオフェブ群では呼吸機能の低下を有意に抑制することが検証されました(図4)。 本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群では288例中283例(98.3%)、プラセボ群では288例中281例(97.6%)に認められました(図5)。主な有害事象は、下痢がそれぞれ220例(76.4%)、94例(32.6%)、悪心がそれぞれ96例(33.3%)、41例(14.2%)、嘔吐がそれぞれ78例(27.1%)、33例(11.5%)などでした(表2)

重篤な有害事象は、オフェブ群では88例に認められ、主なものは間質性肺疾患、肺炎が各10例(3.5%)、呼吸困難、肺高血圧症が各5例(1.7%)、肺動脈性肺高血圧症、肺線維症が各4例(1.4%)、全身性硬化症肺、急性腎障害、気道感染、卵巣嚢胞が各3例(1.0%)でした。オフェブ群における投与中止に至った有害事象は50例、死亡に至った有害事象はオフェブ群6例に認められました(図5)

図3

SENSCIS試験概要

図4

FVC年間減少率

図5

SENSCIS試験:安全性

表2

SENSCIS試験:安全性2

下痢の管理方法

SENSCIS試験のオフェブ群において、最も頻度の高い有害事象であった下痢の管理方法を図6に示します。

高度の下痢では、脱水、電解質失調、腎機能障害などの重篤な臨床経過をたどることがあるため、速やかな対処が求められます。オフェブ投与中に下痢が生じた場合は、まず止瀉剤(ロペラミド等)、整腸剤や補液による対症療法と食事指導を行います。適切な対症療法を行っても下痢が継続する場合は、オフェブの1回あたりの用量を150mgから100mgへ減量またはオフェブを中断し、下痢が回復したら再増量または再投与を検討します。高度の下痢が継続する場合は投与中止を検討します。

図6

下痢の解決方法

今後の展望

最近、SSc-ILDに対し、ニンテダニブなどの有用性が明らかとなり、さらに複数の新規分子標的薬の臨床試験が進んでいます。今後、高いエビデンスを有する薬剤が保険診療下で使用できることが強く望まれます。これまでSSc-ILDに対しては免疫抑制薬を中心とした治療が行われてきましたが、第Ⅲ相国際共同試験(SENSCIS試験)でニンテダニブのSSc-ILDに対する有用性が示され、2019年にSSc-ILD治療薬として承認されたことで、肺線維化を標的とした治療が可能となりました。SSc-ILD診療においては、治療アルゴリズムに基づいた適切な治療介入が重要であり、ニンテダニブは有用な治療選択肢のひとつになると考えています。

<文献>

1)日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020 作成委員会編. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020, 日本呼吸器学会・日本リウマチ学会, メディカルレビュー社, 東京, 2020
2)Goh NS, et al. Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 1248-1254.
3)Abhishek A, et al. Clin Rheumatol 2011; 30: 1099-1104.
4)Kafaja S, et al. Am J Respir Crit Care Med 2018; 197: 644-652.
5)Distler O, et al. N Engl J Med 2019; 380: 2518-2528. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
6)承認時評価資料

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