不整脈非薬物治療ガイドラインを加味したアブレーション周術期抗凝固療法

サイトへ公開: 2022年02月28日 (月)

櫻井 聖一郎 先生さっぽろ不整脈クリニック 院長
櫻井 聖一郎 先生
2021年10月8日 オンラインにて開催

不整脈非薬物治療ガイドラインは2018年に改訂版が発表されたが、その後も不整脈非薬物治療に関する数多くの重要なエビデンスが国内外で報告され、新たな治療概念も登場した。このような背景を受け、特に進捗が顕著である領域に焦点を当てて発表されたのが「2021年日本循環器学会(JCS)/日本不整脈心電学会(JHRS)ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療」(以下、本ガイドライン)である。本インタビューでは、提携医療機関と連携し、心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下、アブレーション)を実施されている、さっぽろ不整脈クリニック院長の櫻井聖一郎先生に、本ガイドラインを加味した今後のアブレーション周術期抗凝固療法について伺った。

Contents

心不全合併 Q1 心不全を合併している心房細動患者さんに対して、アブレーションを積極的に検討するべきでしょうか?
早期介入 Q2 早期の洞調律維持は積極的に行うべきでしょうか?
周術期抗凝固療法 Q3 アブレーション周術期における抗凝固療法についてお聞かせください。
抗凝固薬の選択 Q4 アブレーション施行予定のない心房細動患者さんにダビガトランを選択する際の理由についてお聞かせください。
アブレーションに適した患者像 Q5 アブレーションを積極的に施行することが望ましいと思われる患者像についてお聞かせください。
今後の期持 Q6 アブレーション治療における今後の期持についてお聞かせください。

Q1
心不全を合併している心房細動患者さんに対して、アブレーションを積極的に検討するべきでしょうか?

A1
心不全合併心房細動患者さんには、アブレーションを積極的に選択した方が良いと考えられるエビデンスが報告されています。ただし、心機能の著しい低下あるいは全身状態が悪化している患者さんに対しては、アブレーションの適応を慎重に検討する必要があります。

●アブレーションによる洞調律維持の必要性
心不全合併心房細動患者さんに対し、アブレーションと薬物治療(レートコントロールおよびリズムコントロール)を比較した6つのランダム化比較試験(RCT)のメタ解析において、アブレーション群では全死亡率および心不全入院率の低下が報告されています1。このようなエビデンスから、本ガイドラインでは「低心機能を伴う心不全(HFrEF)を有するAF患者の一部において、死亡率や入院率を低下させるためにカテーテルアブレーション治療を考慮する」ことが推奨クラスⅡaで記載されています(表1)2

 心不全合併心房細動患者さんは、心房細動の症状を訴えないことも多く、アブレーションの主目的は予後の改善となります。心不全が進行すると心房細動は悪化しやすく、その一方で、心房細動が心不全の進行を招きます。このような悪循環を断ち切るためには長期に渡って洞調律を維持することが必要となります。心機能が低下した患者さんでは薬物治療に限界があるため、心不全合併心房細動患者さんに対してはアブレーションを積極的に選択した方が良いと考えます。

●アブレーションの適応を慎重に検討すべき患者さんとは
心機能が著しく低下した患者さんはアブレーション自体のリスクがあることは認識しておく必要があります3。胸水の貯留が認められたり、急性増悪期など心臓や全身の状態が悪化している患者さんは、薬物療法を行い、状態を安定させてから、アブレーションを行うことが大切です。このように、心機能が著しく低下している患者さんや全身状態が悪化している患者さんに対しては、アブレーションの適応を慎重に検討する必要があります。

B+_櫻井先生_表1

Q2
早期の洞調律維持は積極的に行うべきでしょうか?

A2
EAST-AFNET 4研究の結果が本ガイドラインに引用され、長期予後の改善の視点から、早期の洞調律維持を積極的に行う意義が示されました。洞調律維持を目的として、より早期からの治療介入が重要です2-4)

●早期の洞調律維持の重要性
心房細動が繰り返されることで心筋の変性が進み、さらに心房細動が発生しやすくなります。2020年に発表された早期のリズムコントロールの有用性を検討したEAST-AFNET 4研究では、通常治療群に比べて、早期のリズムコントロール群で早期の洞調律維持による患者さんの予後改善が示されました(図1)5。心房細動患者さんの長期予後の改善のためにも、早期の洞調律維持は積極的に行うべきだと思います。

●無症候性心房細動の場合もアブレーションを検討
はじめて診断された心房細動のうち約半数は、一過性で再発しないことが知られています6)。しかし、心房細動が2回確認された場合は、たとえ無症候性であっても脳梗塞のリスクを考慮し、アブレーションを検討するケースがあります。心房細動患者さんは、症状の有無にかかわらず、なるべく早期に専門医に紹介いただき、適切な治療を選択していくことが大切です47 。なお、心房細動の早期発見のためには、患者さんに就寝時と起床時の自己検脈を勧めたり、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)を定期的に検査することなどが役立ちます6

B+_櫻井先生_図1

Q3
アブレーション周術期における抗凝固療法についてお聞かせください。

A3
アブレーション周術期の抗凝固療法として、ダビガトランを継続投与することが、本ガイドラインで推奨クラスI・エビデンスレベルAで記載されています。

●アブレーション周術期におけるエビデンスのある薬剤を選択
本ガイドラインでは、アブレーション周術期の抗凝固療法について、DOACの中でダビガトランを投与されている患者さんは、ダビガトランを継続してアブレーションを施行することが推奨されています(推奨クラスⅠ、エビデンスレベルA、表2)2
 この根拠となったのが、ダビガトランのアブレーション周術期における継続投与の安全性および有効性を検討したRE-CIRCUIT試験の結果であり、ダビガトラン継続群はワルファリン継続群に比べて、出血リスクが有意に減少し(図2)8、血栓塞栓症のリスクは同程度であることが示されました。

●アブレーション周術期にはダビガトランの処方を検討
当院ではガイドラインに基づいた治療を実施しています。退院後のダビガトランの継続有無については、患者さんの希望を考慮しつつ、かかりつけ医の先生方と相談しながら決定します。
ダビガトラン投与時は消化器症状に注意をしていますが、食事中に服薬するよう伝えるなど、適切な服薬指導を行うことで、消化器症状が軽減することを経験しています。

B+_櫻井先生_表2B+_櫻井先生_図2

Q4
アブレーション施行予定のない心房細動患者さんにダビガトランを選択する際の理由についてお聞かせください。

A4
選択する理由として、大規模臨床試験で得られたエビデンス、そのエビデンスを裏付ける作用機序、ダビガトランの特異的な中和剤の存在が挙げられます。

●大規模臨床試験の結果を考慮
脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動患者18,113例を対象に、ダビガトランのワルファリンに対する有効性および安全性を検討したRE-LY試験において、脳卒中/全身性塞栓症の発症率は、ダビガトラン150mg×2回/日群および110mg×2回/日群でワルファリン群に対する非劣性が認められ、150mg×2回/日群では優越性が認められました(図3)911。また、出血性脳卒中の発症率は、ワルファリン群に比べてダビガトラン150mg×2回/日群および110mg×2回/日群で有意に低下することが示されました(図4)911

B+_櫻井先生_図3B+_櫻井先生_図4

●直接トロンビン阻害剤の特徴
RE-LY試験で得られた結果を検証するために、第Ⅶ因子への影響についてサブスタディが行われています。出血時には組織因子に第Ⅶ因子が結合することで、「外因系凝固反応」が開始され、止血に至ります。トロンビンは、この「外因系」へのポジティブフィードバックが弱いことから、ダビガトラン投与下においても第Ⅶ因子への影響が少ないことが報告されています(図5)1213。このような特徴から、脳内出血やアブレーションなどの侵襲的手技時に出血が発現した場合でも、ダビガトラン投与下では活性化第Ⅶ因子と組織因子により開始される生理的止血反応が維持され、出血が起こりにくいことが論文中に考察されています813
また、ダビガトランは、特異的中和剤であるイダルシズマブがあり、万一、出血が生じた際も、速やかに抗凝固作用を中和することができます。

B+_櫻井先生_図5

Q5
アブレーションを積極的に施行することが望ましいと思われる患者像についてお聞かせください。

A5
アブレーションに適した患者像として、心房細動の症状が強い患者さん、脳梗塞のリスクが高い患者さん、徐脈頻脈症候群でペースメーカー植え込みの必要な患者さんが挙げられます。

●アブレーションに適した患者像
心房細動の症状が強い患者さん、糖尿病や高血圧などのため脳梗塞リスクが高い患者さんはアブレーションを積極的に施行することが望ましいと考えます(図6)2。徐脈頻脈症候群の患者さんの場合、頻脈すなわち心房細動の治療により徐脈が起こらなくなり、ペースメーカー植え込みを回避できる可能性があります(図6)6

B+_櫻井先生_図6

Q6
アブレーション治療における今後の期持についてお聞かせください。

A6
持続性心房細動に対する新たな治療法の開発に期持しています。

●アブレーション技術の向上と今後の課題
 アブレーションの安全性は技術の向上により高まっており、アブレーション施行翌日から日常生活を送ることが可能になってきました。その一方で、持続性心房細動に対するアブレーション治療は難渋することが多く、根治率も高いとは言えないため、今後、新たな治療法が開発されることを期待しています。

文献

  1. Turagam MK, et al. Ann Intern Med 2019; 170: 41-50.
  2. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf(2021年12月閲覧)
  3. Cheng EP, et al. J Am Coll Cardiol 2019; 74: 2254-2264.
  4. Chew DS, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol 2020; 13: e008128.
  5. Kirchhof P, et al. N Engl J Med 2020; 383: 1305-1316.
  6. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf(2021年12月閲覧)
  7. 日本循環器学会・日本糖尿病学会合同委員会:糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント
    http://j-circ.or.jp/old/topics/files/jcs_jds_statement.pdf(2021年12月閲覧)
  8. Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
  9. Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151.
  10. Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2010; 363: 1875-1876.
  11. Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2014; 371: 1464-1465.
  12. Jesty J, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2005; 25: 2463-2469.
  13. Siegbahn A, et al. Thromb Haemost 2016; 115: 921-930.
    8)、9)、10)、11)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。
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