不整脈非薬物治療ガイドライン スペシャルインタビュー~松尾 征一郎 先生

サイトへ公開: 2020年10月09日 (金)

特異的中和剤プリズバインドを有するプラザキサの 心房細動カテーテルアブレーション周術期における有用性

より安全にアブレーションを行うために紹介元の先生方に知ってほしいこと01

松尾 征一郎 先生

杏林大学医学部 循環器内科 准教授
2023年8月30日 東京にてインタビュー実施 

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

当院でカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を施行する患者さんの8割以上は心房細動患者さんで、平均年齢は約65歳、平均CHADS2スコアは約1.5点です。腎機能については、クレアチニンクリアランス50mL/min以上の方が90%以上を占めています。アブレーションを施行する患者さんの年齢の上限は80歳を目安としていますが、心房細動の症状による困窮度が高く、QOLが著しく低下しているような場合では、80歳を超えていてもアブレーションを施行することもあります。また、当院でアブレーションを行う予定の患者さんの施行までの平均待機期間は約3ヵ月で、その間に2~3回は外来受診していただいています。そのため、心房細動の病態、アブレーションによる治療方法や治療のメリット、デメリットなどについて、複数回にわたり説明することができます。待機期間を利用して病気や治療法について理解を深め、医師との信頼関係も構築することで、患者さんが前向きに治療に取り組んでもらえるようになると感じています。

ダビガトランの開発経緯

ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図1)。 

※1投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標 

図1

ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図2)。

図2

こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されており1,2,3、高齢になるとPPIを服用していなくても胃内のpHが上昇するケースも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ

アブレーション周術期の血栓塞栓症や出血性合併症を防ぐためにも、適切な抗凝固療法を行うことは重要です。抗凝固薬の1つであるダビガトランには、さまざまなエビデンスがあり、RE-CIRCUIT試験、本邦で行われたABRIDGE-J試験では、アブレーション周術期におけるダビガトラン投与の有効性が示されています(図3)。

図3

このたび改訂された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下、ガイドライン)には、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています(図4)。ガイドラインでの記載内容に加え、ダビガトランには特異的中和剤であるプリズバインドがあることから、ダビガトラン継続下での周術期抗凝固療法は治療戦選択肢の1つであると考えています。

図4

より安全にアブレーションを行うために紹介元の先生方に知ってほしいこと

アブレーションは侵襲的な手技であるため、周術期の合併症には注意が必要です(図5)。

図5

特に、アブレーション施行後1ヵ月程度までは遅発性出血性合併症が起き得ることを、アブレーションを施行されない先生方にも知っていただき、一緒に患者さんを丁寧にフォローさせていただければと考えています。アブレーションという治療法は広く認知されてきており、今後は合併症や対策に関しても啓発する必要があると思います。患者さんを紹介いただくことが多いクリニックの先生方にも、遅発性出血性合併症を含めた合併症への対策、ガイドラインでの推奨などについて知っていただくことで、より安全に患者さんがアブレーションを受けられる環境が整っていくようになると考えます。

文献

  1. 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
  2. Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
  3. Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
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