不整脈非薬物治療ガイドライン スペシャルインタビュー 山内 康照 先生

サイトへ公開: 2021年01月13日 (水)

心房細動カテーテルアブレーション周術期に用いる抗凝固薬は、ガイドラインでの推奨や中和剤の存在を考慮して選択

(2019年7月27日 横浜にて実施)

アブレーション周術期はガイドラインでの推奨や中和剤の存在を考慮してプラザキサに変更01

山内 康照 先生

横浜市立みなと赤十字病院 循環器内科 部長

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

当院では、カテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を600件以上施行しており、そのうちの約70%は心房細動に対する治療です。また、当院でアブレーションを施行する心房細動患者さんは、他の医療機関から紹介されてくる方が多いのが現状です。医師会の研究会や講演会などを通じて心房細動に対するアブレーションの有用性が地域の医療機関の先生方にも広く認識されるようになり、特にご開業している先生方からアブレーション目的で紹介いただくケースが増えています。アブレーションの適応については、年齢のみで判断すべきではないと考えており、患者さんの健康状態や症状によって判断しています。また、最近は、脳梗塞の二次予防例に対しても、脳梗塞再発リスク低下を目的としてアブレーションを行うケースが増えています。

アブレーション周術期の合併症を防ぐためにも適切な抗凝固療法を行うことが重要

アブレーション周術期に注意が必要な合併症として、心タンポナーデや左房食道瘻などがあげられますが、われわれが最も注意しているのは脳梗塞です。脳梗塞の発症を防ぐためには、出血リスクを考慮しつつ、有効な抗凝固療法を行うことが重要です。このたび8年ぶりに改訂された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下、ガイドライン)には1)、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています。アブレーション周術期の血栓塞栓症や出血性合併症のリスクを可能な限り減らすためにも、ガイドラインに則った抗凝固療法を行うことは重要だと考えます。

アブレーション周術期はガイドラインでの推奨や中和剤の存在を考慮してプラザキサに変更

プラザキサには複数のエビデンスがあり、RE-CIRCUIT試験2)、ABRIDGE-J試験3)では、アブレーション周術期のプラザキサ継続投与、短期休薬(1〜2回)を伴うプラザキサ投与による安全性と有効性が示されています。加えて、プラザキサには特異的中和剤であるプリズバインドがあり、万一、合併症が発現した場合も抗凝固作用を速やかに中和することが可能です。また、プリズバインドの大きな特徴として、『プラザキサにしか作用しない』 『凝固亢進作用がない』 『投与から24時間後にはプラザキサの投与再開が可能』といった点があげられます。当院では、こうしたエビデンスの蓄積、ガイドラインでの推奨、中和剤の存在を踏まえて、アブレーション施行予定の患者さんでプラザキサ以外の抗凝固薬が投与されている場合は、入院前の外来受診時にプラザキサに変更しています(図)。なお、プラザキサの用量は、RE-LY試験4,5)を参考に、虚血性脳卒中の発症抑制においてワルファリンに対する優越性が唯一認められた150mg×2回/日を可能な限り選択しています。退院時も遅発性出血性合併症の発現を考慮して、私は、中和剤のあるプラザキサの処方を継続するようにしています。

近年、デバイスの進歩や技術の向上などによって、アブレーションの適応が広がっており、ガイドラインでは、症候性再発性発作性心房細動の場合、第一選択としてアブレーションを施行することがクラスⅡa、レベルBで推奨されています。持続性および長期持続性心房細動に対しても、症候性で再発を繰り返す場合は第一選択としてのアブレーションが妥当とされています。また、無症候性心房細動については、症候性心房細動よりも予後が悪いという報告もあるため、今後、アブレーションが有用というエビデンスが創出されることを期待しています。このように、アブレーションの適応となる患者さんがその機会を失わないようにするためにも、地域の医療機関の先生方に向けて、今後さらにガイドラインの推奨内容などを普及させていく必要があると考えています。

アブレーション周術期はガイドラインでの推奨や中和剤の存在を考慮してプラザキサに変更02

文献

1) 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
2) Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
3) Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.
4) Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151.
5) Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2010; 363: 1875-1876.

2)~5) はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。

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