患者像別 最新ガイドラインから考える抗凝固療法 第3回

サイトへ公開: 2021年03月31日 (水)

アブレーションを施行予定の患者さん
ご監修:岩﨑 雄樹 先生(日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 准教授)

ご監修:岩﨑 雄樹 先生(日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 准教授)

このような非弁膜症性心房細動(AF)患者さんにどのような治療を行うか、最新のガイドラインをもとに考えていきましょう。

最新ガイドラインから考える抗凝固療法

自覚症状があるAF患者さんに対し、不整脈非薬物治療であるカテーテルアブレーション(以下、アブレーション)の重要性が高まっています。
近年、本邦でのアブレーション施行数は増加しており、今回のような自覚症状があるAF患者さんに対する治療方針を考える際には、アブレーションという選択肢も考えます。

最新ガイドラインから考える抗凝固療法

●アブレーションの治療効果:

アブレーションは、その治療効果を抗不整脈薬と比較検証した、近年のランダム化比較試験のメタ解析の結果、治療介入1年後の洞調律化率が、抗不整脈薬による治療と比べ、高いことが示されています。

アブレーションの治療効果

●アブレーションの位置付け:

『不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版』では、症候性発作性AF症例に対して第一選択としてのアブレーション治療が推奨されています。
こうしたことから、今回の患者さんには、アブレーションの施行が良い選択肢と考えられます。

アブレーションの位置付け

●アブレーションの合併症:

一方、アブレーションは、有効性の高い非薬物治療ですが、侵襲的処置であることから、出血リスクと血栓塞栓症リスクがともに高い手技であることが知られており、合併症を予防するために適切な抗凝固療法・薬剤選択が求められます。
『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』でも、「心房細動アブレーション」は「周術期の適切な抗凝固療法がきわめて重要である」と記載されています。

アブレーションの合併症

アブレーション施行時に注意すべき合併症に心タンポナーデなどの出血イベントや脳梗塞などの血栓塞栓イベントがあります。我が国で実施されたAFアブレーションの大規模観察調査であるJ-CARAFレジストリーでは、心タンポナーデなどの重篤な出血性合併症が約1%に報告されています。また、頻度は少ないものの患者さんの予後に影響する脳梗塞も報告されています。

アブレーションの合併症

●アブレーション周術期の抗凝固療法:

それでは、アブレーション周術期の抗凝固療法はどう考えればよいでしょうか。『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』では、「心房細動アブレーション施行時のワルファリンまたはダビガトラン継続」が推奨クラスI、エビデンスレベルAで、「心房細動アブレーション施行時のリバーロキサバンまたはアピキサバンまたはエドキサバン継続」がクラスⅡa、エビデンスレベルBで、それぞれ推奨されています。

まとめ

・症候性発作性心房細動に対しては、カテーテルアブレーション治療が第一選択となる
・アブレーション周術期は出血、血栓塞栓症を回避するために、適切な抗凝固療法が重要である
・『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』では、心房細動アブレーション施行時のワルファリンまたはダビガトラン継続がクラスⅠ、エビデンスレベルAで推奨されている

RE-CIRCUIT試験
●試験概要:

ここからは、ガイドラインの推奨の根拠となったプラザキサのRE-CIRCUIT試験を紹介します。RE-CIRCUIT試験では、アブレーションの施行が予定された非弁膜症性心房細動患者を対象に、プラザキサ継続群またはワルファリン継続群に割り付け、アブレーション開始から施行後8週までの安全性と有効性を検討しました。

試験概要03試験概要04

●大出血:

主要評価項目であるアブレーション施行から施行後8週におけるISTH基準による大出血の発現率は、ワルファリン継続群6.9%、プラザキサ継続群1.6%であり、有意にプラザキサ継続群で大出血が少なく、ハザード比は0.22でした。

大出血

●副次評価項目:

血栓塞栓性イベントは、ワルファリン継続群でTIAが1例に発症し、プラザキサ継続群では0例でした。小出血は、ワルファリン継続群で17.0%、プラザキサ継続群で18.6%に発現しました。大出血と血栓塞栓性イベントの複合イベントの発現は、ワルファリン継続群で7.2%だったのに対し、プラザキサ継続群では1.6%でした。

副次評価項目

●安全性:

本試験における全ての有害事象の発現率は、プラザキサ継続群225例(66.6%)、ワルファリン継続群242例(71.6%)でした。
重篤な有害事象の発現頻度、発現頻度が1%以上の有害事象、投与中止に至った有害事象はご覧のとおりでした。なお、両群で試験期間中の死亡は報告されませんでした。

安全性04

プラザキサ服用中の出血への対応
●プリズバインド投与理由:

プラザキサ服用中の出血では、特異的中和剤プリズバインドが使用可能です。プリズバインドの使用成績中間集計結果では、プリズバインド投与理由の約6割が、緊急手術前または外的要因(外傷や侵襲的な手技)が示唆される出血時の中和でした。

プリズバインド投与理由

●出血への対応:

『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』にはAF患者における抗凝固療法中の活動性出血への対応が記載されています。DOAC、ワルファリンのいずれも、中等度から重度の出血では休薬や止血措置、循環動態の安定化を図り、中和も考慮します。早急にダビガトランの効果を是正する必要がある場合のイダルシズマブ(プリズバインド)の投与はクラスⅠ、エビデンスレベルBで推奨されています。

出血への対応

●プリズバインドの薬物動態:

本ガイドラインでは、プリズバインドの中和効果について、「投与後1分以内にダビガトランの抗凝固作用は迅速かつ完全に中和され、持続的に約24時間効果が持続する」と記載されています。

プリズバインドの薬物動態

※ガイドライン発行時に未承認だったandexanet alfa(アンデキサネット アルファ)が2022年3月28日に承認されました。

プラザキサはアブレーション周術期の継続投与の有効性がRE-CIRCUIT試験により証明されています。また、万一のイベント発現時、特異的中和剤プリズバインドで対処可能なDOACです。アブレーションを施行予定の患者さんの抗凝固療法として、プラザキサは良い選択肢といえるでしょう。

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